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救いの手

「ずっと気になってたことがあるんだけどさ」


 悠希が言うと咲夜は動き回るのをやめて悠希の方に顔を向けた。


「咲夜くんってお姉さんのためにこんなことしてるのか?」


 そう尋ねた瞬間に咲夜の目が大きく見開かれた。頬から一滴の汗も垂れていてひとりでに口も開いていく。相当焦っているように見えた。


「……どうした?」


 少し心配になって咲夜の顔を覗き込む悠希。


 姉の話題を出せば、咲夜が何かしら普段とは違う反応を見せることは分かりきっていたが、こうもあからさまな反応をされると逆に戸惑ってしまう。


「ボク、お兄ちゃんに言った? お姉ちゃんのこと」


 咲夜は決まり悪そうに目を伏せて黙り込んだ後、不安そうな顔を悠希に向けた。


 悠希は真面目な顔で頷いて、


「最初に会ったときに。お姉ちゃんを探してほしいって言われたんだけどな」


 とぼけて少しだけ口角を上げた。


「もしかして、俺をここに監禁してるのってお姉さんの捜索のためかなって思ったんだ。だから聞いてみたんだけど、ごめんな。何か混乱させちゃったみたいで」


 後頭部をポリポリと搔いて、悠希は謝罪の言葉を述べる。


 咲夜が予想外の反応をした以上は、『急に姉のことを聞いてきた』という不信感を彼の中から消し去ることが先決だと考えたのだ。


「う、ううん、大丈夫」


 悠希と目を合わせることなく首を横に振る咲夜だったが、その表情から戸惑いや焦りなどは消えていない。


 やはり謝罪をしたからといって、心に芽生えたものはそう簡単に消えるものではないのだろう。


 それは悠希も十分心得ているが、何もせずに問い詰めるよりは遥かに事件解決への近道になると踏んでいた。


「こんなこと言ったら、また咲夜くんが怒るかもしれないんだけどさ、出来れば……」


 咲夜の顔色を窺いつつ、次の言葉を悠希は口にする。


「お姉さんのこと、教えてほしいな」


「何で?」


「何でって、特に意味はないよ。俺が知りたいだけ」


 そう言いながら、悠希は自分でも何が言いたいのかわからずにいることに呆れてしまう。

 だが、めげずに上手く聞き出せるよう話を進める。


「会ったばかりの時はあまり話せなかったけど、何で咲夜くんはお姉さんを助けたいのか、とかお姉さんの居場所とか、お姉さんがどんな性格だったか、とか色々知っておきたいんだ。探すにしても手がかり無しじゃ探しようがないからな」


「もういいよ。自分のことだから自分で解決するって決めたんだ」


 だが咲夜は、そんな悠希の言葉をあっさりスルーした。まるでこれ以上踏み込んでくれるなと言っているかのようだ。


 これは予想外だ。

 悠希は咲夜の姉について知りたいと思っているのに、このままではそれを断固拒否されてしまう。


 過去に咲夜の姉がどんな罪を犯したのか、どうしても突き止めたい。


 目の前の少年が願っていることが自分の姉の無実の証明と分かった今、この場に居る悠希しか情報を探ることが出来ないのは確実だ。


 そして、探り当てた情報を咲夜の警察への要求と引き換えに伝えれば、周りが動いてくれる可能性も高い。


 咲夜の姉が本当に無実になるかどうかと同時に、この姉弟を引き裂いた過去がわからないというのもまた事実。


 どんな結末になるかは予想しかねないが、咲夜の気持ちを変えられるのはこの場に居る悠希だけ。


 何としてでも情報を聞き出さなければならない。


「そんなこと言わずにさ。一人で解決するにも限界があるだろ? 俺だってずっとここに居るの嫌だし」


 少し苦笑して悠希は続ける。


「咲夜くんが望んでることがお姉さんを救うことなら、この際警察に要求としてお願いしてもいいんじゃないか?」


「……警察は信用できないもん」


「そうかもしれないけど、まずは言ってみた方がいいと俺は思うな」


「何も知らないくせに勝手なことばっかり言わないでよ! ボクたちがどれだけ辛い思いしてきたか、お姉ちゃんがどれだけしんどかったか、お兄ちゃんには死んでもわかんないよ!」


 叫ぶ咲夜の目から涙が溢れていく。

 止まることを知らないように、止めどなく流れるそれとともに咲夜の想いも吐き出される。


「お姉ちゃんは絶対今も苦しんでるんだ。少年院の中で。ボクのせいで濡れ衣着ることになっちゃって、それなのに文句も言わないで。本当はものすごく辛いはずなんだ。だから早く助けたいんだよ……」


 悠希は咲夜が放った『少年院』という言葉にハッと目を見張った。


 かつて卑劣な犯罪行為を犯して、そこに送られた友人のことが思い起こされたからだ。


「お姉ちゃんは悪くないんだ。悪いのはボクなんだ。お姉ちゃんは何も悪いことしてない」


 次から次へと目から涙を流す咲夜は、悲しみに肩を震わせながら呪文のように繰り返している。


 そして耐えられなくなったのか、崩れ落ちるようにその場に膝をついた。


「俺にもいるんだよ、少年院に送られた友達」


 肩を震わせて泣いている咲夜に向かって、悠希は優しく話し始めた。


 今年の春に転校してきた時に感じた、彼の冷たい氷のような視線。


 いつも優しくて、皆の母親的存在の女子高生を刺して殺人未遂の状態まで追い込み、また別の日に話をしようとやって来た、寝るのが大好きな眠り姫を一晩監禁した行為。


 屋上で悠希に決着を申し込んできた、ー堂々たる態度。


 そして燃え盛る炎の中で語られた、涙が出るほどのつらくて壮絶な過去。


 悠希は、約半年間闘った永遠のライバル____陰陽寺大雅のことを話して聞かせた。


「だから咲夜くんの気持ち、ちょっとだけわかる。身近な人が居なくなったっていう過去は俺にもあるから」


 泣きじゃくる少年を前にして、悠希は優しく微笑みかけた。


「一緒にお姉さんを助けよう」


 咲夜は悠希の言葉を聞いて、ゆっくりと顔を上げた。


 そして、悠希の笑顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で見つめた。


「うん」

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