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第39話 デリカシーがない


「なるほど、そういう事でしたか。だったらもっと早く言って下さいよ兄貴」


「お前達が聞く耳を持たなかったんだろう!」


「でもあんな現場を見せられたら誰だって……」


「もういい」


 俺は村の皆から取り調べを受けるような形でヨイヤミを確保した経緯を説明した。


 一方、捕縛したヨイヤミは先程のショックを引きずりながら空家の一室で毛布に包まって──


「えぐっ、えぐっ」


 ──と嗚咽を漏らしながら震えていた。


 そんな彼女をトモエやマドウカ達が交代で慰めている。


 まるで俺の方が悪いみたいじゃないか。


「ほら、この紅茶を飲みな。身体が温まるよ」


 ヨイヤミはトモエが差し出した紅茶を受け取ると恐る恐る口を付ける。


「……美味しい。どこか懐かしい味がする」


「お、気に行ったかい? これはこの村のハーブ園で栽培してるファイアリーフってハーブを使っているんだ。他所じゃ飲めない一品だよ」


「この村のハーブ園……? あ、あああああああああ!! 頭が痛い!」


「ヨイヤミちゃん? どうしたっていうんだい?」


 突然苦しみ出したヨイヤミを見て、トモエは慌ててアンドーゼを呼ぶ。


「トモエの姐御、一体どうしたんですか?」


「それが、このハーブティーを飲んだ直後にこうなっちまったんだよ。大丈夫かい? もうさっきの怖いお兄さんはいないから安心しておくれよ」


 まるで俺が全ての元凶のような言い草は止めてくれ。


 まあ否定はできないが。


 アンドーゼはひとまずヨイヤミに鎮静剤を与えて落ち着かせる。


 俺は窓の外からそんなヨイヤミの様子を眺めながらマドウカ達と話をする。


「なあ、ヨイヤミって魔族に滅ぼされたアマゾネスの生き残りなんだろう? どうして魔族なんかに従っていたんだ?」


「そりゃあタカミ殿下と同じじゃないかニャ?。大方薬で洗脳させられていたに違いないミャ」


「それじゃあ正気に戻れば味方になってくれるかな?」


「可能性はあるミャ」


「よし、ならば一刻も早く治療をしよう」



「……その必要はありません。全て思い出しました」


 声のする方向へ振り向くと、ヨイヤミがふらふらとおぼつかない足元で空き家から出てきた。

 まだ精神が安定していないのだろう。


「懐かしい……この木も、この道も……全部覚えてる」


「うん? ヨイヤミはこの村の事を知っているのか?」


「知っているも何も、私はこの村で生まれ育ちました」


「俺がここに住み着いた時には廃墟だったけど……待てよ、という事はここがアマゾネスの村だったのか?」


「はい。私の母はこの村でハーブを栽培していました。母がいつも作ってくれた温かいハーブティーの味はよく覚えています」


 そうか、彼女の母親のハーブ園を偶然発見した俺が引き継ぎ、巡り巡って彼女の喉を潤したのか。

 何か運命的なものを感じるな。


「……俺達は近い内に王都に進軍してムスヒやクシナダと戦う。君はどうする?」


「クシナダは私の母やこの村の皆の仇。私も連れて行って下さい!」


 ヨイヤミは震えながらも力強くそう答える。

 彼女も魔族に翻弄された被害者であり、戦力としても申し分ない。

 俺には彼女の申し出を断る理由はなかった。


「よし分かった。それでは一緒に戦おう!」


 俺はヨイヤミの肩をバンと叩き激励をする。


 その時だった。


「嫌あああああああああああああああああああああ!」


 ヨイヤミの悲鳴が村中に鳴り響いた。


 彼女は今まで気丈に振る舞っていたが、洗脳が解けた事で心の奥底に眠っていた辛い記憶が一気に蘇ったんだ。

 それを受け止めるには彼女はまだ幼すぎたのだろう。


「ヨイヤミ、大丈夫だ俺達がついてる」


 俺は蹲って震えているヨイヤミをそっと抱きしめて慰め……ようとしたところをトモエとマドウカによって妨害された。


「クサナギの旦那、ヨイヤミちゃんに何しようとしてるんだい?」

「いくらクサナギでもそれ以上は見逃せないミャ」


「何って、見れば分かるだろ。慰めようとしているだけじゃないか」


 勘違いとはいえ、さすがの俺もこう事あるごとに悪者扱いをされると不機嫌にもなる。

 今のヨイヤミに必要なのは心の支えだ。

 多少強引でも構わない。

 俺はトモエとマドウカを押しのけてヨイヤミに手を伸ばしたその時。


「触らないで!」


「!?」


 ヨイヤミは確かに俺に向けてそう叫んだ。

 俺は反射的に手を引っ込める。


「え? 俺拒絶されてる?」


 俺はショックで目の前が真っ白になった。


 しかし考えてみれば当然か。

 操られていたとはいえついさっきまで命のやり取りをしていた相手だ。

 そう簡単に心を許してくれるはずもないか。

 俺は少し焦りすぎているようだ。


「悪かったな。少し頭を冷やしてくる。夜が明けてからでもまた話しをしよう」


「いえ……あの……私の方こそごめんなさい」


 ヨイヤミは俺に向けて深々と頭を下げた。

 何の謝罪だ?


 ヨイヤミはもじもじしながら続ける。


「私まだ……男の人に慣れていなくて……」


「……え、そっち?」


「何だと思ったんだい?」


 トモエは呆れながら口を開く


「ヨイヤミちゃんはね、さっきから男のあんたとちゃんと話ができるようにずっと頑張ってたんだよ」


「え? だから震えてたのか? まだ精神が不安定だったからだとばかり……」


「それなのに急に身体を触ったりするもんだからびっくりしちゃったのさ。おおよしよし、よく頑張ったねえ。もう大丈夫だよ」


「えぐっ……えぐっ……」


「……」



 俺が悪いのか?



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