第25話 全ての決着
「いやああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
競技場内にミコトの絶叫が響き渡る。
衣服を全て剥ぎ取られ、全裸になったミコトは競技場の中央でしゃがみ込んだまま悲鳴を上げるだけで動く事ができない。
クロースレスの効果が発動したと同時に観客席からは拍手喝采が巻き起こっていた。
勇者パーティって余程嫌われてたんだな。
俺は自分の心に従い、ミコトに制裁を行う事を選んだ。
その結果大切な何かを失った気がするが、後悔はない。
俺は一呼吸置いてからチルとサクヤの方を見ると、若干引きながら俺を見ていた。
まあそうなるよね。
全て覚悟の上だ。
しかしチルとサクヤの反応は俺が想像している程のものではなかった
「クサナギさんなら絶対クロースレスを使うと思っていました」
「私達やお父様の衣服は一切の躊躇もなく剥ぎ取っておいて、この人にはずいぶんと悩んでいましたね。何ですかこの差は? 少しイラっとしましたよ」
「……え? それだけ?」
俺はチルとサクヤからもっと汚物でも見るような目で見られる事を覚悟していたので、逆に拍子抜けだ。
「そんな事よりも、まだ終わっていませんよ」
チルが指を差す方向を見ると、ミコトが悲鳴を上げながら蹲っていた。
そうだ、俺はミコトの衣服を剥いだだけだ。
相手が戦闘不能にならなければ試合は終わらない。
「よし、それじゃあミコトに止めを刺すんだ」
俺はチルとサクヤにそう指示するが、二人は首を横に振って答える。
「あたしも冒険者の端くれ。丸腰どころか、全裸の女の人に手を上げるなんてできません」
「クサナギさんが責任を持ってケリをつけて下さいね」
そう言ってチルとサクヤはミコトに背を向けて競技場の隅へ歩き出す。
確かに彼女達の言うとおりこれはそもそも俺と勇者パーティの因縁である。
最後は俺自身の手で決着をつけるのが筋というものだ。
俺はゆっくりとミコトに近付き、杖を振り上げる。
「痛かったらごめんね。ちょっと加減が難しいから」
「ぎゃあああああああああああああ!! 馬鹿馬鹿! 来ないで! この変態! スケベ! 痴漢! もう信じらんない!」
俺は喚き散らすミコトの背中にちょんと杖を当てる。
軽く気絶させるだけのつもりだったが、防御力が極限まで下がっていたミコトの身体は宙を舞い競技場の端まで飛ばされ、壁に激突して地面に落下した。
ぴくりとも動かない。
「ここまでやるつもりはなかったけど本当に加減が難しいんだ。悪く思わないでくれ」
俺は壁際でのびているミコトに一言詫びを入れる。
どうせ聞こえていないだろうから、完全に自己満足の謝罪だ。
「ミコト選手戦闘不能!」
審判の判定と同時に医療スタッフがミコトを布で包んで競技場の外に連れ出す。
これで残るはイザナミただ一人だ。
俺はこの試合の一部始終を敵陣内で微動だにせずに眺めていたイザナミに視線を移す。
ヤマト達三人との戦いはいわばウォーミングアップ。
イザナミとの一騎打ちが本当の意味での決勝戦だ。
俺はイザナミに勝つ為に考え得る限りの光魔法の対策を準備してきた。
俺は魔法の袋からそのアイテムを取り出す。
まずは鏡。
光魔法なら鏡で反射できる可能性があると考えたからだ。
次に緩衝材。
これで魔法の衝撃で鏡が割れてしまうのを防げるかもしれない。
そして最後に冷気を噴出させる魔道具。
通常は食品等を保存する為に使う物だ。
光魔法は熱量を持っている事が多いので、少しはダメージを軽減できるだろう。
この三つのアイテムでどこまで光魔法を防げるかは分からないが、何もしないよりはましだろう。
それに魔法使い職は基本的に他の戦闘職よりも魔法防御力が高い。
イザナミの光魔法を一発でも耐える事ができればこちらのものだ。
ガードレスをかけた後に一発でも物理攻撃を当てる事ができれば俺の勝ちである。
武器は準決勝と同じくただの砂粒で十分だ。
彼女には結界魔法もあるが、基本的に結界は自身の前方や側面を守る事は出来るが頭上はがら空きである。
カグツチ戦のように砂を上に向けて投げれば防ぐ事はできない。
俺は地面の砂を掬い取る。
しかも今回は予備としてもうひと握り、両手分を掬い取った。
これで俺の攻撃力は更に倍になった。
名付けてメテオリックスターサンド・トゥワイスだ。
俺はイザナミから5メートル程離れた位置までゆっくりと移動し、彼女と正対する。
「さあイザナミさん、始めましょうか」
「……」
イザナミは僅かな沈黙の後、右手に持った杖を投げ捨てながら言った。
「あ、降参します」
「……はい?」
「無理です」
「無理?」
「さすがにこの大衆の中で裸にさせられるのはちょっと……」
「え? いや、クロースレスを使うつもりは……」
「イザナミ選手戦闘放棄! 勇者パーティ全員が戦闘不能と見なしこれにて試合終了です! ワークスリッターの優勝です!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「新たなる勇者の誕生だ!」
「クサナギ! クサナギ!」
「チルとサクヤの二人もここまでよく戦ったぞ!」
「でも俺はイザナミにもクロースレスを使ってくれる事をちょっぴり期待してたんだけどな」
審判の試合終了宣言と共に観客席から一際大きな歓声が球場内に鳴り響く。
何とも予想外の幕切れに、俺は呆気にとられていた。
「……あの、良かったんですかイザナミさん。結果を出さなきゃいけなかったんじゃ?」
「観衆の前で裸体を晒すくらいなら低待遇で冒険者をやってた方がましよ」
「いや、クロースレスを使う気はなかったけど……。それに俺との勝負を付けたがっていたじゃないですか。俺はクロースレスを使う気はないけど、観衆に裸を見られるのが怖いなら今度誰も見ていないところで二人きりで勝負をしてもいいですよ」
イザナミは両手で身体を隠すような仕草をしながら言った。
「あなたとは絶対に戦いません」




