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最下級領地の女領主様  作者: 葉月あおい
序章
2/6

2.ランク『水晶』

ここ、サンティエール王国の各地にある領地は、代々同じ一族が世襲制で統治している。そしてその領地にはランク付けがなされているのだ。


金剛(ダイヤ)

白金(プラチナ)

蒼玉(サファイア)

朱玉(ルビー)

翠玉(エメラルド)

水晶(クリスタル)


金剛(ダイヤ)が最も高く、水晶(クリスタル)が最も低い。このランクが高ければ高いほど王都へ納める税は減額されるし国から貰える発展支援金は増額される。つまり、上位ランクになればなるほど優遇されるシステムなのだ。それに、『ランクが高い領地』イコール『豊かで反映している領地』。そういった領地は自然と人が集まってさらに発展する。そして発展すればさらにランクは高くなる。正の循環と言うわけだ。

ランクの低い領地の領主は「少しでも優遇されたい」という思いで、ランクの高い領地の領主は「この優遇を保ち続けたい」という思いでそれぞれ領地運営に力を注ぐ。そうなると自ずと各領地の産業は発展し、その余波は王都へ届く。やがて国自体の発展にも繋がるのだ。ランク付けというシステムはそう言った目的で作られたのだろう。



リーゼロッテとて、それは理にかなったシステムだとは思う。母が働いている洋裁店で取り扱っている布地や糸、針も金剛(ダイヤ)ランクの領地で生産された質の高いものだし、王都で目にする各地の名産品も素晴らしいモノばかり。ランク付けがあるからこそサンティエール王国の発展があったのだとは思う。

だが、これから行くエーデンベルク領が水晶(クリスタル)ランクとなると流石に話は別だ。王都で通っていた学校でランクシステムについて習ったときの教師の言葉が耳に蘇る。


『新しくできた領地も最初は翠玉(エメラルド)のランクを与えられます。いきなり最低ランクをつけられてしまうと領主の意欲が削がれてしまう可能性があるからです。皆さんもいきなり試験で最低点を取ったら心が折れてしまいますよね? それと同じ理論です。つまり、水晶(クリスタル)ランクの領地はよほど運営がうまくいっていなかったり領主自体に運営意欲がない領地であり、大した名産品もなく貧しい領地だということになります。ちなみに現在この国には100の領地がありますが、水晶(クリスタル)ランクの領地は2つです。ランクを上げるのは並大抵のことではありませんが、水晶(クリスタル)から翠玉(エメラルド)への昇格は比較的簡単です』


これを習ったのが5年前。そしてランク付けが行われるのは5年ごとである。と、いうことは――


「――カルロスさん。そのランク付けは5年前の結果ですか? それとも今回の結果ですか?」


おそるおそる訊ねたリーゼロッテに、カルロスは「5年前です」と答える。

ならば今年は少しはマシになっているだろう、と安心したのもつかの間。カルロスは沈痛な表情を浮かべてさらに言葉を継いだ。


「ただ、この5年間ヨーゼフ様はほとんど病床におられました。奥方様を領主代理に任命してはおりましたが、奥方様は領地運営にはまったく興味がなかったご様子で……エーデンベルク領の状態は改善どころか悪化しております」

「うっそぉ……」


思わず間の抜けた声を上げてしまうのも許してほしい。そんなボロボロの状態で領地運営を託してきた顔も知らない父を、リーゼロッテは恨めしく思った。


「リーゼロッテ様。不肖カルロス、精一杯リーゼロッテ様をお支えいたします。ですのでどうか、エーデンベルク領の発展にお力添えいただけないでしょうか」


がばっと頭を下げてくるカルロス。その必死な様子に、リーゼロッテはため息を一つこぼした。


こんなの、断れるわけがない。いきなり会ったこともない父親が死んだと告げられてその遺言で次期当主になるからとこちらの意向は無視で連れていかれて、しかもその領地が王国最底辺だと聞かされるのは馬車の中。今さら戻れるわけがない。

仕方ない、とリーゼロッテは腹をくくった。こうなったからにはやってやろうではないか。


「――分かりました。私なりに、精一杯やってみます」





リーゼロッテ・エーデンベルク。

年齢、14歳。

肩書、エーデンベルク領領主。

エーデンベルク領ランク、水晶(クリスタル)


王国内最底辺領地を発展させるべく、奮闘の日々が始まるのだった。

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