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第14話 顔を合わせたくない奴ら

 バトルトーナメントの開催当日。


 俺とチルとサクヤはヤマツミ伯爵が手配した馬車に乗って王都にある国際競技場にやってきた。

 その入り口で参加手続きを行う直前、俺達はまだパーティ名を決めていなかった事を思い出す。

 俺としては特に希望はないのでチルとサクヤの二人に意見を聞く。


「クサナギ団とかどうですか?」


「いや、今回は君達がメインであって俺はあくまでおまけだから」


「じゃあワークスラブリーシスターズで」


「どんなネーミングセンスだよ」


「ぶー」


 いくつか意見を出し合った結果、最終的にチルとサクヤがワークス出身という理由でワークスリッターという名で登録をする事に落ち着いた。


 参加手続きを済ませて選手の控室に入ると、その中は屈強な冒険者達でごった返していた。

 ざっと参加者を数えてみたが総勢五百人以上はいるな。

 誰も彼も王国内で名が知れた武人や魔道士ばかりだ。


 この中に入ると一見普通の少女であるチルとサクヤはとても浮いている。


「チル、サクヤ、大丈夫か? 怖気づいたりしてないよな?」


 しかし俺の心配を余所に、二人は落ち着いていた。


「ワークスの冒険者ギルドの中とあんまり変わりませんよ」

「お父様と比べたらひ弱そうな人たちばかりです」


 あんな父親と一緒に暮らしていれば度胸も付くか。

 むしろ俺の方が腰が引けているな。


 俺は深呼吸をして精神を落ちつかせる。


「おいクサナギ!」


「あ?」


 俺を呼ぶ声がしたので振り向くと、そこにはヤマト達が信じられないような目をしながら立っていた。


「お前こんなところで何をしてやがる!」


「何って、バトルトーナメントに参加する為に来たに決まってるだろ」


「そんな事を聞いてるんじゃない。何勝手に他の奴と一緒に参加してるんだよ。俺達のパーティに戻ってくるように連絡しただろうが」

「お前が勇者パーティの一員として戻ってこれるように、俺達がせっかくチャンスをくれてやったってのによ」

「そうよそうよ、どんだけ恩知らずなのあんた」


 役立たずと言ってパーティから追放しておいたくせに、あんな上から目線の手紙で呼び出されて素直に戻ってくる訳ないだろうが。

 俺はあの時と全く変わっていない三人の様子に憐みすら覚えた。


 ふと三人の後ろを見ると、見た事がない魔法使いの女性が無言で俺達の様子を眺めていた。

 ヤマト達と一緒にいるという事は、俺が追放された後に勇者パーティに加入した人物だろうか。

 だとしたらそもそもお前らのパーティに俺が入る枠はないじゃん。


「俺がどのパーティで参加しようが勝手だろ。それにお前のパーティはちゃんと四人いるじゃないか」


「お前が返事を寄こさねえから頭数を合わせる為に仕方なくこの役立たずを連れてきたんだよ」


 ヤマトは仲間に対して酷い言い草をする。

 まあ俺に対してもそうだったんだが。


 彼女も俺と同様にこいつらに良い様に扱われていたんだろうか。


 俺は彼女の事が気掛かりになり、その顔色を伺う。


 彼女は眉ひとつ動かさずにヤマトの罵倒を聞き流していた。

 我慢している感じではない。まるで初めからヤマトの事など眼中にないかのようだ。


 それに俺も魔法使いの端くれだ。

 相手の近くに立つだけででどれだけの魔力を宿しているのかを感じる事ができる。


 俺の見立てでは彼女はかなりの実力者だ。

 それこそヤマト達よりも遥かに強い。


「クサナギさん、この人達が例の落ちこぼれ勇者パーティですか?」

「さっきから感じ悪すぎなんですけど」


「何だとこのクソガキども!」


 俺とヤマト達の言い争いにチルとサクヤも加わり、一触即発状態になる。

 ヤマトが腰に差した剣の柄に手を乗せたその時だ。


「ここで揉め事を起こしたら参加資格を失いますよ」


 さっきまで黙って様子を見ていた魔法使いの女性が口を開いたかと思うと、俺達とヤマト達を分け隔てる様に光の壁が現れた。

 高位の魔法使いのみが使いこなす事ができるという結界魔法だ。

 これではお互い近付く事すらできない。


「けっ、邪魔をしやがって。クサナギ、観客達の前で叩きのめしてやる。首を洗って待ってろよ」


 ヤマト達三人は悪態をついてこの場を離れていった。


 三人がいなくなったのを確認して、魔法使いの女性は結界を解除する。


「クサナギさん、兼ねてよりお噂は伺っております。本戦では存分に戦いましょう」


「……あなたはあいつらとは違うようですね。お名前を伺っても?」


「私はイザナミと申します。それではごきげんよう」


 それだけ言ってイザナミと名乗る魔法使いは去って言った。



「なんなんニャ? あんなのが勇者パーティなのかニャ?」


 今度はエキゾチックスのリーダーマドウカが俺達に近付いてきた。

 今までの様子を離れた所から眺めていたらしい。


 その後ろには三人の猫獣人が控えている。


「クサナギ、彼女達は君とは初対面だったはずミャ。皆君達と戦えるのを楽しみにしてたミャ。それにチルとサクヤの二人も以前とは比べ物にならないくらい成長してるみたいだミャ」


 それぞれ戦士ミケ、魔法使いスコティ、僧侶のナベシマと名乗り、俺達に挨拶をする。

 いずれもその気配から百戦錬磨の手練れという事が分かる。

 その中でも特に気になったのは俺と同じ魔法使い職であるスコティだ。

 彼女からはマドウカやイザナミと同等かそれ以上の魔力を感じる。


「それじゃあ本戦で会おうミャ。予選なんかで振り落とされたりしないでくれミャ」


「それはこちらのセリフだ」


 俺とマドウカは握り拳を合わせて本戦で対戦する事を約束して別れた。


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