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破壊者の本性

「君、勇気あるね」


 大雅たいががふぅっと一息ついてから言った。

 一体何のことを言っているのだろうか。


「えっと……どういうこと?」


 あかねは少し身構えながら聞き返した。

 もしかすると自分も刺されてしまうかもしれない。

 茜はその恐怖が拭えなかった。

 でも平静を装いながら大雅をじっと見つめて大雅が何か話すのを待った。


「本当は僕のことが怖くて仕方ないのに、そうやって一人で来たんでしょ?」


 妙に優しい口調で大雅は茜に尋ねる。

 その瞳に怒りなどの感情は感じられなかった。


「う、うん……」


 また声が小さくなった。

 大雅と話そうとするとどうも今までの自分を保つことができない。

 でもちゃんと聞くべきことは聞かないと早絵の仇を打つことができないのだ。


(しっかりしなきゃ!)


 茜はそう自分に言い聞かせて拳をぎゅっと握りしめ、意を決して言った。


「私、早絵を刺したのが実はあなたなんじゃないかなって思ってる。だって早絵はここで倒れてるのを発見されて病院に運ばれたんだし。本当に早絵を刺したのがあなたなのかが知りたいの。教えてくれないかな」


 早口で言い終わると、茜は大雅をじっと見つめた。

 大雅はコップを見ながら俯き黙っている。


「……本当のこと教えてほしい」


 茜はもう一度年を押すように言った。

 心臓がバクバク音を立てて胸打っているのが感じられる。


(早絵のためだ……)


 茜は恐怖心や緊張感も全て捨てて大雅と本気でぶつかろうと決心した。


「ふふ……」


 急に大雅が笑い出した。

 茜は心臓がドクンと波打つのを感じた。

 大雅はなおも笑い続ける。

 そして初めは控えめだった笑いも徐々にエスカレートして大きくなっていく。


「何で笑って……」


「君は本当にすごいなぁ」


「え?」


「そうだよ。僕がやったんだ」


 大雅は笑いが堪え切れないという風に時々俯きながら言った。


「僕が、あの女を刺したんだよ」


 ※※※※※※※※※※※※※※※


陰陽寺おんみょうじが……破壊者だと?」


 龍斗りゅうとが驚いた口調で言うと、悠希ゆうきは頷く。

 二人は悠希の部屋で、悠希が大雅について調べたありったけの資料を床に広げて話していた。


「調べたら全部書いてあった。こいつの性格とか本性まで全部。やっぱり俺たちを騙してたんだ」


 龍斗が信じられないと言うように目を丸くする。

 大雅は破壊の常習犯だったのだ。

 彼の学歴に従ってこれまでの学校を探っていくと、今の悠希たちの学校に転校してくる以前にも数え切れないほどの学校に転校していたことが分かった。


「しかも今まであいつが転校した学校は火事か爆発事故で全部焼けて今はもうない」


 悠希は新聞記事を広げて言った。

『神園小学校で爆発事故発生 死亡者も多数』と書かれてある。

 焼け野原となっている校庭の写真もあるが、もう何年も前の新聞記事の写真なので所々見えにくい。


「それにこんなのもある」


 そう言って悠希は他の新聞も取り出した。

『未来中学校で火災発生』と大きく見出しがついていて、この記事には焼ける前の綺麗な校庭にそびえ立つ綺麗な校舎の写真と火災が起こった後の無残な姿となった校舎が比較するように上下に並べて掲載されてあった。

 悠希はそんな数々の新聞記事を見ながら言った。


「死傷者はどの学校もほぼ全員で生存者はたった一人」


「一人!? 生き残ってたのか? こんな……酷い状況で」


「ああ」


 悠希の言葉に龍斗は懸命に、この無残な事件を乗り越えることが出来た唯一の生存者に考えを巡らせた。

 そして誰かを思いついたのか、ハッと顔を上げる。


「それってまさか」


 龍斗の言葉に悠希は神妙に頷いた。


「全部陰陽寺だ」


 龍斗は目を一層丸くしていた。


「あいつだけが全部の事故に遭っても生き残ってきてるっていうのか? 冗談だろ。そんな……教師もほとんど亡くなってるような事故で何であいつだけが……」


 悠希には思い当たる理由があった。

 だがそれはどうしても口にしたくないあまりにも無残な事実だった。


「それは、あいつが全ての事件の首謀者だからだと思う」


 言いにくそうに、悠希は自らの推測を口にした。


 ※※※※※※※※※※※※※※※


「よく気づいたね。ていうか、まず最初にあの女が僕の家で発見された時点でわかるか。失敗したなぁ。甘く見すぎてた、かな?」


 大雅は笑顔で茜に言った。

 頭をポリポリと掻きながらいかにも早く犯人が自分であると言ってほしかったと言わんばかりの満足げな表情。

 茜は捨てていた恐怖心が再び湧き上がってくるのを感じた。


「本当に……陰陽寺が、やったの?」


「うん。君もそう疑ってたんでしょ? 予想通りの結果じゃないか。何でそんなに驚くんだ?」


「ちょっと……信じられなくて」


「何で?」


 大雅に問われて、茜は俯いて貼り付いたような笑みを浮かべる。


「上手に説明できないけど、何て言うか、疑ってはいたんだけど、でも心のどこかでそんなことないって信じてたっていうか……」


「ふーん」


 茜の言葉に大雅は納得したように相槌を打つ。

 その表情からは反省の色が感じられない。

 茜は信じられない気持ちだった。


「もしかして……反省してない?」


「反省? どういうこと?」


 大雅がきょとんとして聞き返す。

 茜はその返答に困ってしまった。


「え? どういうことって……。早絵を刺したこと、反省してないの?」


「うん」


 少し考える風にした後大雅は何の迷いもなく頷いた。

 茜はますます困惑する。


「え、心痛まない? 早絵が刺されて傷ついてるんだよ?」


「心が痛まないからやったんじゃん」


「……え」


 茜は少し戸惑ったが、考えている暇などない。

 今はとにかく、目の前の男が今回の早絵を刺した犯人だったということを知らさなければならない。

 茜は急いでカバンからスマホを取り出して、悠希に連絡しようとした。

 だがそれもつかの間、大雅に素早く奪い取られてしまった。


「ちょ、ちょっと! 返してよ!」


「嫌だ。どうせ僕があの女を刺した犯人だって報告しようと思ったんでしょ? お見通しだよ」


「違う! 元々悠希たちもあなただって見当はついてた。ただ証拠がなかったから……」


「証拠……?」


 大雅はその『証拠』という言葉に反応し、しばらく黙った後に目を見開いて茜のスマホを見た。


「まさか……!」


 画面をタップし、開こうとする。

 だがホームボタンを押しても開かない。


「くそ、指紋認証か!」


 大雅は明らかにイライラした態度で茜に命令した。


「ロックを外せ! 今までの会話全部録音してたんだろ! それとも録画か⁉︎ あぁ、どっちでも一緒だ! 早く撮るのを止めろ!」


 血相を変えて茜に詰め寄る大雅。

 茜は怖くなったが首を横に振った。

 絶対に証拠を持って帰らなければ大雅を犯人だと決定づける証拠がなくなってしまう。

 早絵の仇が打てなくなってしまう。それだけはどうしても避けたい。

 この、命に代えても____。


「チッ! 外せって言ってるだろ! どうしてもお前がやらないって言うなら手を貸せ! お前の指さえあればロック解除なんて容易いんだ!」


 大雅はいよいよヒートアップした形相で茜に迫ってくる。

 だが茜はそれでも必死に首を横に振って後ずさった。


「仕方ない……」


 大雅は呟くと腕を大きく振り上げて茜のスマホを地面に叩きつけた。

 ガン! という音がしてスマホが落ちる。

 その衝撃でなんと画面のガラスの破片が飛び散ってしまった。


「____!!!」


「これで使えないだろ。録画も止まったはずだ」


 茜は絶望的な気持ちになった。

 証拠が、大雅を犯人だと立証するはずだった証拠がなくなってしまった。

 早絵の敵討ちは極めて困難になった。

 そもそも今の大雅の形相を見る限り、生きて帰れるかさえ曖昧だ。

 大雅を怒らせてしまった今、茜が生きて帰れる保証などあるわけがない。


(に、逃げなきゃ……)


 茜は後ずさりしてゆっくりとドアの方に向かう。

 恐怖心で頭の中は真っ白だが、それでも大雅から目を背けることなく逃げよう、そう思った。


 と、容易に行く手を阻まれる。


「どこ行こうとしてんの? 岸、だっけ?」


(っ……!)


「の、のいてよ! 帰るから!」


「そんな焦んなくてもいいのに。僕のこと怖くなった?」


 顔に余裕の笑みを浮かべながら大雅は茜に聞いた。

 さっきまでの形相とは真反対、爽やかな好青年のように笑顔を浮かべている。

 だが茜にしてみれば怖さが増すだけだ。

 もう目の前の男の本性を知ってしまった。

 今、大雅が自分に見せているのは偽りの姿だ。

 怒らせるとまたあの形相に戻るに違いない。

 恐怖で思わず下を向いてしまう。


「ううん! 怖くなんかない! ただ、もうここにいても意味ないし! か、帰りたいなって……」


「帰って、仲間に伝えるんでしょ? 僕が犯人だったって」


「違うよ!」


 茜は懸命に首を振り、おそるおそる顔を上げて大雅を見た。

 大雅はまだ笑顔のままだった。

 茜は深呼吸をして話し始めた。


「違うの! 本当に。皆、あなたが犯人だって思ってたの。だから今更報告に行く理由もないし……」


「でも証拠が必要だったんでしょ?」


 大雅に問われて、茜は咄嗟に否定しようとした。


「違……ううん、本当。それは、事実だよ。証拠もないのに陰陽寺を犯人扱いしたら可哀想だし申し訳ないし……。だからそう言う意味で、証拠がほしくて……録画……するしかなかったの」


 しかしこの場で嘘など通用しないと思い直し、途切れ途切れになりながらも大雅に本当のことを話した。


「それってさ、いわゆる盗撮だよね? 犯罪だよ」


 冷たく、大雅は言葉を叩きつける。


「……うん、分かってる」


「分かっててやってたの? うわー、確信犯だね」


 大雅は笑いながら嫌味っぽく言った。

 茜は黙ることしかできなかった。

 でも頭の中では懸命にここから逃げる方法を探していた。

 ふと窓を見上げると、鋭い三日月が浮かんでいる。

 満天の星空に浮かぶのは、いつもとは違う、鋭く怖い三日月だった。

 嫌な予感がした。


(このまま殺されるんじゃ……朝になっても誰にも気づかれないで、陰陽寺に遺棄されてしまうんじゃ……)


 茜は恐怖のあまり身震いをした。

 大雅はまだ笑っている。

 この男の目を欺かない限りここから出られない。

 自分の命も終わりだ。


(何とか……しないと……)


 茜は懸命にここから生きて帰る方法を考え始めた。

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