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密談

「じゃあまず先輩からどうぞ」


 大雅(たいが)未央(みお)に先を譲った。自分から過去を洗いざらい話したくないという思いからである。


 今2人は少年院の中のとある一角に並んでベンチに腰をかけている。


 大雅にとって友人、未央にとって後輩である少女___百枝花奈(ももえかな)の冤罪かつ釈放を院長から聞かされた後、何故かお互いを知ろうという展開になったのだ。


「そう? じゃあ私から話そっかな」


 未央は突然話を振られても特に不思議な顔もせずに上を仰いで言った。


「まず私は生まれたのは東京都……」


「そんな生い立ちは別にいいですよ」


 大雅が遮ると未央は「あっ!」と気づいたように目を見開いて笑った。


「そうだよね。自分の過去の話って言うからそこからかなって思ってた」


 そう言って笑顔で笑う未央。見て取れる天然ぶりは女子特有の可愛さを秘めている。


「ちょ……声大きいですよ」


 周りに聞かれてはまずいことを話し合う密談を始めるというのに。大雅は呆れつつも急いで人差し指を口にやった。


「あ、ごめんごめん」


 未央はまた後から気づいたように両手で口を塞ぐ。


 危機感がないのかそれも演技なのか。今はわからないが前者であってほしいと願いながら


「じゃあ言い方を変えます。先輩は何でここに入ってきたんですか?」


 再び大雅の方から話を振った。


 大雅の問いかけに未央は考える素振り___人差し指を顎に当てて上を仰ぐ仕草___をした後に


「人を殺しちゃったんだよね」


 とボソッと呟いた。


「殺した……」


 大雅も小声で未央の言葉を繰り返す。


「うん。まぁ、あの人が騙されたのが悪いんだけどね」


 未央は微笑しながら言う。


「あの人って言うのは」


 大雅の言葉を未央が紡いだ。


「私の彼氏」


 それを聞いても大雅は何も感じなかった。普通なら「え!? 先輩彼氏いたんですか!?」とか驚いたり「いいなぁ」とか羨ましがったりそれ相応の反応になるのだが、別に驚く気持ちも羨む気持ちも起こってこなかった。


 未央と言えどごく普通の高校生だ。彼氏の1人や2人いても何ら不思議はないと思った。


「愛してたのに殺したんですね」


 ただ床を、自分の足を見ながらポツリと言った。


「……そうかな」


 未央は大雅の言葉にぼやいた。愛していなければそういう関係にはならないはず。大雅は一般的な恋愛理論を胸にしていたがどうやら未央は違うようだ。


「殺人動機にあるあるのやつですか?」


「え?」


 未央が不思議そうに目を丸めて大雅を見た。


「ほら、"愛してたから殺した"みたいな」


 昼ドラなどでそういう展開のものをたくさん目にしてきた大雅には心あたりがあった。別に見たいと思って見ていたわけではない。ただ同じ殺人者としてその登場人物がどんな動機を語るのか興味があっただけだ。


 夫婦であれば仕事のストレスや浮気などによる嫉妬や恨み。浮気という観点から見ればカップル同士でもあり得る。あとは愛してたから殺したという意味不明な動機。それを語った登場人物曰く、殺せば永遠に自分のものになるんだとか。


 注意されてカチンときたなどの理由で子供が親を殺すこともある。あるいは誰でもいいから殺したかったという無差別殺人。これほど酷いものはあるだろうか。


 他にも殺人動機は色々あるが、未央の場合彼氏を殺したと聞いて意味不明な動機を試しに挙げてみたのだ。


「流石にそんなんじゃないよ」


 未央は笑いながら手を振って否定した。その笑顔に偽りは無さそうだ。大雅はそう確信して話を進める。


「じゃあ何で彼氏さんを殺したんですか?」


「たまたま、かな」


 未央の発言に大雅は今度こそ驚いた。()()()()人を殺すなんてことがあるのだろうか。


 そんな驚きを察したように自笑し、未央は続けた。


「バレンタインの日に彼にチョコレートをあげたの。別に殺そうと思ってあげたわけじゃないよ? 普通に愛情のつもりで。そしたら彼が急に苦しみ出して私は何もできないままで彼は死んだの」


 不意に未央の顔が曇った。当時のことを思い出したのか目から止めどなく涙が溢れていく。


「そんなつもりじゃなかったのに……」


 未央は涙ぐみながら手を口で覆った。


「チョコ彼氏さんにいっぱいあげたんですか?」


「ううん、ちょっとだけ。小さい箱に入ったのをあげた。まさかそれで死ぬなんて思ってなくて」


 未央が食べさせたチョコレートが原因で死亡した彼氏の体内からは大量の砂糖とテオブロミンという有害物質が発見されたという。その結果により大量のチョコレートを食べさせたとして未央は起訴され、こうして少年院に送検された。


「……あ、ごめんね。自分の話ばっかりで」


 未央は涙を拭いながら慌てて言った。


「やっぱりダメだね。絶対こういう話になるって思ってたから泣かないように頑張るつもりだったのに……」


 そう言って情けなく笑う彼女の涙はいくら拭いても止まらない。


「別に泣いてもいいと思いますよ」


 大雅は真正面を見て言った。


「人を殺しても何の感情も湧いてこない人間よりよっぽど人間味がありますから」


「大雅くんは何も思わないの?」


 未央の言葉に頷いて大雅はボソリと呟いた。


「何か……逆に嬉しくなっちゃうんですよね」

お読みいただきありがとうございました!

チョコレート殺人、最初にロマンチックな話題から入ろうと思って考えたんですけどチョコで本当に死んじゃうこともあるそうです。(ネタバレになるのでそれしかまだ言えませんw)

バレンタインも近いですし皆様お気をつけくださいね。


引き続き面白いなと思っていただいたら感想、評価、ブックマークをよろしくお願いします!

次回もお楽しみに!

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