22話:結成、青少年探偵団
昼休みの教室。
夏彦・未仔・琥珀の3人が昼食を食べ終えた頃合いだった。
「怪しい」
「「えっ」」
琥珀のいきなりな発言に、夏彦と未仔は思わず顔を見合わせてしまう。
「一体、何が怪しいんだよ?」
「草次に決まっとるやん」
窓際の席、すなわち草次が座る席へと3人は恐る恐る目を向けていく。
幸いにも草次は睡眠中。イヤホンを装着し、机に突っ伏して寝息を立てている。
夏彦としては、「草次の何が怪しいんだよ?」と更に質問を重ねたかった。しかし、言葉の意図を何となしに理解しているためか、重ねることができない。
キッカケは間違いなく昼食時。まだ草次が自分たちのグループに混じっていた頃だ。
未仔へWデートの実現が難しい旨を伝えたときに、琥珀が怪訝そうな表情を浮かべていたことに気付いていた。
片肘つきつつ未仔の手作りクッキーを食べる琥珀の姿は、どことなくワイドショーを見ながら煎餅を齧る主婦を彷彿させる。
「いくら忙しい言うても、『ずっと外せない用事がある』はダウトやろ」
「まぁ、確かに……」
「やろ? 昨今のお父さん方でも、土曜か日曜はゴロゴロしとるで」
昨今のお父さん方の下りはさておき、やはり夏彦や未仔としても「1日くらいは……」という想いは強い。
とはいえ、信じる気持ちも当然あるわけで。
「俺的に用事自体は本当にあると思うんだ。毎回面倒くさがりはするけど、最終的に手を差し伸べてくれるのが草次なわけだし」
「そう、だよね。でも、伊豆見先輩が奏先輩と一緒にいるより大事な用事って何だろう?」
「そこなんだよなぁ……。俺も授業中ずっと考えてたんだけど、全く思い浮かばくてさ」
うーんと眉根を寄せて2人は考えるが、ピンとした答えが思い浮かばない。
現在進行形で愛を育むカップルには難しい問題なのだろう。
しかし、『愛など要らぬ』精神の持ち主にとってはどうだろうか?
「女、とか?」
「「!?」」
予想だにしない琥珀の爆弾発言に、夏彦と未仔が口をあんぐり。
「そ、草次が浮気…………? ないないない! そんなこと絶対有り得ないから! …………ない、よね?」
「いやいやいや! そこは自信持って否定してもらわんとウチのが困るわ! ナツのが草次との付き合い長いやん!」
「いやいやいや! 付き合いは確かに俺の方が長いけど、草次の売りの1つはミステリアスなところだろ!? そんなダークネスな一面持ってるなんて思わないから!」
「うわっ! 草次が浮気してるってコイツ確定させおった! こういう些細な火種から戦争は生まれるんやで!」
「お前は始祖か! てか、もともとの火種は琥珀じゃねーか!」
「「むむむむむ……!」」
水掛け論というより泥掛け論。見苦しいことこの上ない。
とはいえ、2人が疑ってしまうのも仕方ないだろう。
彼女とデートと言いつつ実はデートしていなかったり、具体的な用事が何なのか伏せていたり。今の今まで隠し事してきたのは草次側。
「奏先輩が浮気されてる……?」
琥珀と夏彦は青ざめる。
未仔の顔が青ざめていたから。
2人の物騒な話を聞いた未仔までも、大切で大好きな先輩を被害者として認識。小柄な身体は一層小さくなり、温かな体温もすっかり冷え切ってしまう。
お気楽女子な琥珀も、さすがに責任を感じているようで、
「だ、だだだだ大丈夫やって! 綺麗な彼女さんいるのに浮気するわけないやーん! ほ、ほら! あんなにスヤスヤ眠るナイスガイやで? 浮気なんて大それた行動するわけ――、」
琥珀がバスガイドよろしく、「右手の草次にご注目ください」と視線を誘導させたときだった。
「きゃ~! 伊豆見君の寝顔GETしちゃった~♪」
「私も欲しいっ! グループチャットに共有して!」
「やっぱりカッコいいよねー。日本が一夫多妻制だったら、苗字の大半、伊豆見になっちゃうかも!」
「「「分かる~♪」」」
草次ファンの女子たちが、草次の寝顔をパシャパシャ、ピロンピロンと撮影したり、キャイキャイ、ウフフと黄色い声を上げたり。草次でワッショイ。
そんな光景を目の当たりにした夏彦たちは思う。
「本人の意志がなくとも、向こうから寄ってくるのでは……?」と。
琥珀崩壊。
「もうアカン……」
「アカン言うなぁ! み、未仔ちゃんは気を確かに!」
力なく夏彦に傾いてしまう未仔は、もはや重さという概念はない。
お通夜ムードの2人に対し、夏彦はどうしたもんかと困惑待ったなし。
いつもなら的確なアドバイスをくれるはずの草次も、今回ばかりは当てにならず。
爆睡中の容疑者を見れば見るほど夏彦は、「人の気も知らずスヤスヤと。体育の授業、準備体操しかしてないくせに……!」と苛立ってくる。
苛立ちから閃きへ。
「そ、そうだ! 尾行しよう!」
「「尾行?」」
「うん! 尾行した結果、草次が浮気してたら全力で止める! ちゃんとした用事だったら全力で謝る!」
平和主義者な夏彦らしい提案だろう。ちゃんとした用事ならば知らんふりすればいいのに、しっかり謝罪するのだから。
琥珀は友のため、未仔は先輩のため。
「せやな……。疑ってばかりだと気持ち悪いだけやし……」
「で、ですねっ! 私も奏先輩のためにも真実が知りたいです!」
意見が合致すれば、青ざめた表情から決意に満ち溢れた表情へ。
青少年探偵団が結成された瞬間である。
【雑談】
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