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いつもの朝

皆様、新年あけましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします!

 朝。小鳥のさえずりがいつもより明るいのは気のせいだろうか。これからを案じているのか、はたまた……。


 目を覚ました少女___百枝花奈(ももえかな)は上半身を起こすとぐーっと背伸びをした。そして一気に息を吐く。


 隣を見ると今はもう見慣れた青年の寝顔があった。陰陽寺大雅(おんみょうじたいが)___数ヶ月前に少年院に送検された破壊者(デストロイヤー)と呼ばれた男だ。


 彼は幼い頃から放火を続けておりそのせいで校舎全焼、全員死亡に幾度となく追い込んできた。


 昨日警察に確保された少年___百枝咲夜(ももえさくや)によって拉致監禁されていた青年___早乙女悠希(さおとめゆうき)の高校も同じように燃やそうとしたが彼に計画を見破られて失敗に終わった。


 その後自身もろとも爆破しようと考えたがこれも悠希の計らいによって阻止され、中傷を負って病院に搬送され、警察の捜査が行き届いた段階で裁判にかけられこの少年院に送検された。


 花奈が入ったのは大雅より少し後だったが院長に頼まれて2人が同じ部屋で共に過ごすこととなり今に至る。


 花奈は寝ている大雅を起こさないように忍び足で襖を開き、今日の分の着替えを出してトイレへ向かった。以前目を覚ました瞬間に上半身裸の大雅が目に入ってからその逆が起こることのないようにトイレで着替えることにしたのだ。


 トイレに入って着替えをしているとドアの外でガサガサゴソゴソと音がした。おそらく大雅が起きたのだろう。


 着替えを済ませてトイレから出て、大雅に挨拶をする。


「おはよう、大雅くん」


「ああ、うん」


 相変わらずの冷めた返事が返ってきた。


 今ではもう慣れたが、初めて一緒に朝を迎えた時は大雅の冷たい態度に若干引いてしまったものだ。


 眠そうに目を擦りあくびをする彼を見ながら花奈は洗面所で桃色の髪を整える。櫛を器用に扱って内側に巻き、寝癖を直していく作業も今では手慣れたものだ。それに異性と同居しているような環境にある以上身だしなみには一段と気を配らなければならない。


「今日って何曜日だった?」


 畳の方から大雅に聞かれて花奈は考えながら返事をする。


「えっと、日曜日だよ」


「じゃあ授業は無いか。ありがとう」


「うん!」


 大雅にお礼を言われるとやはり照れて顔が赤くなってしまう。おまけに洗面所にいるおかげで目前の鏡にその顔が映るのだから一目瞭然だ。鏡に映る自分にハッと気付いて花奈は急いで首をブンブンと振る。


「何してるの。朝ご飯食べに行こうよ」


「あ、う、うん!」


 いつの間にか着替えなどの用意を終えた大雅に怪訝そうな顔をされて慌てて乱暴に櫛を置き、手櫛で手早く髪を整えて外に出る。


 廊下では既にたくさんの入所者たちが食堂に向かって歩いていた。遅刻というわけではないが少し急がなければならない。


 大雅もそう思っていたのか早足の花奈とスピードが差ほど変わらない。2人はそのままスピードを緩めることなく食堂に入っていった。


 いつものように自分のお皿に好きなおかずをよそうバイキング形式の朝食。おぼんを持って並んでいると背後から花奈の肩を叩く者があった。急いで振り向いた花奈の目に飛び込んできたのは、花奈が少年院に入って間もない頃最初に話しかけてくれた1個上の先輩___日向未央(ひゅうがみお)の笑顔だった。


「未央先輩!」


 嬉しくなった花奈が声を上げると未央は笑顔を崩さず言った。


「今日は私寝坊しちゃってさ。花奈ちゃんの次に並べて良かった」


「私も朝から先輩に会えて嬉しいです」


 花奈も笑顔で言葉を返す。いつも早起きで食堂にも早く来ている未央が寝坊なんて珍しいなと思いながらも会えたことに対する喜びを噛み締めた。


 今日の未央はいつもは下ろしている長い黒髪を1つにまとめている。初めて見るヘアスタイルで花奈は思わずまじまじとその髪型に見入ってしまった。


「ん?」


 未央の赤い瞳に見つめられて初めてそのことに気がつき、急いで謝る。


「あ、ご、ごめんなさい! 未央先輩の髪型可愛いなって思って……」


「え? そう? ありがとう。急いで準備してたら暑くなっちゃって今はくくってるんだ」


 未央はポニーテールの髪の毛を手櫛でさらりとさせながら言った。


 その仕草から未央の「お姉さんらしさ」が感じられて花奈は心の中で感心していた。


 朝食も大雅と未央と3人で食べ終わり、花奈が食器を片付けて部屋に戻ろうとした後だった。


「394」


 院長の声が食堂に響いた。一瞬誰のことかわからなかったが、すぐに思い出して花奈は返事をする。


「は、はい!」


「ちょっと話があるから来てくれ」


「わかりました」


 院長に返事をした後花奈は大雅と未央に両手を合わせつつ謝った。


「ごめんなさい。先に帰っててもらっていいですか?」


「わかった。また夜ご飯の時にね」


 未央は笑顔で手を振り、大雅は真顔でコクリと頷いて食堂を後にした。


「院長、話って何ですか?」


 院長の元に急いで駆け寄り、はやる鼓動を抑えながら花奈は尋ねた。


「ああ、実はな」


 院長は無数に生やした白髭を撫でながら言った。


「394。君をここから釈放する」

お読みいただきありがとうございました!

令和2年ですね。早い。早すぎる。どんどん歳取っちゃいますね。嫌だ。

心機一転頑張りますので今年も何卒応援よろしくお願いします!

感想、ブクマ、評価よろしくお願いします!

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