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第22話 イザナミの本心


「良かった、無事に勝利できたんですね」

「私はクサナギさんが勝つと信じていましたよ」


 医務室では既に治療を終えたチルとサクヤが俺を出迎えてくれた。


 少しして、同じく医務室に運び込まれてきたカグツチも意識を取り戻した。


「クサナギ、完敗だ。俺は武芸の頂点を極めたつもりだったがこの戦いで自分の未熟さを思い知らされたよ。礼を言わせてもらおう」


「いや、俺達は三人がかりだったからね。タイマンだったらどちらが勝つか分からなかった」


 戦いが終われば恨みっこはなしだ。

 俺達はお互いの健闘を称え合う。


「ふ、謙遜をするな。お前からはまだ隠された力を感じる」


「んー、それはどうかな?」


 俺は笑って誤魔化す。


 確かに今回俺はガードレスしか使わなかった。

 もしクロースレスを使っていれば違う意味でもっと簡単に勝てたかもしれないが、あれはカグツチのような立派な武人に使うような魔法ではない。

 もっと良心が痛まないようなゴミのような相手なら遠慮なくぶっぱなせるんだけどね。


「この俺に勝ったのだ。必ず優勝して見せろよ」


「ああ、もちろんそのつもりだ。……そう言えば今頃は勇者パーティとヤマト何とかってパーティの試合だったっけ」


 勝った方が俺達の決勝戦の相手になるのだが、どうせ勇者パーティが勝ち進むのは既定事項だろう。



「ええ、丁度今試合をしている最中だと思うわ」


 その時、医務室の扉が開き、ひとりの来客が現れた。


「そうですよね……って、どうしてあなたがここに?」


 それは勇者パーティの魔法使いイザナミだった。


「噂には聞いていたけど、あなたのガードレスの威力はまさに規格外ですね。ただの砂をかけただけであれだけのダメージを与えられるなんて、今までの魔法の常識が覆りそうです」


「イザナミさん、俺にはあなたの光魔法の方が脅威に感じますよ。今どうやって攻略するかを考えているところです。……そんな事より、試合には出なくていいんですか?」


 イザナミは手をひらひらさせながら答える。


「どうせ出来レースだから私が出場しなくても何の問題もないわ。それに準決勝では私は何もするなと言われていますからね」


「ああ、そういえばヤマト達がそんな事を言ってたね。俺としては決勝でも何もせずにいてくれれば助かるんだけど」


「それはできない相談ね。私の目的はあなたを倒す事なんですもの」


「俺を? どうして?」


 俺を倒す事が目的とは穏やかじゃないな。

 俺は過去に他人から恨みを買うような事をしなかったか記憶を辿るが、全く身に覚えがない。

 そもそもこの競技場で出会うまでイザナミとは一切面識がなかったはずだ。


「……私もそろそろ勇者パーティを抜けようと思ってるんだけどね。何の成果も出せないまま抜けたら後が怖くてね」


「うん? ……ああ、ヤマト達の事だ。きっと俺の時のように役立たずを追放してやったとでも言い触らすんだろうな。でもそんなのいちいち気にしなくても良いんじゃないか?」


「冒険者ではないあなたには分からないかもしれないけど、冒険者って名声次第で待遇に天と地の差があるのよね。だから大魔法使いツクヨミの弟子であるあなたを倒したという実績を残せれば、勇者パーティから抜けても私の名声に傷は付かないって訳」


「え……そんな理由?」


 完全なとばっちりである。


「まあ、それは理由の半分。もう半分は、純粋にあなたと戦ってみたいのよ。私も魔法使いの端くれ、自分の魔力がツクヨミの弟子であるあなたにどこまで通じるのかを試してみたいの」


「ああ、そう……」


 どっちにしろ俺にとってはいい迷惑だ。

 でもそういう事ならこちらにも考えがある。


「ではこうしましょう。決勝戦は一対一で勝負をしませんか? パーティ同士の戦いで勝ったとしても、あなた個人の実力を証明する事にはならないでしょうから」


「それはそうだけど、ヤマト達がその条件を飲むとは思えないわ。あの人達を無視して二人で戦っていたとしても絶対に横槍を入れてくるはず……あっ」


 イザナミははっとして目を見開く。

 俺の考えている事を察したようだ。


「はい、開始早々に俺達三人でヤマト、タケル、ミコトの三人をぶちのめしますので、イザナミさんは彼らに手を貸さずにそれを眺めていて下さい。その後二人で存分に戦いましょう。もちろんチルとサクヤにも手は出させません」


 イザナミは腕を組み目を瞑って思考を巡らす。

 もうひと押しだ。


「ヤマト達はイザナミさんに『俺より目立つ事をするな』と言っていたよね? 彼らの言う通りじっとしてなきゃ」


「ぷっ……アハハハ、確かにその通りね。いいよ、あなたの企てに乗ってあげるわ」


「そうこなくっちゃ」


「それじゃあ決勝の舞台でまた会いましょう」


 イザナミは笑いながら医務室を後にした。


 よし、作戦成功だ。




 じーっ。




 ふと横を見るとチルとサクヤが俺を睨みつけている。


「クサナギさん、あたし達に相談もなく勝手に決めちゃって酷いです!」

「私達も最後までクサナギさんと一緒に戦いたかったのに!」


「悪い悪い。でもあんなに面と向かって宣戦布告をされた以上、俺としては正々堂々とそれに応えるしかないじゃないか」


「とか何とか言っちゃって」

「本当は勇者パーティ四人を同時に相手にする自信がなかったんでしょ」

「イザナミさんすごく強そうですからね」


「ぎくっ」


 俺は図星を指されてぐうの音も出ない。


「でもいいですよ、あたし達が決勝戦までいけるのはクサナギさんのおかげですから、好きなようにして下さい」

「その代わり絶対に負けないで下さいね!」


「お、おう」


 ヤマト達ならともかく、果たして俺はあのイザナミに勝つ事は出来るだろうか。

 勇者パーティにいた人間なら、俺がガードレス以外の魔法が使えない事はヤマト達から聞いているだろう。

 彼女はおそらくクロースレスの事は知らないだろうが、あの魔法は本当に最終兵器だ。

 生死のかかった状態ならともかく、こんなお祭りのような大会で使うのは俺の良心が許さない。

 ならばガードレス一本で戦うしかないな。

 幸いこの大会は武器やアイテムの使用に制限がない。


 何か光魔法に対抗できるアイテムはないだろうか。


 しばらく考え込んでいると、大会のスタッフが医務室の扉を開けて入ってきた。


「たった今勇者パーティとヤマトファイターズの試合が終わりました。勇者パーティの勝利です」


 それは聞くまでもなく分かり切っていた事だ。


「決勝戦は三十分後です。今の内に準備をしておいて下さい」


 それだけ伝えると大会のスタッフは忙しそうに早足で帰って行った。

 彼らも色々と仕事があるんだろうな。


 俺は俺に出来る事をするだけだ。


「よし、チル、サクヤ、決勝戦の作戦を伝える」


「クサナギさんがガードレスを使った後に各個撃破ですよね」


「お、良く分かったな。俺の考えている事を読むとはすごいぞ。成長したな」


「クサナギさん、ひょっとして私達の事馬鹿にしてます?」



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