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第24話 良心の葛藤


「何だあれ!? ヤマト達裸になってね?」


「一体何が起きたんだ!?」


「きゃあああああああああああああああ」


「いやああああああああああああああああああああ」


「ママー、どうしてあの人達裸なの?」

「見ちゃいけません!」


「うほっ、さすが勇者というだけあって良い身体してるぜ。ぐふふ」



 観客席から悲鳴や歓声等様々な感情が入り混じった声が響き渡る。



「な、なんだこりゃ!? 何が起きたんだ!?」

「おい、お前ら見るんじゃねえ。審判、何をボーっとしてるんだ。中止だ、早く試合を中止しろ!」


 ヤマトとタケルの二人は自分の身に何が起きたのかを把握すると、錯乱しながらがなり立てる。


「見苦しいですね」

「少し静かにしていて下さい」


 そんな二人にチルとサクヤが背後から蹴りを入れると、防御力が極限まで下がっているヤマトとタケルの二人は物凄い勢いで転がっていきそのまま地面に仰向けに大文字を描きながらのびてしまった。



「おい、早く片付けろ!」

「あんなものを大衆に見せるな!」



 大会のスタッフが慌てて二人に布を被せて競技場の外へ連れ出す。


「ヤマト、タケル両名戦闘不能!」


 すぐさま審判の判定が下った。


 これでヤマトとタケルの二人は倒した。

 後はミコトを倒せば残すはイザナミとの一騎打ちだけだ。


「チル、サクヤ、次はミコトをやるぞ」


「はい、クサナギさん!」

「ミコトさん、これは真剣勝負ですから悪く思わないで下さいね」


 僧侶はさほど戦闘力が高くない職業とはいえ、ミコトは腐っても勇者パーティの一員だ。

 並の冒険者よりは戦闘力は高い。


 俺達は気を抜く事なく反撃を警戒しながらじりじりとミコトに近づく。



「あ、あなた達……今何をやったの?」


 ヤマトとタケルの二人の惨状を目の当たりにしたミコトは恐れおののき震えながら後退りをする。

 きっと自分の身包みも剥がされると思っているんだろう。


 だがそれは杞憂だ。

 ヤマト達があんな鎧を着てたから俺はクロースレスを使うしかなかっただけで、僧侶職のトレードマークである修道服しか着ていないミコトにはわざわざクロースレスを使う理由はない。

 ガードレスで十分だ。


 一歩一歩ゆっくりと近づく俺達に対して、ミコトの恐怖心が限界に達したのか大声で叫び出す。


「こんなの反則よ! だってそうでしょ? これは次期勇者を決める為の試合でしょ? 観衆の中でこんな辱めを受ける筋合いはないわ!」


 そうは言っても他に方法がなかったから仕方がない。

 あいつらが全裸になったのはあくまで魔法の副作用だ。

 そもそもあいつらがあんな鎧を着てるから悪い。


 しかしミコトの言う事も一理ある。

 観客席からもミコトの主張に賛同する声が上がる。


「そうだそうだ、その僧侶の言うとおりだ!」

「俺達は試合を見に来たんだぞ!」

「野郎の裸なんか見せられて気分が悪くなったぞ!」



「静粛に!」


 その時、貴賓席のラマロ陛下が立ち上がり口を開いた。


「勇者パーティとは国民に代わって命を賭けて魔獣と戦う者達である。ミコトよ、お前達は実戦でも衣服が破れたからといって戦いを放棄するのか? 勇者パーティが魔獣から逃げ出したら誰が国民を守るというのだ」


「そ、それは……」


 鋭い眼光で問い詰めるラマロ陛下に対してミコトはそれ以上何も言えなかった。


「そうだそうだ、陛下の言うとおりだ!」


 陛下の一言で競技場内の空気が一変する。


「戦ってる内に衣服が破れる事なんて珍しくもないだろ!」

「お前ら今までその程度の覚悟で勇者パーティを名乗ってたのか?」

「クサナギー、ミコトもあの二人のように引ん剥いてやれ!」

「遠慮する事はねえ! 俺達はお前を支持するぞ!」


「剥ーけ! 剥ーけ!」


 俺はミコトにクロースレスを使う気は全くなかったが、競技場内の空気は徐々に俺がミコトの衣服を剥ぎ取るのを期待する方向に変わっていった。


 これが国民の総意というのなら逆らう理由はない。


 観客の声援に後押しされて俺はクロースレスの呪文の詠唱を始める。


 しかし、その時俺の背後から冷たい視線に気付いた。



 じー。



 チルとサクヤが深海のように深く冷めきった目で俺を見ている。


 言葉は発していないが彼女達が言いたい事は分かる。


「クサナギさん、彼女の身包みも剥いじゃうんですか?」

「変態。スケベ。最低です」


 今にもクロースレスを使おうとしている俺に対してそんな事を思っているに違いない。


 そもそも戦術的な意味でここでクロースレスを使わなければいけない理由は全くない。

 ただでさえクロースレスはガードレスの二倍の魔力を消費するんだ。

 この後にはイザナミとの一騎打ちが待っている。

 極力魔力は温存しなければいけない。

 それにミコトは嫌な奴だが年頃の女性のあられもない姿を衆目に晒すのはさすがにやりすぎではないだろうか。


 俺は目の前で捨てられた仔犬のように怯えているミコトを見下ろしながら今自分が成すべき事は何かを考える。


 クロースレスか、ガードレスか。

 選択肢は二つだけだ。

 どちらを選べばいい?


 そんな俺の煮え切らない態度に観客席からは容赦なく野次が飛んでくる。


「どうしたクサナギ! 早く引ん剥いてやれ!」


「クサナギ! 俺はお前が追放された後に勇者パーティに入った者だが、こいつらには酷い目にあわされたぞ。こいつらに情けをかける必要はこれっぽっちもないぞ」

「マジかよ、お前も大変だったな!」


 嘘か誠か、観客席には俺の後輩を名乗る者まで現れた。


「クサナギ、可愛い後輩の仇を討ってやれ!」

「そうだそうだ! お前がやらなきゃ誰がやる!」


 いや、後輩とか言われても全く面識がないんだけど。


「剥ーけ! 剥ーけ!」


「剥ーけ! 剥ーけ!」


「剥ーけ! 剥ーけ!」


 観客達の声はいつしかひとつに重なって競技場内にこだまする。



 そりゃ俺だってミコトを恨んでいないと言えば嘘になる。

 今は恨みを晴らす絶好の機会だ。


 でも俺にだって良心はある。

 やっていい事と悪い事の区別くらいついている。


 それにクロースレスを使ってしまったら、今まで俺を慕ってここまでついてきてくれたチルとサクヤの信頼を一気に失ってしまう。


 でもやはり勇者パーティ時代に受けた仕打ちを考えるとこのまま許すのも悔しい。


 様々な思いが俺の心の中を駈け巡った。




「待てよ……」



 俺はここにきてツクヨミ師匠の言葉を思い出した。


 人間誰しも選択を迷う時がくる。

 その時は周りの雑音に耳を貸す必要はない。



 ただ自分の心に従えばいい。




「自分の心に従う……」




 師匠の言葉で俺は我に帰り、そして呟いた。



















「……クロースレス」



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