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 そこからは、コウヨウちゃんが起きてくるまで休憩となった。

 休憩となった、んだけども。


「おう、俺だ。お前、弁護士だったよな。……うん、仕事を――」

「社長。休日なのにすいません。小さい女の子モデル探してたじゃないですか――」

「持ってる服が未知数だから、一度彼女の家に行きたいね」

「これが彼女の数日分の服装なんだけど、参考になる?」

「ヨウタさん流石。……よし全部買い換え。何だこの首元よれまくりの服は!」

「でもそもそも、あの肌の荒れ具合からすると、食生活の改善から――」


「なんか、すごいな」

「うん」

 もう既に社会人として働いているからか、4人の動きは速かった。しれっとヨウタさんも混じっている。

 椿さんは知り合いの弁護士に電話しているようだし、レッドは社長さんらしい。え、コウヨウちゃんをモデルにするの?

 イエローとブルーとヨウタさんはなんかファッション雑誌を広げて会議だ。正直、全くついて行けない。

 完全にやることのない俺と、やることは終わったよーへいさんはお茶を飲んで待っていた。

「えと……これは一体……?」

 そこに怯える小動物のように恐る恐ると言った様子でコウヨウちゃんが現れた。

「コウヨウちゃん!!」

「よかったああああ!!」

 電話している椿さんとレッドがほっと顔を緩め、ヨウタさんとイエローが抱きつきに行って、ブルーも歩み寄る。

 休憩所の奥に座ったが為に、完全に出遅れた俺は少々離れたところで見守る羽目になった。

「え、あの、私、なにが」

 左右から抱きついてくる2人におろおろとしたコウヨウちゃんは、近くのブルーではなく俺に困惑の顔を向けてくる。

「えーと、いきなり倒れたのは覚えてる?」

「は、はい」

 なんで俺なんだろう? まぁ正直頼られて悪い気はしない。

 とりあえずどこまで覚えているかを確認しつつ、ブルーと一緒に2人を引き剥がしてコウヨウちゃんをソファに座らせる。

 暖房が付いているとはいえ少し冷えるからか、座った彼女の肩にストール。膝にはブランケットが掛けられた。手厚い。

「ここはレッドたちのバイト先で、ベッドを貸してくれるって事になったから移動したんだ」

「あ、リュックを適当に置いちゃったから、中身が無事か確認して。お財布の口開いてない?」

 俺の説明にイエローが追加する。鞄はよーへいさんが渡した。

 慌ててコウヨウちゃんが確認して、大丈夫だと頷く。財布の口が開いて小銭が飛び出しているのは、ゲーマー女子あるあるのようだ。ポケットに直接入れている男にはない発想だった。

「それで、たまたまなんだけどコウヨウちゃんのお兄さんが働いてて」

「え」

 コウヨウちゃんが固まった。

「小夜」

 椿さんの呼びかけに、コウヨウちゃんは素早くストールを被る。まるで隠れるように。

 止める間もなく椿さんの手がストールを引っ張る。コウヨウちゃんは必死に掴んで顔を隠す。

「その反応! お前なんかやらかしたやろ!」

「やらかしてへん! なんもない! へーきですぅ!」

「平気な奴が隠れるかい! 言え! バイト先で実は強盗倒したとか別に驚かんから!」

「なんで知っとんの!? あのクソ店長、家族には言わん言うてたのに!」

「やっぱクソか! 店長、全部自分の手柄にしとったで!」

「はぁ!? ざっけんな! 警察は何やっとんねん! 供述聞いたらうちがやったってわかるやろ! こっちの警察も信用ならんな! 仕事しろや!!」

「警察もそのうちわかるやろ。そんなことより、名誉毀損で訴えるぞあのクソ。忍田に連絡した」

「わーい、説教追加や! 堪忍して!!」

「隠しとった罰や! 頼れや!!」

「やって、言うたらバイト辞めさせられるやん! クビなったけど!」

「せやな! てかお前、他にもあるやろ! なんで半年でこんなにぶっちゃくなんねん!! 俺の可愛い可愛い小夜ちゃんはどこいってん!」

「ここにいますぅ!! 生活費切り詰めたらこうなっただけですぅ!」

「なんて?」

「あ」

 俺たちも口を挟めない怒濤の兄妹トーク。関西弁のコウヨウちゃんが新鮮だし、そもそもこんなに元気な彼女は初めてだ。

 だけど彼女は彼女だった。いつも通り、口を滑らせた。

 椿さんが低い声で問う。それは俺たちの心の声でもあった。

 恐る恐るコウヨウちゃんがストールから顔を出す。椿さんはもうストールを取り上げようとはしなかったが、腕を組んで笑顔で彼女を見下ろしている。

 たぶん、俺たちも同じような顔をしていた。

 やっぱり助けを求めるように俺に顔を向けるコウヨウちゃんに、俺は微笑む。

「そこんとこ、詳しく教えて?」

 コウヨウちゃんはまたストールに隠れた。



 一問一答形式で話を聞いてみたところ、これまた酷い話が飛び出してきた。

 無駄に高い化粧品を買わされていた上に、浮気相手の化粧品まで買わされていたとか。それでお金がなくなり、電気代を止めてたとか。飯がずっと菓子パンとか。

「あそこの基礎化粧水を、コウヨウさんの肌に……? 見るからに乾燥肌の人にあそこ勧める……? はぁ……?」

 メイクアップアーティスト見習いのブルーが静かにキレている。よっぽどコウヨウちゃんの肌には合わないメーカーだったらしい。

「よーへい。そいつぶん殴る策、考えろ」

「私たちいくらでも手伝うよ」

「物理で殴る方法なんてないから、そこは期待しないでね」

 頼まれたよーへいさんがさらりと返してるけど、考えはするらしい。タブレットとキーボードを取り出して何やら叩き出した。

 コウヨウちゃんは皆の様子をなんだか不思議そうに見ていた。

「大丈夫?」

 質問攻めで疲れもしただろう。心配になって声を掛ける。

 彼女は俺の方に向いて、こくんと頷いた。

「みんな、お前が心配なんだよ」

 少し席を外していた椿さんが戻ってきて、コウヨウちゃんにマグカップを差し出した。中身はミルクティーのようだ。

「……うち、そんな心配される人間ちゃうで」

「そうなの?」

 受け取ったコウヨウちゃんが出した卑屈な言葉に、反射的に返してしまった。

 そしたら何を言っているんだこの人って感じでまじまじと顔を見られた。なんでだよ。

「あのさ。少なくとも俺には、助けが必要な小さな女の子にしか見えないよ。

 橋から落ちようとしてたし」

「その節はすいませんでした!」

「俺聞いてないよ、それ」

「そうだそうだ、お兄さん。とんでもない爆弾の内容説明しますね」

「ヨウタさんっ!!!!」

「そもそも私たちの出会いがですね――」

 ヨウタさんが事情説明に椿さんをスタジオの方へと移動し、『ハラペコナンジャー』の3人もついていく。

 コウヨウちゃんは追いかけようとしたけども、手に持ったマグカップを置こうにもローテーブルの上には雑誌が広げられて、置くスペースがない。

 わたわたしている彼女に思わず笑ったら、拗ねられた。

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