1話:最高の夏休み。……のはずが? PART1
学生の夏休み。
それすなわち、青春を目一杯味わえる、かけがえのないボーナスステージ。
気の置けない友人たちと、夏フェスやコミケといったイベントに出掛けるも良し。
部活動仲間と、『心・技・体』を合宿で磨き合ったり、夏の大会で日々の成果を見せるも良し。
1人部屋にこもり、クーラーのガンガンに効いた部屋でまったり過ごすも良し。
そう。夏休みの過ごし方は千差万別、学生の数だけ可能性を秘めている。
夏彦の夏休みはどうだろうか?
昨年と同じような過ごし方をするのならば、平々凡々な男に相応しく、悪友である関西女とオンラインゲームでオールナイトニッポンしたり、夏休み終了間際まですっかり忘れていた夏の課題を2人虚しくデスマーチしていたのだろう。
最終的には、ツンデレ気質のイケメンに泣きついていたのだろう。
しかし、今夏の夏彦は、一味も二味も違う。
一味二味どころか、養殖から天然、そっくりさんから本物くらいに違う。
理由は明白。
人生初。最愛の彼女ができたのだから。
THE・モブキャラな男、最大瞬間風速の青春フィーバー中。
夏休みが始まる前から未仔と過ごす日々に想い馳せてしまう。スケジュール帳に記入されたデートの予定を眺めただけでルンルン気分になってしまう。
まさに脳内再生余裕。
カラオケデートを思い浮かべれば、
「歌とダンス、ナツ君に届けるために沢山練習してきました♪」
マイクを握りしめた未仔が、少し照れ気味ながらも今流行りのアイドルソングを一生懸命歌ってくれたり踊ってくれたり。
勉強デートを思い浮かべれば、
「やった! 全問正解! それもこれも教え方が上手なナツ君のおかげだよ。ううんっ、ナツ先輩のおかげです♪」
数学の問題集を解き終えた未仔が、ご褒美にイイ子イイ子をしてほしいと頭を差し出してきたり。撫でれば撫でるほど、未仔の表情が気持ち良さげに蕩けていったり。
海水浴デートを思い浮かべれば、
「あははっ! ナツ君冷たいようっ! そんなイジワルしてくるなら―――、ナツ君に突撃~~~♪」
水着姿の未仔、海水をたっぷり掛けられたお返しに、露出過多な服装などお構いなしとハグ攻撃を仕掛けてきたり。そのまま押し倒され、チュッとキスされちゃったり。
以上。夏彦の妄想がお届け。
さすが夏彦。大好きな彼女を妄想することにかけて右に出る者無し。
傍から見たらヤバイ奴なのだろうが、人生初、飛び切り可愛い彼女ができたのだから、浮かれてしまうのも仕方がないことなのだろう。
だからこそ、「あぁ、夏休み。万歳、夏休み。未仔ちゃんと過ごす初めての夏休み、最高の思い出を一緒に作っていこう」と胸を高鳴らせ続けてしまう。
夏休みが始まる直前までは……。
※ ※ ※
どれくらい時間が経ったのだろうか。
容赦なく照り付ける太陽の下、夏彦は少し離れた場所で向かい合う彼女を強く否定する。
「駄目だよ! 俺に未仔ちゃんを傷付けるようなこと、できるわけないだろ!」
「ううんっ……。もう時間もないから、思い切って。……ね?」
未仔としても彼氏が心苦しいのが苦しい。一刻も早く解放してあげたいからこそ、目一杯の笑顔を作ってみせる。
しかし、カラ元気にも等しい未仔の表情が、返って夏彦の判断を鈍らせてしまう。心をどうしようもなく締め付けてしまう。
この場から2人で抜け出す方法を、夏彦は一体どれだけ考えただろうか。
いくら頭を捻らせようとも結果は変わらない。この2つに分断された空間、自分たちを監視するかのように囲む人間たちから逃れる術などあるはずがない。
頭では分かっている。助かるのは自分か未仔、どちらか1人のみ。
どちらかの命が続く限り、このゲームから解放されることはないのだと。
行き場の無い憤りや悲しさから、ついに夏彦は膝から崩れ落ちてしまう。
「チクショウ! 運営は何を考えてるんだ!」
炎天下に焼かれ続けた地面の熱さを感じる余裕さえない。
右手に持つ彼女の命を奪うための道具を、怒りや悔しさ、悲しさを込めて力強く握りしめることしかできない。
次話からおバカな展開へ。
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