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第15話 バトルトーナメント予選

 バトルトーナメント本戦の前に、まずはバトルロイヤル形式の予選が行われる。


 次期勇者パーティを決める大会だけあって実戦を想定しており、武器やアイテム、魔法の使用については一切制限がない。

 しかし相手を殺してしまった場合は失格となるのでその一点だけは注意して戦わなければならない。

 競技場の端には万が一に備えて回復魔法を専門とする医療スタッフが控えている。

 腕の一本や二本斬り飛ばされた程度なら一瞬で全快させられる腕前の者ばかりだ。


 正直言って現行の勇者パーティの一員である僧侶のミコトよりも有能なのではないだろうか。


 パーティのメンバー全員が戦闘不能になるか降参を宣言すると敗退となる。

 本戦に出場できるのは最後まで残っていた8チームだけだ。


 選手達が競技場内に入場すると、観客席から大歓声が巻き起こった。


「あれが勇者ヤマトだ。戦士タケルもいるぞ!」


「S級冒険者パーティ、エキゾチックスのメンバーもいるぞ! 優勝はあいつらで決まりだろ」


「見ろ、あそこにいるのは孤高の格闘王カグツチじゃないか!? あいつパーティ戦なのにひとりで戦うつもりか?」


「そういえば英雄ヤマツミの娘達も参加してるって話だぜ」


「あっちにいるちっこい二人か? へえ、父親に似ずにかわいいな。俺は彼女達を応援するぞ!」


 王国全土から集まってきた歴戦の強者達を目の前にして観客達のボルテージも最高潮だ。

 しかし一年以上前に勇者パーティから追放された俺に対してコメントをする観客はひとりもおらず、少し寂しい気分になった。


 競技場内の全ての選手が配置に着いたところで審判が予選の開始を宣言する。


「それではこれより予選を開始する! 始めっ!」


「うおおおお!」

「本戦に残るのは俺だああああああああ!」


 審判の合図と同時に各パーティが一斉に動き出した。


 バトルロイヤル形式ではまずは優勝候補となるパーティが集中的に狙われる。

 真っ先に狙われたのは格闘王カグツチだ。


 有象無象の冒険者達は、たった一人で参加をしていたカグツチならば四方から袋叩きにすれば簡単に倒せると考えたのだろう。


 しかしその考えは甘かったと言わざるを得ない。




「フンッ!」


「ぎゃああああああ」


 限界まで鍛え抜かれた格闘王カグツチの繰り出す拳は衝撃波を生み、触れずとも周囲の選手達をダース単位で吹き飛ばしていく。

 下手な魔法よりもよほど強力だ。


「次」


「ひいっ、助けてくれええええええ!」

「む、無理だ……俺は降参する!」


「ふん、つまらぬな」


 開始から僅か数秒でカグツチの近くには人がいなくなった。

 もう何もしなくても彼が予選を突破するのは確実だろう。





「ミャミャミャミャミャミャ!」


「うわあああああ、動きが見えない!? 奴はいったいどこに……」


「後ろだミャ! てりゃっ」


「ぐはあっ」


 素早い身のこなしで敵を翻弄しながら撃破していくのはS級冒険者パーティ、エキゾチックスのメンバーだ。


 魔法戦士、戦士、魔法使い、僧侶といったオーソドックスな構成のパーティだが、それに猫獣人特有のしなやかな足腰を最大限に活かした攪乱戦法が加わるとその戦い方はまるで違ったものになる。


 あっという間に彼女達の周りからも他の選手達の姿はなくなった。


「もう誰も来ないのかニャ? それじゃあしばらくここで休憩しながら見物するミャ」






「えいっ、たあっ!」


「いきます、電撃魔法サンダースピア!」


「うぎゃああああああ」


 チルとサクヤの二人は襲い掛かってくる選手達を剣と魔法の見事なコンビネーションで次々と撃退していく。

 最初は小娘二人だと舐めてかかっていた者達も次第に本気になっていった。

 それに伴ってチルとサクヤは徐々に押されていく。


「はぁはぁ……まだまだっ!」

「後何人いますか?」


「チル、サクヤ、大分息が切れてるぞ。そろそろ手伝おうか?」


「結構です。クサナギさんは後ろに下がっていて下さい!」

「予選なんかでクサナギさんの力を借りるつもりはありませんから」


「あっはい」


 二人にとってはこれはあくまで修行の一環である。

 俺は二人の邪魔にならないように後ろに下がって二人を見守る。


 一か月前と比べると彼女達は本当に成長した。

 今ならS級とはいかないまでも、二人だけでA級パーティに相当する力があるんじゃないだろうか。


 周りを見ると、既に半数以上のチームが脱落しているようだ。


 カグツチとエキゾチックスが予選を突破するのはもう確実だろう。

 予選なんかで彼らとやりあって消耗するのは得策ではない。

 このまま彼らには近付かないようにしよう。



「そういえばあいつらはどうなった?」


 ふと気になってヤマト達の方向を見るとおかしな光景が見えた。

 50人近い選手達がヤマト達を守るように陣形を組んでいる。


「ああ、そういう事ね……」


 ヤマト達は確実に勝ち進む為に、親の権力を利用して息のかかった者達を大勢この大会に参加させていたのだ。

 実質50人パーティで戦っているようなものだ。

 そんなヤマト達に近付こうとする者は誰もいない。


 どこまでも汚い奴らだ。

 しかしルール上不正には当たらないからいちいと文句を言うつもりはない。


 ちなみにイザナミという魔法使いはヤマト達の後ろで白けた目でボーっと突っ立っているのが見えた。

 あなたのお気持ち良く分かります。




◇◇◇◇




「そこまで!」


 予選開始から約30分、本戦への出場を勝ち取った8チームが決まった。


 大会の進行役はその8チームの名を読み上げる。


 格闘王カグツチ。

 S級冒険者パーティ、エキゾチックス。

 勇者ヤマト率いる勇者パーティ。

 ヤマト親衛隊。

 ヤマトガーディアン。

 ヤマトトルーパー。

 ヤマトファイターズ。


 ……下の四つはヤマトの手下達で間違いないな。

 もっとバレないような名前にしろよと思うが、チーム名を考える時間がなかったんだろうな。



 そして最後に名前が挙がったのが俺達ワークスリッターだ。

 有言実行、最後まで勝ち残る事ができたチルとサクヤの二人は得意満面だ。


 続いて本戦のトーナメント表が張り出された。


 ワークスリッター VS ヤマト親衛隊。


 格闘王カグツチ VS エキゾチックス。


 ヤマトファイターズ VS ヤマトトルーパー。


 勇者パーティ VS ヤマトガーディアン。



「ほほう、初戦の相手はヤマトの手下その1か」


「クサナギさん、メッタメタにしてやりましょう!」

「私が先行します。いいですよね?」


 二人の戦意も十分だ。

 しかし組み合わせに作為的なものを感じる。


 順当に行けば決勝戦の相手は間違いなくヤマト達勇者パーティになるだろうな。


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