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 俺がよく行くゲームセンターは、熱が籠もる関係とかでアーケードゲームコーナーが吹き抜けになっている。

 その広い壁を利用して、現在稼働中のアーケードゲームの中から、日替わりで巨大スクリーンにプレイ画面を映すという謎の行為が行われていた。


 俺は今、その巨大スクリーンで奇跡を見ている。


 ステージは砂漠。遮蔽物のないフィールドはスナイパーの得意とするところ。

 蒼チームのスナイパーは蒼陣近くの高台を占拠して、姿を隠すこと無く赤チームを威嚇している。

 敵陣に近いというのにスナイパーのせいで近付くことが出来ず、赤チームジリジリと自陣へと押し込まれていた。

 あのスナイパーさえいなければと、誰もが思ったとき。


【Blue04、Retire】

『おおーっと! ここで蒼チームのスナイパーが墜ちた!! 落としたのは赤の3番だ!!』


 その無機質なアナウンスと、実況の声が響き渡った。

 俯瞰図の動きから、突然のリタイアに蒼側が慌てたのが分かる。

 観客は俯瞰図で見ているから誰が撃ったのか分かるが、蒼側は全然わかるまい。彼女はスナイパーを狙撃するとすぐに味方の影に戻ったのだから。


「戦闘開始のあの無駄撃ち、まさかフェイク……?」

「……違う。調整したんだ」

「いやいやいや、無理だろ!? ここ砂漠だぞ!?」


 隣にいた顔見知りの唖然とした呟きを俺は静かに否定する。

 驚くのも無理はない。俺だって今見ている光景が信じられない。

 でも確かに、彼女は俺の機体で戦場を駆けている。

 そして今。味方の後方から、蒼のリーダーとおぼしき機体の頭を撃ち抜いた。


『なんとーぉ!? 味方の間の僅かな隙間から、蒼の2番をヘッドショーット!!』


 驚く実況者と、歓声を上げる観客達の中、俺は彼女のことを想う。おそらく今頃、無茶な狙撃をしてしまったと味方に平謝りしているだろう。


「……やっぱスナイパー向いてるよ、キミ」


 俺の呟きは、奇跡のショットに沸いた観客の声にかき消された。


 ****


 ネット対戦型ロボットアクションゲーム、《紅蒼(こうそう)のヴァルフリーク》。通称、紅蒼。

 アーケードゲームの一種で、でっかいロボットを操縦して遊ぶゲームだ。

 まるで自分がロボットに乗って操作しているように感じるコックピットタイプ。攻撃した際の反動だとか、攻撃を受けたときの衝撃だとかで座っている椅子が揺れるので、臨場感が半端ない。

 アーケードゲームとしてはそこそこ人気だ。

 リプレイ機能を搭載しているだけで無く、状況を俯瞰図で確認できて反省会が出来る事がひとつ。

 提携している動画投稿サイトに個人アカウントを持っていれば、対戦時の自分の画面をネットに上げたり出来るのもひとつ。

 そして、MVPポイント制度。ネットに上げられた動画や大会での生放送などで、上手いと思ったチームや個人へMVPを送ることができて、MVPの累計によってアイテムを貰えるのだ。大抵が効果の無いおしゃれアイテムだが、三桁になると効果付きのアイテムが貰えるから、ネットにはそこそこな量の動画や、解説付き動画が上がる。

 それらの理由から、人気がそこそこあると俺は判断している。個人の見解です。

 実際ゲームセンターに行くと順番待ちが必ずあるので、あながち外れてないんだろうなと思う。


 今日もいつものゲーセンに着いたら、まず千円分を硬貨に両替。それを財布に入れながら紅蒼のスペースに向かった。


『蒼の近接に赤の格闘が殴り込む! やはり市街地では格闘機が有利だ!』


 いつもの実況者の声が聞こえて、壁を見上げる。スクリーンには市街地戦の様子が映っていた。今日はスクリーンデーだったか。

 このゲーセンではデモ画面代わりにしているのか、こうして現在のプレイ画面を映される。紅蒼の場合は戦場の俯瞰図と、接近戦になったらその辺りのアップが映される。置いてある筐体の一つが、強制的に実況モードとか言う大会で使われる特殊なモードになっているらしい。

 一応スクリーン筐体か否かを選べるが、他のゲームならいざ知らず、紅蒼では誰がどの機体かはプレイヤーにしか分からないので、気にしないでプレイ待機名簿に名前を書き、どちらでもよいに丸を付けた。

 何人待ちかを数えながら名前を見れば、見事に見知った名前ばかりだ。会話したことがあるのは数名だが。

 チームメイトの名前も見つけたので店内を見回して姿を探すと、向こうが先に俺に気付いて手を上げた。俺も手を上げて返しながら近付いていく。

 背が高い男がよーへいさん、俺より背の高い女性がヨウタさん。そして俺はタイヨウ。チームメイトではあるが、本名は知らない。というかプライベートで知っているのは家族構成ぐらいだ。

 ゲームのチームメイトなんてそんなもんだろう。それでも仲は良い方だと思う。

「よーっす」

「ちわー」

「よう」

 適当な挨拶を交わして、よーへいさんの隣に立つ。ステージはビルが多く建ち並ぶ市街地B。どうやら赤チームが優勢のようだ。

 紅蒼のヴァルフリークは、四人一組で赤と蒼に分かれて戦う。相手の陣地の中にあるコアを壊すか、相手のエネルギーを削りきった方の勝ちという、単純だがその分戦略の幅が広いルールだ。

 エネルギーは撃墜後、再出撃時に消費される。機体によって消費エネルギーは異なり、レア度の高い機体や装備を使っていると増えていく仕様になっている。

「蒼、意思疎通できてないな? 野良の集まり?」

 チームによってコアを狙うのか、撃墜数を稼いで削りきるかは違うので、チームじゃなくても戦闘開始前に最低限の意思確認はするもんだ。そのために三分ほど待機時間が設けられている。

 野良とはチームを組んでいない人間のことで、ソロともいう。

「いや、チームみたいだよ。さっき四人揃って入って行くのを見た」

「チームでこの統率力の無さは酷いな」

 今、蒼チームは見事にバラバラだった。一機落とされたようで、蒼の陣地から走って向かっているのがいる。

 蒼の近接機と赤の格闘機二機が戦闘中。蒼の一機が助けに行こうとするのを赤の二機が阻止する。もう一機の近接機は助けに行こうとせずに敵陣に走っているが、エネルギー残量を考えると今どれかの味方機が落とされたら負けである。そしてコアを削りきるよりも先に墜ちることは簡単に予想できた。

 これでチームだとしたら、今日限りで解散だろう。

 走ってきている遠距離砲撃機は、途中で諦めたのか敵の位置が見えるがロックオンは出来ない位置に止まった。

 もう消化試合だ。見る価値もないので携帯端末に目を落とすと、花火のような音が聞こえてきた。

「……砲撃音?」

「だね」

 蒼の近接機と赤の格闘機のアップ画面から砲撃音が聞こえる。とりあえず戦闘に参加しているアピールだろう。

 無駄なことを。印象が悪くなるからやめとけ。多分、誰もが俺と同じ事を思ったはずだ。

「「……え?」」

 だから、その光景は驚くしかなかった。


『な、な、なんとぉ~~!? 蒼の砲撃機の攻撃が偶然にも赤の格闘機の右肩にヒット! 赤の格闘機、右腕を失ったぁ!!

 そしてその隙を見逃さずに赤の格闘機のヘッドにサーベルが突き刺さる!

 さらに、砲弾はまだ止まらないぞ~!? 連続砲撃に、たまらずビルの裏に隠れたもう一機の赤の格闘機の頭にクリーンヒット! 一発K.O.! 撃墜だ!!』


「なにこれ……」

「ロックオンの距離を伸ばせるアイテムでもあったか……?」

「ないない! あるわけないよ、そんなチートアイテム!」

「じゃあ、ロックオンしないで曲射してるってのか!?」

 一機目はもしかしたら狙って当てたのかもしれない。ロックオンしなくても敵の位置が見えていれば、後は飛距離を計算するだけで曲射だろうと当てられる。俺には無理だが。

 しかしビルに隠れた二機目は、狙ったとしたら神業だ。曲射はただでさえ当てにくいのに、ここはビル群。いくら敵の位置があのビルの後ろだとわかっているからって、ビルを越えた向こう側に当てられる物か!?

 遠距離砲撃機はまだ動く。少しの位置調整をすると、あまりの出来事に動きを止めていたもう片方の二機に向けて砲撃を開始した。


『なんなんだ!? なんなんだこのプレイヤーは!? 皆さん、これはロックオンできる位置だったりするんですか!?』

『できませんよ。出来てもビルの裏に隠れたら、ビルの途中に当たるから届かないはずですよ』

『ありがとうございました! ってことは神業! 序盤の無駄な動きはなんだったんだ~!?』


 途中から来た俺は序盤を知らないのでよーへいさんに解説を求めた。

「序盤は非常に素人臭い動きで、接近戦も苦手そうだった。砲撃も一切使わなかったな」

「それでも一回も落とされなかったんだけど、さっき味方の誤射で墜とされちゃったね」

「ほー」

 神業ではあるが味方機にも当たりかねないので、ピンチになるまで封印していたのかもしれない。しかし墜ちたのが味方の誤射で一回だけというのはかなり優秀である。エネルギー残量がかなりやばいのは、他の三機の責任だ。

 こういう対人戦で倒されない、墜ちないということはかなり重要だ。復帰までの時間を残ったメンバーで凌がなければならないし、相手に勢いづかせてしまう。

 これは意外と逆転劇があり得るでは無かろうか。赤のコアに向かっていた方が引き返して、砲撃で威嚇してる間にメンバーが集まればチャンスはある。



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