告げられた真実
「え? どういうことですか? 院長」
信じられないと言う風に未央が尋ねる。
院長は言いにくそうに頬を人差し指でかきながら真実を告げた。
「394は釈放したんだ。あいつの代わり、と言うのも変な感じだが事件の真犯人が逮捕されてな」
院長の言葉を聞いた大雅は、花奈と初めて会った時に感じた違和感を思い出した。入所者全員の前で明るい笑顔を見せて挨拶する花奈に少しも犯罪者の匂いを感じなかったのだ。花奈が入所してきて以来ずっと大雅の中で疑問だったがそれが今ようやく解決した。
(やっぱりあいつは事件なんか起こしてなかったんだ)
自分の読みが外れていなかったことに安堵しつつ大雅は尋ねた。
「じゃあもうここには戻ってこないってことですか」
「ああ。あの子には悪いことをしてしまった。誤逮捕とはいえ完全に冤罪だ。今までずっと彼女を収容していたわたしたちとしても悔やみきれん」
院長はそう言って悔しそうに俯いた。
「まぁ、でも花奈ちゃんがそれで普通の生活を送れるようになるならいいじゃないですか」
突然のことで驚きながらも未央はそう言って2人をなだめる。
「そ、そうだな。563ありがとう」
院長は未央に礼を言ったあと大雅と未央の2人に向き直って
「聞きたかったのは394のことだけかな?」
と尋ねた。それに対して大雅と未央は同時に頷く。
「そうか。早朝からすまなかったな。教科担任にはわたしの方から遅刻の連絡を入れておくから早く授業に行きなさい」
2人に頭を下げて院長は謝罪の言葉を述べた。
その後なんとか授業に参加できた大雅と未央だったが、頭の中は花奈のことでいっぱい。あまり授業にも集中できなかった。
「そう言えば先輩の番号563だったんですね」
授業が終わった後に教室の側にある横長の木ベンチで今朝の会話を思い出しながら大雅が言った。
「ええ。大雅くんは何?」
「僕は296です」
「そっか。順番関係ないんだねこの番号」
「え?」
大雅が聞き返すと未央は笑って
「だってさ、大雅くんと花奈ちゃん入ってきた順番前後だったのに番号全然違ったじゃない。花奈ちゃんが394で大雅くんが……」
「296です」
未央の言葉を次いで大雅が言う。
「ほら全然違うでしょ?」
「そうですね」
大雅の言葉に未央は頷いて応じ、天井を仰いだ。
「それにしても花奈ちゃんが釈放されたのはビックリだったね」
肩をすくめる未央を横目で見ながら大雅は俯く。確かに驚きだったが1番の心残りなのは花奈自身からその言葉を聞くことができなかったことだ。
今思えばそんな状況を他人に説明できるわけもない。振り切ってでも外に出たかった花奈の気持ちが今なら大雅にはわかる気がした。
「そうですね。本当に驚きです」
「今どうしてるんだろう。元気かな」
未央の言葉に大雅は視線を床に移したまま口角を上げた。
「多分家に帰れてホッとしてるんじゃないですか」
「そうだね、きっと」
大雅の横顔に未央も微笑みかける。
事件の真犯人をまだ知らない2人は自宅で思い切り羽を伸ばす花奈を想像して微笑ましい気持ちになった。
最も事件の真犯人は花奈の弟である咲夜だ。実の弟が逮捕されて自分がたてた計画も水の泡。そんな花奈がそうのんびりしているはずもないのだが。
「この際だしさ」
突如未央が話を切り出し、大雅は未央の顔を見る。
「お互いのこともっと知ろうよ。花奈ちゃんとはいっぱい喋ったけど君とはあまり喋ってないし」
未央の言葉に大雅は顔を伏せた。
この話にのっていいものか迷った。お互いのことを知るということはすなわち大雅の過去をこの怪しさの塊に暴露することになる。
本性を現したときに暴露した過去が弱みになるのはごめんだ。
「どうかしたの?」
急に黙りこんだ大雅を心配そうに未央が覗きこむ。
「あ、いや……すみません」
頭を下げたあとに大雅は答えを出す。
「いいですよ。僕も先輩のこと知りたいですし」
「良かった。ありがとう!」
大雅の答えを聞いた未央は顔を輝かせて喜んだ。
2人はこれで腹を割ることになるが肝心のそれは黒色でしかなかった。
お互いがお互いを疑いつつ、まるで騙し合いのようなものが始まろうとしていた。
お読みいただきありがとうございました!
最後の騙し合いって言葉引っかかったまま投稿しちゃったんですが、お互いが表面上は腹を割りつつ内心で疑いの目を光らせているっていうような言い回しの言葉ありませんか?
私のありんこ並みの語彙力では無理でしたw
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