大雅の思考
残された部屋の中で1人、陰陽寺大雅は思考を巡らせた。
先程部屋に戻ってきたときの少女の浮かない表情。とてつもなく都合の悪いことが起きました! と周りに報告していると言っても過言ではない、そんな顔をしていた。
直前で花奈は少年院長に呼ばれていたために原因として考えられるのは彼との会話しかない。だがその中で一体何があったというのか。
院長に直接聞きに行こうとしたがすぐに思いとどまる。聞きに行くのは容易い。だがそれを行ったところで院長が口を開いてくれるかが問題だった。何も教えてくれなければ骨折り損だ。教えてくれれば情報は掴めるが花奈を暗くさせた原因をそう簡単に教えるとは思えない。
大雅は不安な目でドアを見た。吐き捨てて出て行ったっきり花奈は戻ってこない。それに部屋に戻ってきた瞬間に自分の荷物を全て持って行っていたのを今更ながらに思い出す。
誰かが釈放されて部屋が空き、大雅との同居生活が終わりを迎えたのだろうか。それならば何も問題は無い。だが花奈の表情はそんなに軽いものではなかった。衝撃的な事実を告げられて絶望しているような、何も出来なかったというような後悔の色が全面に出ていた。
もしただ部屋を移動するだけなら素直に打ち明けて別れを言えたはずだ。先ほどの彼女の深刻そうな表情から見るにそんなことでは無い。
だとしたら一体院長に何を告げられたのだろう。よほどのことではない限りあんな表情にはならない。
ここは直接聞きに行くしか道はないように思えた。こうやって1人考えを巡らせていても何も前に進まないのは明らかだ。
大雅は心を決めてドアを開けた。
「あれ? 大雅くん」
部屋から出てきた大雅を不思議そうに見つめるのはドアの前を歩いていた女子高生だった。
大雅はペコリとお辞儀をして立ち去ろうとした。
「あ、待って!」
だが未央に呼び止められて思わず足を止める。
「何ですか」
首だけで横を向くが女とは一切目を合わせない。そんな大雅の態度を気にする素振りも見せずに未央は尋ねた。
「この後花奈ちゃんと教室移動する約束してたんだけどいるよね?」
そう言ってドアを開けようとする。
「……触れるな」
「え?」
尋ね返した未央の目が不思議そうに丸まり、大雅と花奈の部屋のドアを開けようとした手がピタリと止まる。
「いや、花奈は居ないですよって言いました」
すぐに口角を上げて無理やり笑みを作る。だがこの行為もこれまで何人もの人間を陥れてきた大雅にとっては朝飯前だ。微笑まれた未央はおっかなびっくりといった表情を一変。笑顔に変えて笑った。
「あ、そっか。びっくりした。急に睨まれるから私何か悪いことしちゃったのかなって思ったよ」
大雅にとって怪しさの塊である彼女が自分たちの部屋に触れること自体が悪いんだと心の中で告げつつ、
「すみません。目つきが悪いんで」
と返す。大雅の発言を否定するように首を横に振りながら近づくと未央はまた尋ねた。
「どこにいるかわかる?」
「さぁ」
大雅は肘を曲げ両手を上げて首を傾げると
「僕も今探しに行こうとしてたところなんで」
と言った。すると未央の目が突然キラキラと輝いた。未央はそのまま大雅の手を取り両手で握りしめると
「じゃあ私と一緒に探そうよ! ちょうどいいじゃん! ね?」
両手を割と強く握られて大雅は呆れたが渋々了承した。花奈の居場所を知りたいのも事実だが同時にこの日向未央という女子高生のことも知ることができる。一石二鳥だ。もしかすると花奈の捜索途中でこの女の化けの皮が剥がれるかもしれない。
未央を根っから疑ってかかる大雅はそう睨んだ。
「良かった! 大雅くんならOKしてくれると思ってたよ」
未央はキラキラ輝く笑顔で大雅を見た。
「君のフィアンセだもんね、デストロイヤーくん」
と心の中で呟きながら。
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