ネレス
とりあえず、人物紹介の女性編は、ここまで細かく書くのはネレスで最後になるかなと思います。
男性編は、書くかどうか悩んでいる所です。
変革者編は⋯⋯。
ネレスが長くなってしまったように、《六重奏》や『曲芸団』のお話も番外編として考えてはいるのですが、一旦バッドエンドになるのが見えてるんですよね⋯⋯。
◆ネレス (ネレス・アーレンス)
36歳(本編終了時37歳)
黒髪黒眼で背が高く美形の普人族の女性。
魔装
《心無き盗賊》
《手綱は我が手に》
ノイルの実母。
元々は、帝国貴族の落し子である。
とある娼館の女性が生んだ子供であり、秘密裏に処理されるはずだった所を、娼館の女性達が結託して海を渡らせ帝国を脱した。公的には彼女は死亡した事になっており、存在しないはずの人物である。赤子の頃に母親の手を離れたため自身の名も知らず、彼女の生まれた娼館はその後潰されている。彼女が生き延びる事が出来たのは奇跡的な確率であり、物心がつく頃には孤児院で暮らしていたが、劣悪な環境であったため、幼くして自らその孤児院を抜け出す。以降は浮浪児として各地を転々としていた。それは彼女が元々優れた才を有していたからこそ可能であった生き方であり、幼い頃から頼る者の居なかった彼女の生存能力は非常に高く、世渡りの能力も優れている。
生きる為に、口に出せぬような様々な手段も用いてきた事もあり、自身を真っ当な人間だと思っていない。なお、《心無き盗賊》と《手綱は我が手に》はそんな生活の中で発現した魔装である。
《心無き盗賊》は、本来は自身に対して心を開いた人間から魔装を奪い取るという能力であり、魔装を盗まれた相手は魂が抜けるようなものであるため、彼女が魔装を返還するまでは植物状態に陥る。《手綱は我が手に》も同様であり、こちらは彼女が魔装を発現させている限り、自由に対象を操る事ができる。どちらも他者を自身の都合で利用する魔装であり、彼女はこの2つを用いて、独り生き抜いていた。とはいっても、彼女は奪った魔装は用が済むと必ず本人に返還している。
そんな彼女に転機が訪れたのは、10歳になった頃だった。
未だ幼かった彼女だが、ある日『隠匿都市』を発見する事になる。それまで誰にも確認されていなかった『神具』が、まるで彼女を選んだかのようにその姿を現したのだ。
それ以来、彼女の拠点は『隠匿都市』となる。内部に他の『神具』は残されていなかったが、その自在に姿を消す事のできる都市だけでも充分過ぎる程の贈り物であった。独学で都市の動かし方を学んだ彼女は、活動の幅を大きく広げる。まずは自身が何者であるのかを調査し、出生の秘密にたどり着いた。そして、彼女の義賊としての生活が始まった。不当に財を蓄えた貴族や商人からその財を盗み、恵まれない者たちに配分する。更には、危険な『神具』などの回収にも積極的に動いた。自身と同じ様な浮浪児や身寄りのない者たちをスカウトし、勢力を広げていった。本人は自分が気に入らない相手に報いを受けさせているだけという意識でしかなかったが、いつしか彼女を中心とした集団は力無き者の救いとなっていた。しかし同時に、『浮遊都市』、『海底都市』と並ぶ世界三害都市として認定される。とはいえ、元より自分たちも無法者という意識で活動していた彼女は、それを気にする事などなく、むしろ当然だと思っていた。自分たちは真っ当な集団ではなく、正義の味方でもない、だからこそ、彼女たちは決まった名を名乗ることは決してなかった。それでも事を起こす度に、自分たちが現れた証を必ず残していたのは、他の者が誤解で疑われないようにするためである。
世界的に有名になった義賊の頭領である彼女は、しかし未だ成人を迎えていない少女でしかなかった。とはいえ集った者たちは皆が彼女を慕っており、その精神とカリスマが如何に優れていたのかは言うまでもない。
義賊として活動していた彼女に再び転機が訪れたのは、12歳になった頃であった。ある日、一人の創人族が姿を隠しているはずの『隠匿都市』の居所を突き止め、訪ねて来たのである。それは、言わずと知れた『創造者』――ロゥリィ・ヘルサイトであった。
自分たちの居場所を突き止めたロゥリィのその卓越した能力に、彼女は衝撃を受け、当初は強い警戒心と敵対心を抱いた。しかし、ロゥリィは彼女たちを捕らえに来たわけではなかった。ロゥリィはガラの悪い笑みを浮かべると「クソガキ、アタシがアンタに勝ったら、その都市を良く見せてもらえるかい?」と楽しそうに彼女に声をかけたのだ。ロゥリィは、個人的な興味で彼女たちの元を訪れただけであった。その提案を彼女は承諾し、二人は茶番だと理解しながらも決闘を行った。結果的にはロゥリィの敗北で終わったが、それはまがりなりにも頭領であった彼女に華をもたせた故の決着であり、この時点ではロゥリィには逆立ちをしようが敵わなかったと彼女は思っている。
それから彼女とロゥリィの付き合いは始まり、たまに訪れるロゥリィとの会話は、彼女の楽しみの一つとなった。
更に一年ほどが経過した頃に、ロゥリィにグレイとナクリ、それからミントを紹介され、問題児二人の矯正を一任される事になる。ロゥリィに、「息抜きには丁度いいだろ?」と言われた彼女は、呆れながらもこれを承諾。『曲芸団』が結成された。当時の暴れん坊二人の真の『飼い主』の正体が、成人すらしていない少女だったなどとは、誰も信じないだろう。当然ながら、二人は彼女に従う事に猛反発し、彼女はそんな二人をボコボコにした。自身の力には自信のあったグレイとナクリは、年下の少女に完膚なきまでに叩きのめされた事で思い上がりを知り、大人しくなる。以降は度々二人をボコボコにしながら仲を深めていった。そして、いつしか自身に好意を向け始めた二人に気づいてはいたが、色恋に興味がなく、また、ミントの想いも察していた彼女は当初は相手にしていなかった。しかし、何度無下にあしらわれようが諦めないグレイの不屈のアプローチに、呆れながらも関心を抱くようになる。それが自身に名を与えた彼に対する仄かな好意である事を自覚するまでに、時間はかからなかった。初めての自身の感情に戸惑い表には出さないながらも、悪い気はしていなかった。
そして、遂にはグレイに根負けする事になる。あろうことか、彼は彼女との一騎打ちに勝利したのである。自分が勝ったら恋人になってくれという条件を突きつけた上での、執念の勝利であった。彼女は驚嘆し、呆れながらもグレイを受け入れる事になった。そして、ノイルをその身に授かる。
同じく彼女に想いを寄せていたナクリは、その時になって自身の感情を理解し、後悔はしていたがこの時点大きく関係が悪化する事はなかった。
『曲芸団』に決定的な亀裂が生じたのは、ノイルが無事に生まれ、不吉な予言が告げられてからである。必死に感情を抑え込んでいたナクリは、確かかもわからない予言を信じ、ノイルを手放す決断をした彼女と、それを支持したグレイに憤りを爆発させた。グレイに喧嘩を吹っ掛け、ミントの《君の隣に》を用いて彼を打ち負かす。しかしそれはやり場のない怒りをぶつけただけの癇癪のようなものでしかなく、グレイと彼女の決断は変わるはずがなかった。
ミントの尽力もあり、後に関係は修復され笑い話となったが、自身を中心としたこの痴情のもつれに関しては彼女は今でも自ら言及する事は避けており、この話題を振ると珍しい弱った表情を見ることができる。
『曲芸団』が解散してからは、アリスの魔導具をその身に封じたロゥリィのサポート、また、アリスのお守りとして王都に留まる。べステケット(一号)と共に幼い頃からアリスの側近に扮していた。彼女の演技力は卓越したものであり、いざ忽然と姿を消すまではアリスにすら一切怪しまれる事はなかった。後にナクリも王都に現れてからは連絡も取り合っており、ノイルが王都にやってきてからは、その姿を事あるごとに眺めていたが、自身から声をかける事はしなかった。しかし、ナクリから頼んでもいない報告を受けていたので、ノイルがどのような生活を送っていたのかは把握している。
またロゥリィが眠りに着く際には、アリスには気づかれないようナクリと共に、後は任せろと会話を交わしている。
結果的にはノイルがアリスを立ち直らせたが、彼が関わらなかった場合は、彼女が動くつもりであった。
『アステル』の一件を経てからは、ノイルと母親として向き合うため、自身の罪を告白。しかし恩赦により自由の身となり、更にグレイに改めてプロポーズされ、正式に結婚する。なお、彼女と共に『隠匿都市』を拠点としていた者たちは、再度『アステル』に襲撃された際に各自の判断で退避しており、無事であった。いざとなれば自身の命を第一に考えろという彼女の日頃の教えと、彼女自身の必死の抵抗により、辛くも全滅を免れており、彼女とグレイの式を陰ながら多くの者たちが見守っていた。
その後はグレイと共に仲間だった者たちの仕事を見繕うなど、最後まで面倒を見つつ、ノイルと手紙などでやり取りしながら穏やかな日々を過ごす。なお、息子の女性関係についてはグレイと同じく苦笑しながらも一切口出しはしなかった。にも関わらず、自身に気に入られようとし慕ってくる女性陣、そして必ずと言っていいほど相談を持ちかけてくる息子に対して、いつしか負い目を感じる事はなくなったという。
シアラとの関係も良好であり、逆にグレイは彼女に無視されるようになり泣いていた。
結局二人は王都に移り住むことはなかったが、王都では少々有名になりすぎた者たちが羽を伸ばせる場所として、度々帰郷する息子たちを温かく迎えた。初孫が生まれた際には彼女が最も喜んでいたのではないかと、皆にからかわれ続けたという。
ちなみに、初孫はミーナとの子であったため、ナクリとミントも大層喜び可愛がっていたが、彼女はそれ以上であった。
真っ当に生きる事はできないと考えていた彼女は、息子により非常に複雑な家系とはなりはしたが、幸福で穏やかな日々を送った。自身がこれほど幸せになってもいいのかと、度々グレイやナクリ、ミントに泣き笑いのような表情で零していたという。それまで強くあり続けた彼女は、『アステル』の一件以降はもう気を張ることはなく、弱みを隠す事もなくなった。雰囲気も柔らかなものになり、ただ一人の母親として、孫たちに囲まれ、愛する息子に見守られながら、その生涯を終えたという。
小ネタのようなもの
ソフィの《呪い》のような特殊な魔装は盗む事ができない。
『紺碧の人形』のユニフォームとなっている黒スーツにサングラスは、彼女考案。姿を偽るのに都合が良く、二号時代はアリスにすら素顔を晒していない。
べステケット(一号)とは師弟のような関係となっている。彼は彼女には頭が上がらず畏怖しているが、結婚式ではアリスの時と負けず劣らずの号泣を見せた。
正体がバレてからのアリスとの関係は良好である。元々長い付き合いであり、他人とは言えない関係であったため、『アステル』戦以降腹を割って話してからは互いに気を遣わない仲となった。
他の女性陣からはその関係に良い顔をされない。
ノイルという名をつけたのはグレイではなく彼女。
彼女の本来の誕生日は不明であるが、ノイルと同じ日に互いに贈り物をしている。グレイにはない。
当然テセアとも仲が良いが、グレイに対しても優しくするようにとシアラ共々度々諭されている。
テセアの結婚を素直に喜んだ内の一人であり、実は事前に色々と相談を受けていた。
ナクリ、ミントもアステル戦以降は彼女たちの住居の近くに越してきているが、ナクリは基本的に相変わらず王都に居る。
アリスの希望により、ロゥリィの遺灰が埋葬されたのも彼女たちの住居近くとなっている。
エルシャンにノイル人形を一体プレゼントされ、珍しく困惑した事がある。
ソフィに演技指導を頼まれた事がある。
ミリスに例の魚とホイップクリームの料理を自信満々に披露され、それを無言で食べ切る息子にいたく感心した事がある。
全身フィオナの髪の毛でできた衣服を身に着けて死んだ目をした息子に同情した事がある。
ノエルの酒癖の悪さを知らず飲ませてしまい、息子が大変な目に遭った事を申し訳なく思っていた事がある。
エイミーの例の官能小説を読んで後悔した事がある。
ミーナにお弁当の適切な量を教えた事がある。
シアラに隠している性感帯はないかと訊ねられた事があり、そのままノイルには通用しないだろうとだけ答えた事がある。
魔法士に孫の顔を見せられなくてごめんなさいと謝られ、けれどちゃんとやってますと謎の報告をされた事がある。
アリスに遠隔でも映像と音声を届ける魔導具を贈られ大層喜んだ事がある。