第19話 八百長には賛同できない
「うーん、完敗だったミャ。あんな手で来られるとは完全に誤算だったミャ」
「私達液体モードに頼り過ぎていたみたいだニャ」
「次は気体化する魔法を考えてみるミャ」
治療を終えて控室に戻ってきたエキゾチックスの四人は早速反省会を開いている。
いつでも前向きなあの姿勢は見習わないといけないな。
次はヤマトファイターズとヤマトトルーパーの試合が行われる。
お互いヤマトの手下同士だ。
どっちが勝っても準決勝でヤマト達に勝ちを譲るのは目に見えている。
これは観戦する価値もない試合と俺達は考えて、控室に留まって準決勝で戦う格闘王カグツチの攻略法について検討を続ける。
さすがにチルとサクヤの二人だけでカグツチを倒すのは無理な話だ。
やはり俺のガードレスの魔法が決め手になるだろうな。
程なくしてヤマトファイターズとヤマトトルーパーの試合が終わり選手達が控室に戻ってきた。
ヤマトファイターズが勝利したらしいが、本当にどうでもいい話だ。
折角だからと試合を観戦してきたマドウカの話を聞くと、どちらのパーティもわざと相手に勝ちを譲るような立ち回りをしており、より消極的な試合運びをしていたヤマトトルーパーの方が審判からファウルを取られ、時間切れの末にそのマイナス点が決定打となってヤマトトルーパーが敗退する事になった。
直前の二試合で温まっていた観客席は一気に冷え切り、野次とブーイングが競技場内にこだましていたそうだ。
本当に観なくて正解だった。
そして少し時間を置いた後にヤマト達現行勇者パーティとヤマトガーディアンの試合が始まった。
この試合もどうせ勇者パーティが勝ち上がる事が予め決まっている出来レースだ。
観る価値はないだろう。
この試合は先程のヤマトファイターズとヤマトトルーパーの試合よりも早く決着がついた。
試合結果については確認をするまでもないだろう。
「うーん、なかなかの手練れだミャ」
試合を観に行っていたマドウカが難しい顔で戻ってきた。
「マドウカさんどうしたんですか? ぶっちゃけあいつらそんなに強くなかったでしょ」
「そうだミャ。あの勇者ヤマトとやらは大した事なさそうだったミャ。あの戦士と僧侶も決して弱くはないと思うけど正直期待外れだミャ」
「だよね。もうチルやサクヤの方が強くなってるんじゃないのか?」
「でも、あのイザナミって魔法使いだけは要注意だミャ。彼女の魔法は本当に危険だミャ」
「ああ、イザナミさんか。確かにあの人からは底知れない魔力を感じたな──」
ん?
今危険な魔法って言った?
これは完全な八百長試合のはずだろ。
勝ちが確定している試合でわざわざそんな魔法を使うか?
「マドウカさん、試合で何があったんですか?」
「うん、掻い摘んで話すミャ」
マドウカは記憶を辿るように視線を斜め上に向けながら話を始めた。
試合が始まると、ヤマトとタケルの二人は大車輪斬りやブーメラントマホークなどの見た目が派手な技を連発していった。
目立ちたがり屋のあいつららしいな。
一方のヤマトガーディアンの選手達は一切攻撃を仕掛ける事もなくヤマト達の攻撃を受け続けていたそうだ。
ヤマトとしてはこの一方的な試合展開で現行勇者の実力をとことん観客達に見せつけた後にフィニッシュを決めるつもりだったのだろう。
しかしその時イザナミがおもむろに前に出てきたかと思うと、聞き覚えの無い魔法の呪文を詠唱してヤマトガーディアンの選手達をまとめて薙ぎ払ったそうだ。
その一撃でヤマトガーディアンの選手達は全員戦闘不能となり、試合は終了となった。
「本当に凄い威力だったミャ。下手したら死人が出てもおかしくなかったミャ」
余程彼らのやり方に鬱憤が溜まってたんだろうね。
「それで、それはどんな魔法だったの?」
「んーとね、私も一瞬の出来事だったからはっきりとは見えなかったんだけど、杖の先から一筋の閃光が放出されたかと思ったら、次の瞬間にはもうヤマトガーディアンの選手は全員宙を舞っていたミャ。恐らくその光の筋に触れたからだと思う」
「光魔法ですか……」
それが本当ならば想像以上に恐ろしい魔法だ。
人間は光の速さで動く事などできない。
それはつまり光魔法に狙われたら決して避けられない事を意味する。
それ程の威力を持っている光魔法など聞いた事もない。
「実際にその魔法を使うところを見たかったな」
直接見ていれば何か対策を思いついたかもしれない。
俺は試合を観戦しなかった事を後悔した。
「おいイザナミ、お前一体どういうつもりだ!」
ヤマト達勇者パーティが控室に戻ってきた。
随分とご立腹なヤマトに対してイザナミは真っ向から反論をする。
「どういうつもりって? あんな相手に苦労してたみたいだったから手っ取り早く終わらせただけだけど?」
「馬鹿かお前、あれは俺達の強さを観客達に見せつける為にわざと手を抜いていたんだよ」
「知らないわよそんなの。私何も聞いてないし」
「それくらい察しろよ! それにあんな魔法があるならどうしてゴーレム討伐の時に使わなかった!」
イザナミは溜息をついて答える。
「あの時言ったでしょう。あんた達がゴーレムに近付き過ぎてたからあそこで使ってたらあんた達まで巻き込んじゃうって。それでも良かったの?」
「ぐぬぬ……もういい、お前は次の試合では何もするな! このパーティのリーダーは俺なんだぞ。俺より目立つような行為は慎め!」
「はいはい」
イザナミはその一部始終を眺めていた俺に気付くと、肩を竦めて両掌を上に向けやれやれと言った仕草をする。
俺達はこの後カグツチとの試合が控えているがこのイザナミの攻略法も考えなくてはいけないので頭が痛くなってきた。