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《狂戦士》
発現者――グレイ・アーレンス
黒紫の禍々しい全身鎧と大剣を発現させる魔装。
《白の王》と《魔女を狩る者》の通常形体をかけ合わせたような見た目をしており、身体能力の向上に加え、鎧と剣も高い性能を誇る。
また、その力を押さえる事なく発揮した場合、鎧は四足獣ような姿へと変化し、更に身体能力は劇的に引き上げられるが、同時に使用者の理性や人間生は消し飛び、マナが尽きるまで暴れるだけの野獣と化してしまう。
力の扱い方を覚えるまで、この魔装によりグレイが起こした問題は数しれず、『狂犬』という異名の由来となった魔装。
秘匿能力は〈冷静沈着〉。
その莫大な力を調整し押さえ込む事ができる。
凶暴なだけのガキ、暴れるしか能がないと言われ続け、その度に憤りを覚えていた事が影響した能力。
《復讐者》
発現者――グレイ・アーレンス
敗北を喫した相手と対峙した場合にのみ、発動が許される魔装。
失った右眼に蒼く輝く炎の如きオーラが灯るのと同時に、グレイの能力を爆発的に高める。
元々はアリスの魔導具との再戦に向けて創造した魔装であったが、その判定はシビアなものであり使用不可であった。
しかし想定以上に限定的な能力となってしまったが故に、その性能も極めて高く、ベルツの《騎士の誇り》を上回っており、完膚なきまでに叩き潰された相手にほど、その効果を発揮する。
根が負けず嫌いなグレイに見事に合致した魔装。
《救いの杖》
発現者――ミント・キャラット
癒やしの力を持った白き杖を発現させる魔装。
治癒速度はそこまで早くはないが、効果範囲に居る者ならば複数人同時の治癒が可能であり、対象を絞る事でその効果を高める事もできる。
また、触れているだけでも自動的に傷を癒やす効果があるため、使用者が多少傷を負っても問題はなく、他を優先する事も可能。
欠点のないように思える非常に便利な魔装であるが、マナの消費は多く、実は杖自体が凄まじく重い。
発現させてすぐの頃は、ミント自身が持ち上げられなかった程。
しかし今では緊急時の武器としてその重さも利用しており、一般人では殴られたらただでは済まない。
何故か非常に気の抜ける軽い打撃音が必ず響くが、岩を砕ける。
《君の隣に》
発現者――ミント・キャラット
愛するナクリ・キャラット専用の光の剣を発現させる魔装。
ナクリの力が及ばぬ敵を前にした場合かつ、彼の許可がなければ発動ができない。
これは当時はプライドの塊であったナクリに配慮した結果であり、ミントの献身的な気質がよく表れた魔装である。
《復讐者》同様、非常に限定的な発動条件があるため、その効果は破格のものであり、強大な敵を前にするほどナクリの能力を飛躍的に高める。
また、発動中はミントは《救いの杖》を扱えなくなるが、動けなくなるという事はない。
力の足りない自分でも、必要ないとしても、余計なお世話だと思われても、ナクリの力となり隣に立ちたい、というミントの願いの形。
《心無き盗賊》
発現者――ネレス・アーレンス
他者の魔装を盗み取る魔装。
発動しても特に何かが出現するわけではなく、気がつかぬ内に能力を奪われる。
盗んだ魔装は一つだけストックしておく事が可能であり、入れ替えるためには先に盗んだものは持ち主に返還するか、破棄しなければならない。
魔装はその者の魂と密接な繋がりがあるため、ネレスに掠めとられた者はその間植物状態のような症状へと陥る。
魔装を奪取する為にはいくつかの手順を踏む必要があり、まずは対象の悩みを何か一つ解決し、信頼関係を築かなければならない。
その上で盗みたい魔装の特性、発現した状況、込められた想いを知り、他に目撃者の居ない場で、マナが枯渇した状態の相手から手を差し伸べられて初めて魔装を盗む事が可能となる。
心を開いた相手の手を取り、振り払う無慈悲な魔装であり、当時はともかく現在はネレス自身もあまり好んでは居らず、使用頻度も少なくなっていた。
《手綱は我が手に》
発現者――ネレス・アーレンス
対象に嵌る光の首輪と、そこから伸びる光の手綱を発現させる魔装。
手綱はネレスの手と繋がっており、首輪の嵌められた相手を自在にコントロールする事ができる。
対象を操作している間も本人は自由に動く事が可能であり、操られている側も意思までは奪われていない。
《心無き盗賊》同様、生い立ちや性格、身体構造等、その他諸々対象について深く知る必要があるが、数度の身体的接触(どこでも可だが、計三日ほどの時間が必須)を経ていれば、こちらは限定的な状況を作り出さずとも制御を奪う事が可能であり、心を開かせる必要もない。
しかし、当然ながら信頼関係を築いた相手の方が制御はしやすく抵抗がないため成功率も上がる。
元々相手を選びネレスはこの力を使用していたが、今では事実上グレイ専用の魔装となった。
秘匿能力は〈飼い主〉。
これは対象がネレスの支配下に置かれる事を一切拒まなかった場合にのみ、その能力が飛躍的に高まるというもの。
対象の深層意識も影響しており、強い絆がなければ成立し得ない力。
利用するだけの関係を割り切りながらも、やはり心の何処かで無意識に厭っていた事が影響した能力。
《月光》
発現者――ミツキ・メイゲツ
一定の範囲に月夜の空間を創り出す魔装。
自身があたかも月のように範囲内の者を照らす事で、任意にその者達の能力を向上、または低下させる事ができる。
また、使用中は本人は動けず無防備になる代わりに、月明かりから影の兎と植物――〈月兎〉と〈月見草〉を生み出す事が可能。
この二つは基本的に護身用ではあるが高い性能を誇り、一度の展開には上限が存在するものの、マナが許す限り何度でも創造する事ができる。
本来であれば都市一つを覆ってしまう程の効果範囲はなく、やろうと思えば実力者であればミツキ自身は動けないため逃亡は困難、というわけではない。
とはいえ閉ざされた空間や挑みかかってくる、または逃げる事のできない相手に対しては非常に有効であり、問答無用で敵は弱体化し仲間は強化されるため、味方が存在するのであれば単純な比較は難しいが、ノエルの《伴侶》の上位互換とも言えるだろう。
なおこの魔装は後述するミツキの第二の魔装と密接な繋がりがあり、二つで一つの魔装のようになっている。
《月光》
発現者――ミツキ・メイゲツ
上述した同名の魔装で力を貸した者からのみ、力を受けとり自身の能力を向上させる魔装。
発動するとミツキは他者から力を受け、淡い月光のような光を全身に纏う。
発動には事前に一つ目の《月光》を使用しておく必要があり、その際に強化した時間、人数によって持続時間と効果が大きく変化する。
本来であれば無理矢理に力を取り立てる能力ではないため、対象となった者もそのまま動き続ける事は可能という、仲間の数だけ強くなるはずであった魔装。
秘匿能力は〈忘れぬ輝き〉。
心から愛する姉たち、また、彼女たち程に互いに信頼関係を築いた相手であったのならば、一つ目も、そして二つ目の魔装も効果が高まるというもの。
ノイルとの戦闘を経て、最期の瞬間にミツキは自身の魔装の本質に気づいた。
いつまでも褪せないあの日の輝きと、姉達への想いが影響した能力。
《夢いっぱいの玩具箱》
発現者――ミエン・メイゲツ
様々な魔装が詰まった玩具箱を発現させる魔装。
箱自体は手のひらサイズであるが、中に入っている魔装は巨大なものから極小のものまで大きさもその能力も様々である。
一度に取り出せる魔装は二つまでであり、その名の通りどれも玩具のような見た目をしているが、全てが立派な力を備えている。
遊び心に溢れた魔装かつ非常に強力で応用の幅が広い。
しかし、一度破壊されてしまった玩具は二度と修復はされないという欠点があり、全て壊れてしまえばただの箱となってしまう。
ミエン自身は芝居がかった口調で「子供の玩具って儚いよね……」と、その致命的な欠点を度々ネタにしていた。
《こっちおいでっす》
発現者――ニノン・ロマリィ
一定の範囲に使用者も含めた全員を弱体化させる空間を展開する魔装。
効果範囲は広くはないが、丸い球体状の結界が地下も関係なく発現する。
この空間に取り込まれたものは、生物だけに留まらず、それから発せられる魔装、魔法、その他能力、あらゆるものが抗えぬ弱体化を受けてしまう。
ただし自然物や建造物には影響を及ぼさないが、それがまた厄介さを底上げしている。
この魔装による効果は凄まじく、皆平等に恐ろしい程に一定のレベルまで落ちる。
動きはスローモーションにほど近くなり、技術も未熟なものとなってしまう上、身体強度も何もかもが脆弱となる。
ミリスですら、中に居る場合は破ることができない。
外部からの干渉は可能ではあるが、遠距離の攻撃をした所でそれが効果範囲内に入れば、その瞬間に攻撃自体が弱体化する。
しかし、元々は皆自分と同じ弱さに落ちてしまえば何も出来ない、という怠惰な発想から生まれたこの魔装の効果を最も受けるのは、他でもないニノン本人という致命的過ぎる欠陥を抱えているため、発動すれば確実に敗北するというある意味最強ながらもどうしようもない能力。
加えて、ニノンが捕まれば解除されてしまうというおまけ付きである。
更に当然マナが尽きれば解除されてしまうため、待っているだけで勝手に自滅する。
とはいえ、時間稼ぎや争いを止める事に関してならば非常に優秀であり、スローモーション状態でのニノンとの追いかけっこは酷い泥仕合の様相を呈する上、バリケードを拵え、マナボトルを用意した状態で発動し籠城されるとひたすら待つくらいしか打つ手はない。
抑止力としてあまりにも有用であったため、ニノンの意図に反し争いを激化させた悲しく虚しい魔装。
《記憶のカケラ》
発現者――ノイル・アーレンス(アステル)
ノイルがアステルの力を借りて発現させた魔装。
アステルが『神具』であった頃に憑依した存在の能力をランダムで再現する。
それは人物だけに限らず、魔物や動物、果ては採掘跡まで再現する可能性を秘めている。
ただしアステルも『神具』時代の殆どの記憶を失っているため、発現した能力はぶっつけ本番で試す必要があり、マナ量の減少したノイルでは劣化した状態になる場合が非常に多い。
状況に即した能力を発現させられるかも運次第なため、非常に安定感のないあまりにもピーキーな魔装。
これを使いこなすには使用者の工夫や技術、運が重要になるが、ノイルはアステルをその身に宿している間なんとかやりくりしていた。
とはいえ、目的と合致した能力が発現した場合は強力無比な魔装となり得るため、初見の能力も上手く扱えさえすれば時に脅威的な力を発揮する。
一度発動すれば即解除してもその能力に応じたクールタイムが存在し、好みの魔装となるまで連続で発現させる事は出来ない。
新作の投稿始めました。
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「無色の魔女は世界を染める」
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