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第9話 失敗続きの勇者パーティ

 この日勇者ヤマトとその仲間達は古代の魔道士が生みだしたという巨大な石の化け物ゴーレムを討伐する為にダンジョンに潜っていた。


「タケル、お前は右から攻めろ! 俺は左から行く」


「ああ任せとけヤマト!」


 二人のコンビネーションは悪くない。


 左から飛びかかる勇者ヤマトに気を取られたゴーレムは、反対側から巨大な斧を振り下ろす戦士タケルの動きに対して一瞬反応が遅れ、その一撃をまともに受けた。


 そして時間差で勇者ヤマトの剣がゴーレムの右脇腹に食い込む。


「やったか!?」


「やってない!」


 ヤマトとタケルの攻撃ではゴーレムの身体にかすり傷を付けるのがやっとだった。


「くそっ、固すぎるだろこいつ……」


「タケル危ない! 下がれ!」


 ゴーレムはその巨大な柱のような腕でヤマトとタケルを薙ぎ払う。


「うわあっ」


 タケルは手にした大斧の重量が仇となり、ゴーレムの一撃を避け損なって後方へ吹き飛ばされた。


「ぐはっ」


「大丈夫かタケル!?」


「全然大丈夫じゃねえよヤマト。肩をやられちまった。ミコト、早く回復してくれよ」


「冗談言わないでよ、さっきからどれだけ回復魔法を使ったと思ってるのよ。もう魔力が残ってないわ」


 タケルとミコトのやり取りを見ていたヤマトはチッと舌打ちをする。


「くそっ、ここは退くぞ!」


 ヤマトの号令で、パーティの四人はゴーレムに背中を向けて敗走する。


「畜生、また任務に失敗かよ……」


 地上へ向かって走りながらヤマトは呟いた。

 火焔山で火竜を討伐してからというもの、思い通りにならない日々が続いている。


 ゴーレムなんて火竜に比べれば遥かに格下の魔物のはずだ。

 いくら石の身体を持っているといっても、火竜の牙を素材にして作られたこの剣では斬れないはずがない。


 日々魔物が強くなっているという事か?


 ヤマトは失敗の原因を探し続けるが、それがクサナギのガードレスの防御力低下による援護がなくなったせいだという事には全く気付いていなかった。


 全員が安全な地上まで戻った頃には既に日は暮れていた。


 今日はここで野宿だ。

 四人は無言のまま手分けして野営の準備をする。


 焚き火を囲んで食事を済ませひと息ついた後、先程のゴーレムとの戦いを思い出したヤマトがヒステリックに怒鳴り散らす。


「おいイザナミ、お前あの時何ぼさっとしてたんだ。ちゃんと攻撃魔法で援護しろよ」


「何言ってるのよ。あんなにゴーレムに近付いてたらあなた達まで巻き込んじゃうじゃない。リーダーならちゃんと攻撃魔法で援護できるような立ち回りができるよう指示してよ」


 イザナミは最近になって勇者パーティに加入した魔法使いだ。

 紺色の長いストレートの髪をした女性で、整った顔立ちをしている。

 トレードマークは夜空に輝く星星をモチーフにした模様が描かれたローブで、星雲の魔女の二つ名を持っている。

 プロポーションも完璧で、彼女に言い寄る男性も多い。


 ヤマト達がクサナギを追放した後にパーティに加えた者達はいずれも満足な結果を出す事ができずに早々にクビにされていった。


 そしてヤマトが公爵家である実家のコネを最大限に利用してようやく仲間にする事ができたのがこのイザナミである。

 イザナミは今まで冒険者として数々の実績を残しており、即戦力となるはずだった人物だ。


 事実その実力は申し分ないのだが、いつも無策で敵に突っ込んでいくヤマトやタケルが足を引っ張ってその実力を全く発揮できずにいた。


 イザナミは冒険者として結果を出してきた分プライドも高く、ヤマトの意見に真っ向から口答えをする。


「勇者パーティに加えて貰えると聞いた時は心底嬉しかったけど、蓋を開けてみれば全然素人の集まりじゃない。これなら冒険者ギルドで一緒に戦ってた仲間達の方がずっと強かったわよ。もっと後衛との連携を考えてよ」


 イザナミの言う事にも一理あるが、公爵家のお坊ちゃまであり自尊心が強いヤマトには自分の過ちを認める事は耐え難い屈辱だった。


 ヤマトには反省という概念はない。

 戦闘中にイザナミに何らかの落ち度があったのだと決めつけ、それを見つけようと記憶を辿る。


 火竜討伐までとそれ以降で何が違うのかを考え、一つの結論に到達した。


「イザナミ、やはりお前の怠慢が原因だ」


「はあ? まだそんな事言ってるの? 私の何が怠慢だって言うのよ?」


「お前さっき俺達が巻き込まれるから攻撃魔法を使えなかったって言ってたよな。だったら補助魔法で援護してくれれば良かっただろ。以前俺達のパーティにいた奴はガードレスの魔法で対象を倒しやすくしてくれていたぞ」


 ヤマトは鬼の首でも取った様な顔でイザナミを糾弾するが、イザナミは呆気にとられたような表情で言葉を返した。


「何言ってるのよ。ガードレスなんて戦闘が始まった直後にかけておいたわよ。それなのに攻撃が通じなかったのならあんたの力不足って事じゃない」


「は? ……いや、そんなはずないだろ。防御力を下げたならゴーレムの身体なんて豆腐のように脆くなってるはずだろ?」


 興奮して捲し立てるヤマトに対し、イザナミは溜息を零しながら答える。


「そんな訳ないでしょう。ガードレスで防御力を下げるといっても、せいぜい10の防御力が9になる程度よ」


「そ、そんなはずはない。だってあいつがガードレスをかけた後は火竜すら俺とタケルの攻撃で簡単に倒せるようになっていたんだ……」


 イザナミは首を傾げながら何を馬鹿な事を言っているのかと反論しようとしたが、ヤマトの真剣な表情を見ると彼が嘘を言っているようには思えなかった。


 イザナミは少し考えてから口を開く。


「にわかには信じがたいけど、もしその話が本当ならば以前あなた達が追放したっていう魔法使いはあなた達と違ってよっぽど有能だったんでしょうね」


 この新入りはあろう事か自分達が役立たずと判断して追い出した人間の事を有能と言い、逆に俺達の事を無能と言い放つ。

 これはヤマトも激高して語尾を荒げる。


「あいつが有能な訳ないだろ! ガードレスしか使えないようなできそこないだぞ! ファイアーボムも、アイスウィンドも、サンダースパークも、初歩的な攻撃魔法を何一つ使えないような奴だぞ」


「知らないわよ。私その人に会った事もないんですもの」


 イザナミはこれ以上何も話す事はないと言わんばかりにプイっと顔を横に向け、強制的に会話を終わらせる。


「くそっ、どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって……」


 それでもしつこく悪態をつくヤマトを尻目にイザナミは横になる。


 イザナミは以前追放されたというその魔法使いに興味を抱いた。


 もしガードレスの魔法でヤマト達の言う通りの効果を出せるとしたら、それは一般的な魔法使いよりも遥かに強大な魔力を持っているという事になる。


 それに魔法は使える種類が多ければいいという物ではない。

 使える魔法の数が少なければ、その分その魔法に特化しているという事だ。


「クサナギとか言ったっけ。一度会ってみたいな」


 イザナミはヤマト達に聞こえないように小声でそう呟き、眠りに就いた。


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