第23話 勇者の誤算
「それではこれよりバトルトーナメントの決勝戦を行います!」
大会の進行役の合図で俺達ワークスリッターとヤマト達勇者パーティが競技場の中央へ足を進めると、観客席から大声援が巻き起こった。
「おい、どっちが勝つと思う?」
「そりゃ勇者パーティだろう。特にあのイザナミって魔法使いの光魔法には度肝を抜かされたぜ」
「ああ、実は俺も少しちびったんだ」
「『も』ってなんだよ。お前と一緒にするな。ていうか近寄るな」
「俺はワークスリッターを応援するぞ。あのチルとサクヤの二人はちっこい癖になかなかやるじゃないか」
「それにあのクサナギって魔法使いにも注目だな。元勇者パーティの魔法使いと現行勇者パーティの魔法使いの対決なんてめったに見られないぞ」
「クサナギー、生意気な勇者パーティなんかぶっとばしてやれ!」
この大会が始まった直後には観客達は誰も俺の事を見ていなかったが、今ではこうして声援を送る者もいる。
逆に勇者パーティで声援を送られているのは殆どイザナミひとりで、ヤマト達への声援はほとんどない。
当然ヤマト達にはそれが面白くない。
「けっ、ずいぶんと人気者になったなクサナギ」
「攻撃魔法もろくに使えないような落ちこぼれの癖にあんた生意気よ」
「ちょっと他の魔法使いよりガードレスを使いこなせてるからって良い気になるじゃねえぞ」
ヤマト達は観衆の前という事を憚らず俺に文句を垂れてくるが、いちいち相手をするのも面倒なので無視する事にした。
ヤマト達は更に頭に血をのぼらせ、仲間であるはずのイザナミにも噛みつく。
「おいイザナミ、お前も一回戦で目立ちすぎた。こいつらは俺達が始末するからお前は何もせずに黙って見てろ」
「はいはい、言われなくてもそうしますから気が済むようにどうぞ」
この一言でイザナミがヤマト達に協力をしない事が確定した。
俺達が恐れていたのはイザナミの光魔法だけだ。
ヤマトは自ら墓穴を掘ったと言わざるを得ない。
どうやらイザナミに話を持ちかけるまでもなかったようだ。
「皆様静粛に!」
進行役の一声で会場内が静まり返る。
会場内にいる全ての観客、選手、スタッフの視線が一箇所に集まった。
その視線の先には貴賓席があり、国王ラマロやタカミ王子、ムスヒ王子ら王族の姿が見えた。
進行役が話を続ける。
「この一戦は次期勇者を決める重要な試合であります。陛下達の御前である事を念頭に置き、お互い次期勇者候補として恥ずかしくない試合するよう心掛けるように!」
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ラマロ陛下は大魔法使いツクヨミが生前友と呼んでいた数少ない人間のひとりであり、俺を勇者パーティに推薦してくれた人物である。
しかし俺はその後勇者パーティから役立たずとして追放され、別のパーティの一員として今ここに立っている。
ヤマト達は国王陛下の顔にも泥を塗った事に気が付いているのだろうか?
「それでは双方配置に就いて下さい」
俺達と勇者パーティは競技場の中央からお互いの陣地に別れてそれぞれ戦闘の準備を始める。
「チル、サクヤ、それじゃあ作戦通りいくぞ」
「はい、クサナギさん」
「任せて下さい!」
それを自分の陣地から聞いていたヤマトがゲラゲラと笑いだす。
「作戦だぁ? どうせお前が試合開始早々俺達にガードレスをかけてその後チビふたりが一撃でも入れれば勝てると思ってるんだろ」
ヤマトの読み通りだ。
まあ俺にはガードレスしかないからね。
「お前の考えてる事はお見通しなんだよ。今からお前達を絶望の淵に叩き落してやるぜ」
そう言うとヤマトは魔法の袋に手を突っ込み、何かを取り出した。
「ははは、これが俺が考案したガードレス対策だ!」
それは全身を覆う黄金色の甲冑だった。
ヤマトは俺達の前でその甲冑を身に纏ってみせる。
「これこそ我が公爵家に代々受け継がれてきたミスリルの鎧だ。この鎧の防御力ならば如何にお前のガードレスでも破れまい」
自信満々にそうのたまうヤマトを見て俺は驚きのあまり一瞬言葉を失った。
「……ミスリルってあの伝説の金属の?」
「ああそうだ。この試合の為に親父に黙って持ち出してきたんだ」
「それってかなり貴重なものじゃないのか?」
「当たり前だろ。かつて英雄王スサノオが魔王を討ち滅ぼした時に身に纏っていたという伝説の鎧だぞ」
「そんな大切なもの持ち出して、傷ひとつでもついたらまずいんじゃない?」
「この鎧に傷だと? はっ、やれるものならやってみろってんだ!」
「……」
本当にいいんだな?
言質は取ったぞ?
確かに俺が今驚いたのは目の前に伝説の鎧が出てきたからだが、その防御力を恐れている訳じゃないぞ?
そんな国宝物の鎧がこの世から消えてしまう可能性を考えたからだぞ?
「それでは決勝戦、始め!」
審判の合図と同時にヤマトはガチャガチャと金属音を鳴らしながら俺に向かってくる。
タケルもミスリルではないが防御力が高そうな白銀に輝く鎧を全身に纏いその後ろをついてくる。
「あなた達の相手は私達です! サクヤ、行くよ!」
「はい、お姉様! ……ライジングサンダー!」
チルがサクヤの放つ電撃魔法をロングソードに纏わせヤマトの鎧に振り下ろすが、その一撃は易々と跳ね返されてしまった。
「くっ……」
「金属なのに電撃魔法が効かない!?」
「ふん、邪魔だガキども」
ヤマトが剣を横に薙ぎ払うと、チルとサクヤの二人はそれを回避する為に左右に飛んでヤマト達から距離を取る。
「はっ、お前達のようなチビどもがどんな小細工を弄しても無駄だ」
ヤマトとタケルは嘲笑いながらチルとサクヤを捨て置いて俺に向かってくる。
いや、兜で顔は見えないけどきっと見るに堪えないような邪悪な笑みで歪んだ顔をしているという事は易々想像できる。
俺はその一部始終を無言で立ち尽くしたまま眺めていた。
「ふはは、驚いて声も出ないようだな」
ヤマト達は勘違いをしている。
俺が黙っているのは恐怖に震えているからではない。
お前達を憐れんでいるからだ。
そんな頑丈そうな鎧を着ていなければガードレスで済ませてたのに。
「くたばれクサナギいいいい!」
ヤマトは剣を構え、真っすぐに俺の下に向かってくる。
俺は「ふぅ」とため息をつくと、呪文の詠唱を開始した。
「……クロースレス!」
俺が呪文を詠唱し終えた瞬間、ヤマトとタケルの鎧が赤い光に包まれる。
「ん、何だこれは……いつもの青白い光じゃないぞ」
「ガードレスじゃないのか? お前いつの間に他の魔法を覚えたんだ?」
ヤマトとタケルはこの後自分達の身に何が起きるのかも知らず、のんきに首を捻っている。
「はっ、きっとこけおどした。構うもんか、このままぶった斬ってやる!」
ヤマトが俺に狙いを定め剣を振り上げた次の瞬間。
パァン!
激しい破裂音と同時にヤマトとタケルが身に纏っている全ての物が爆散した。




