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久々の我が家とメッセージ

 ベテランの女刑事が息子に証言した通り、都内の少年院で釈放の扉が開かれた。


 誤認逮捕が発覚した少女の釈放からわずか3日後のことだった。


「これからは社会貢献に尽力できる女性になるんだぞ」


 白髭を生やした少年院長が目を細めて念を押す。今彼の目の前にいる少女は1年の期限が切れて無事少年院から釈放されることになったのだ。


 荷物を持ってドアを開け、1年ぶりの屋外へ足を踏み出す。


 そよそよとそよぐ爽やかな風、真昼の眩しい太陽はまるで少女の釈放を祝っているようだ。


「今までありがとうございました」


 少女___日向未央(ひゅうがみお)は院長に深々とお辞儀をした。長髪が風に吹かれてふわりとはためく。


 院長は満足げに何度も頷き微笑んでいた。


「こんにちは」


 不意に挨拶されて未央が振り向くと、そこには紺のスーツを着た刑事が立っていた。とても優しそうな女性の刑事だった。


「こんにちは」


 なぜ警察が来たのか不思議に思いながら未央も会釈を返す。だが、この1年間釈放期限が延びるような事もせずに過ごしてきたのにどうして警察がいるのか分からなかった。助けを求めるように院長の方を見ると院長はニッコリと笑って


「大丈夫。君を家まで送ってくれるんだ」


 そこで未央は納得した。この女の警察は未央を捕まえようと思ってやって来ていたわけではないと分かり、安堵のため息をつく。胸を撫で下ろした未央に近づき、手を差し出して女刑事___早乙女千里(さおとめちさと)が優しく言った。


「一緒に帰ろうか」


「……はい」


 唐突に差し出された手に若干戸惑いながらもその手を握り返して未央は頷く。握った千里の手は懐かしい、温かい感じがした。


「本当にありがとうございました」


 パトカーに乗る前に未央は院長に何度も何度もお礼を言った。1年も自分の事を管理してくれていた院長には当然感謝の気持ちでいっぱいだった。


 1年ぶりのパトカーに乗り込み、フカフカの椅子に腰をかける。もうこれで自由なのだと思うと解放感と共にやってきたのは寂しさだった。この1年間最初は慣れない事ばかりで辛く苦しかったが、その度に「罪を償おう」という意識が未央を踏ん張らせた。


 そして百枝花奈(ももえかな)という1個下の可愛い後輩もできた。結局彼女は誤認逮捕で3日前に釈放された。関わった期間は決して長くはなかったがそれでも元気を貰える素敵な少女だったと思う。


「社会に貢献できる女性に」という院長の言葉が浮かんでくる。


 ___頑張ろう。


 素直にそう思えた。


 という感情も間違ってはいない。現に未央の心に芽生えているのは心機一転の気持ちだ。だが本当に達成したい目的、いや、標的は違う___。


「ありがとうございました」


 千里に礼を言い合鍵を貰ってパトカーを降りる。久しぶりの我が家に少しだけ嬉しい気持ちになる。


「いえいえ。これから頑張ってね」


 ガッツポーズで応援してくれた。未央は大きく頷き笑顔でお辞儀をした。


 未央の笑顔を見届けた千里は再びパトカーに乗り込むと、未央の家を後にした。


 真昼の空。太陽は変わらず未央を照らしている。その光は眩しく明るい。まるで未央の未来を表しているようだった。そう、目的に向かって進む未来を。


 貰った合鍵をカチャリと回して家の中に入る。送検前と何も変わらない景色がそこには広がっていた。


 玄関は履きもしない靴が散乱しているし、捨てずに溜めていたゴミ袋が大量の山を作っている。1年も放置したせいで匂いが充満していて気持ちが悪かった。ひとまず匂いだけでもと思い大量のゴミ袋をゴミ捨て場まで持って行く。それだけで匂いの件はずいぶんと改善された。


 次は靴の整理だ。履かない靴、サイズが合わなくなった靴をひとまず靴箱にしまって冬用のブーツやちょっとしたお出かけなどに必要だと思ったスニーカー、宅急便対応用のスリッパは出しておく。見違えるほど整頓された玄関を見て未央は大きな達成感で満たされた。


 荷物をリビングに投げるように置いて小さなソファーにダイブ。パトカーで家まで送ってもらったのに何故か疲れがどっと出ていた。


 ソファーに座りながら改めて懐かしの我が家を見回す。未央が住んでいるのは1人暮らし用の小さなアパートで、近所付き合いは大変だが1人で暮らすにはもってこいで非常に暮らしやすい。少年院から帰ってきて改めてそう思う。というより、その思いが以前より強くなった気がしていた。


「あ、そうだ」


 疲れがとれたところでふと思い立ち、ずっとアパートのコンセントにささっていた充電ケーブルを抜いてスマホを持つ。


 事前に教えてもらっていた花奈の連絡先を追加するためだ。電話帳のアイコンをタップすると電話帳が開く。五十音順で連絡先を登録している家族や友人の名前が表示されている。そんな中で右下の+ボタンを押して花奈の名前と電話番号を登録。


 流れるように次はメッセージアプリの登録だ。電話番号で検索をかけると最も簡単に花奈のアカウントが表示された。


「うわ、危ないじゃん。言ってあげないと」


 電話番号で簡単に検索できる設定にしていると電話番号を盗まれた場合でも簡単になりすましされてしまう場合があることは知っている。花奈が知らないのであれば教えてあげなければならない。


 早速トーク画面を開き、まず「未央だよ。期限切れ釈放〜」と送る。するとすぐに既読されて数秒後には「よかったですね! おめでとうございます、なんでしょうか?」と質問が返ってきた。


 犯罪を犯して送検された場所からの釈放である以上、素直におめでたいと言い難い気持ちはよく分かる。


「とりあえずありがとう」と打ったあとで、電話番号での検索がかけられるようになっている設定は危険だと事を注意する。すると驚いたのか、目を見開いた顔文字と一緒に「わかりました! でも設定が分からなくて」と返ってきた。


「分かったのか分からないのかどっち?」


 呟きながら思わず吹き出してしまう。そんな天然なところが花奈の可愛いところだ。


 そして未央はこう送った。


「じゃあ、次の日曜日会おうよ」


 花奈のためでもあり、自身のためでもある誘いだった。

お読みいただきありがとうございました!文字数多くて大変だったんじゃないでしょうか?

もうちょっと少なくしますのでお許しを!

次回もお楽しみに!

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