第41話 王妃はむしろ脱衣したい側でした
「あらお久しぶりね、ヨイヤミ」
謁見の間には玉座に深々と腰を下ろして俺達を見下ろしているクシナダ王妃の姿があった。
「こんな所で油を売っていていいのかしら? ムスヒ陛下は反乱軍を皆殺しにする為に城門に向かいましたわよ。早くお仲間を助けに行った方が宜しいのではなくて?」
「うるさい。私のお母さんや村の皆の仇、絶対に許さない! ……ワールドオブダークネス!」
ヨイヤミはクシナダの顔を見るなり問答無用で暗黒魔法の呪文を詠唱する。
ヨイヤミの指先から放たれた闇は瞬く間にクシナダを包み込んだ。
今までの相手ならこれで勝負はついていたはずだった。
「くすくすくす……あはははははっ!」
闇の中からクシナダの笑い声が聞こえる。
「残念だけど私達魔族にとって闇とは力の源のようなものなのよ。だからあなたの魔法は私には一切通用しないわ」
「くっ……!」
クシナダの言う通り全く効果がないと察したヨイヤミが闇の魔法を解除すると、クシナダの姿が現れる。
全くダメージを負っている様子はない。
俺は怯むヨイヤミの前に出て呪文を詠唱する。
「闇魔法が効かなくても俺の魔法は防げまい! ……クロースレス!」
俺が呪文の詠唱を終えた直後にクシナダの身体が赤い光に包まれた。
「ヨイヤミ、奴の衣服が弾け飛んだ瞬間に物理攻撃を仕掛けるぞ!」
「うん、分かった」
俺とヨイヤミは杖を手に構える。
次の瞬間、パァン! という破裂音と共にクシナダの──
肉体そのものが弾け飛んだ。
予想外の出来事に俺とヨイヤミは目を丸くして固まった。
「え? なんだこれ? まさか俺のクロースレスがここにきて更に進化したのか?」
「いや違う……あそこを見て!」
バラバラに散らばっているクシナダだったものの中心に、黒光りする物体があった。
「何だあれ?」
「きっとあれがクシナダの本当の姿」
黒光りする物体はうねうねと動き出し、それは巨大な蛇の姿に変化する。
「そうか、俺のクロースレスでクシナダが身に纏っていた仮の肉体が消し飛んだのか」
「あはははは、そうよ、これが私の真の姿。この姿を見て生きて帰った者はいないわ!」
クシナダは鎌首を持ち上げ大口を開けると、俺達目掛けて巨大な牙を振り下ろす。
「あ、危ない!」
「だがこれはチャンスだ!」
俺とヨイヤミはそれをかわしながら杖でカウンターの一撃を加える。
カキンッ!
しかし俺とヨイヤミの攻撃はクシナダの身体を覆う硬い鱗に簡単に弾かれてしまった。
クシナダの身体がクロースレスの効果でも届かない程の防御力を持っているという事ではない。
クロースレスの魔法は相手の身に付けている物を消し飛ばすと同時に相手の防御力を極限まで下げる効果がある。
衣服が弾け飛んだあとは相手の身体は防御力低下効果がかかっている事を示す青白い光に包まれるはずだが、今のクシナダの身体は光を放っていない。
理由は分からないが、今クシナダの防御力は全く低下していないという事だ。
「弱体化効果を無効化された? ならばもう一度だ! ……クロースレス!」
再びクシナダの身体が赤い光に包まれ、パァン! という破裂音と共に今度はその外皮が弾け飛んだ。
その瞬間、俺は何が起きているのかを把握した。
「俺のクロースレスの効果を利用して脱皮しているのか!?」
そしてやはりクシナダの身体は青白い光を放っていない。
クロースレスによる防御力低下効果は脱皮と同時に文字通り脱ぎ捨てられていたのだ。
「あはははは、何度やっても無駄よ!」
クシナダは巨大な尻尾を振り上げ俺達を薙ぎ払う。
「きゃっ」
ヨイヤミはそれをかわしきれずに直撃を受け、壁際まで吹き飛ばされた。
「ヨイヤミ、今まで私の為によく働いてくれたわね。ご褒美にお母さんの居る場所に連れて行ってあげるわ。私の胃袋の中にね!」
クシナダは動けないヨイヤミに近付き、一飲みにしようと大口を開く。
「うう……お母さん、私に力を……」
ヨイヤミは最後の力を振り絞って手にした杖を振り上げる。
しかし非力な彼女の一撃ではクシナダの身体には傷ひとつ付けられないだろう。
俺はこのまま彼女が食べられるのを黙って見ているしかできないのか。
いや、そんな事はない!
こういう時こそ初心に帰るんだ。
クロースレスが効かないのなら、俺ができる事は一つだけだ。
「……ガードレス!」
俺が呪文を詠唱した瞬間、クシナダの身体が青白い光に包まれる。
予想通りだ、クロースレスを使わなければクシナダは瞬時に脱皮する事はできない。
防御力が弱体化している今なら非力なヨイヤミの一撃でもダメージが通るはずだ
「ヨイヤミ、今だ!」
「クサナギさん……はい!」
グシャァッ!
ヨイヤミが振り下ろした杖はクシナダの頭部を粉々に砕いた。
クシナダは断末魔の悲鳴を上げる暇もなくそのまま動かなくなった。
「よくやったな。立てるか?」
俺は壁にもたれてしゃがみ込んでいるヨイヤミに手を伸ばしたところでハッと気付いた。
いけない、男に免疫がないヨイヤミに手なんて延ばしたら駄目だな。
俺は慌てて手を引っこめようとしたが、その前にヨイヤミがそっと手を伸ばし、俺の手を力強く握りしめた。
「クサナギさん、ありがとう……おかげでお母さんの仇が討てました」
「ああ、本当に良かった。でも男の俺の手を握っても平気なのかい?」
「はい、クサナギさんの手なら……大丈夫になったみたいです」
ヨイヤミは頬を染めながら恥ずかしそうに視線を逸らす。
よく分からないが結果オーライだ。
俺とヨイヤミはポーションを飲んで少し休憩した後、城門へ向かったというムスヒの後を追った。




