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第17話 S級パーティVS格闘王


「くそっ、あんなガキ二人に無様にやられやがって。お前達のような役立たずは公爵家には必要ない。追放だ、どこへでも行ってしまえ!」


「そ、そんなあ」

「ヤマトお坊ちゃん、追放だけは勘弁を……」


 治療を終えて控室へ戻ってきたヤマト親衛隊の選手達に対し、ヤマトは労いの言葉をかける事もなく逆に人目を憚らずに罵詈雑言を浴びせていた。

 もう彼らが自分達の手の者だという事を周囲に隠す気もないらしい。



「うわあ、最低……」

「いくらなんでも酷すぎますね」


 チルとサクヤもそれを複雑な表情で眺めている。

 あいつらのやる事なす事全てが教育上宜しくない事ばかりだ。


「いいかい、チル、サクヤ。君達は絶対にあんな大人になっちゃだめだよ」


「それは絶対にないので安心して下さい」

「どう見ても物語に出てくる断罪対象者そのものですよね」


 どうやら彼らは反面教師としてはかなり優秀な部類に入るようだ。




「いやあ見事な勝利だったミャ。私達も肖りたいミャ」


 気を取り直して控室で体を休めていると、S級冒険者パーティエキゾチックスのリーダーマドウカが俺達の勝利を祝福しにやってきた。


「でも結局クサナギの魔法は一度も見れなかったミャ。やっぱり切り札は最後まで取っておくものだミャ?」


「え? ああ、まあそんな感じだね」


 実際はクロースレスを使おうとしたらチルに邪魔をされただけなんだけど、結果的に手の内を晒さずに済んだのは好都合だ。


「誰にも言わないから私にだけどんな魔法を使うのかこっそりと教えて欲しいミャ」


「それは俺達と対戦する時までのお楽しみという事で」


「むー、誘導尋問には引っ掛からないみたいミャ。クサナギは意外とガードが固いミャ」


 当然マドウカもそう簡単に情報を引き出せるとは思っていなかったようで、いかにも冗談っぽく大袈裟に拗ねてみせる。

 まあ俺の魔法はガードを消す側なんだけどね。



「カグツチとエキゾチックスの選手達は競技場へ移動して下さい」


「おっと、次は私達の試合だミャ。じゃあ準決勝でまた会おうミャ」


 マドウカ達は大会スタッフに案内されて競技場へ向かった。



 俺達の次はエキゾチックスと格闘王カグツチの試合だ。

 勝った方が俺達ワークスリッターの準決勝の対戦相手になる。


 俺はチルとサクヤを連れて選手用の観戦席に移動する。


 たった一人で戦う格闘王カグツチに対し、エキゾチックスのメンバーは四人だ

 この時点では誰もがエキゾチックスの勝利を信じて疑わなかった。




「始め!」


 審判の合図で、エキゾチックスの四人はカグツチを囲むように散らばる。


「みんな、対人型魔獣用のフォーメーションで行くミャ!」


 マドウカの合図で四人が一斉に攻撃を開始する。


 マドウカは魔法と双剣を巧みに操りながらカグツチの周囲を走り回って相手を撹乱し、戦士ミケはその隙にやや離れた位置から長槍を突き出す。

 魔法使いスコティが後方から炎の弾を絶え間なく撃ちだし、僧侶のナベシマは身体強化系の補助魔法で仲間を援護する。


 これがエキゾチックスが人型魔獣の討伐用に編み出した必勝パターンだ。


 しかし相手は魔獣よりも遥かに強い人間である。

 カグツチはエキゾチックスの動きに翻弄されて防戦一方に見えたが、その実は反撃のタイミングを測っていた。


 カグツチは両手に装備した鋼鉄の籠手でエキゾチックスの全ての攻撃を捌いている。

 見事な体術だ。


 そして戦士ミケが長槍を繰り出した瞬間、その動きを読んでいたカグツチは長槍を掴み取り引っ張ると、ミケの身体は一瞬でカグツチの下へ引き寄せられる。


「ニャ!?」


「まず一匹!」


 カグツチの渾身のストレートがミケの顔面を捉えた。


「危ないミケ! ……リキッドブレイク!」






「む!?」


 カグツチ程の使い手の一撃をまともに受ければS級の冒険者といえどもただでは済まないはずだ。

 しかしそれを受けたはずのミケの身体は傷一つなく、平然としている。


 カグツチが戸惑っている隙にミケは後ろへ飛びカグツチから距離を取る。


 それを観戦していたチルが俺に疑問を投げかける。


「クサナギさん、今のは何ですか? あたしにはカグツチの拳がミケさんをすり抜けたように見えましたけど」


「うーん……何だろうね?」


 俺にもそのように見えた。

 ミケは完全にバランスを崩していたので、あのストレートをかわしたとは考え難い。

 カグツチの拳は間違いなくミケに命中しているはずだ。


 幻覚魔法でカグツチを惑わせたという可能性も考えられない。

 カグツチ本人に幻覚を見せるのはともかく、俺達が錯覚した説明がつかない。

 それにもしカグツチが幻覚魔法を掛けられていたのなら、幻覚魔法を掛けられた事を示す灰色の光がカグツチの身体を覆っているはずだ。


 いや、むしろ光を纏っているのは……。


 俺はミケの身体が水色の光に覆われている事に気付いた。

 それはミケに何らかの魔法が掛けられている事を意味するが、あんな色の光を放つ魔法を俺は知らない。


 それにさっきまではそんな光は見えなかった。

 という事は、ミケがカグツチの拳を受ける直前に何らかの魔法を掛けられたという事だ。


「スコティだ」


「えっ?」


 エキゾチックスの魔法使いスコティは並外れた魔力を持っている。

 彼女程の魔法使いなら、俺のクロースレスのように誰も知らないオリジナルの魔法を作り出していてもおかしくはない。



「そこの魔法使い、お前が何かをしたのであろう?」


 カグツチも今まで数々の修羅場を潜り抜けてきた歴戦の猛者だ。

 どうやら俺と同じ結論に辿り着いたようだ。


「さあ、何をやったんでしょうねえ? 自分で考えてみなさいミャ」


「よかろう、言う気がないのならこの拳で語らせるのみだ」


 今まで一歩も動かずにエキゾチックスの攻撃を捌くだけだったカグツチが、ついに自ら動き出した。


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