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悠希の疑問と咲夜の焦り

「はぁ」


「お疲れ、咲夜くん。疲れただろ? ジュースでも飲んで水分補給しよう」


 悠希の家に辿り着き、疲れがどっと出た咲夜は玄関でへたり込んだ。今まで自転車で遠出することがなかったので、自転車でショッピングモールに行くのは初めての経験だった。


 悠希はキッチンへ向かい、冷蔵庫からリンゴジュースの紙パックを取り出してコップに注いでくれた。


 壁にもたれながら何とかダイニングまで行けた咲夜は、どさっと椅子に座った。

 まさか初めての経験とはいえ、ここまで体力を消耗するとは思っていなかった。

 それに意外と自分の体力がないのもはっきりした。日頃からもっと運動しておかなければ、と咲夜は反省する。


「お疲れ様」


 そう言って、悠希は咲夜の目の前にリンゴジュースの入ったコップを置いてくれた。


「ありがとう」


 咲夜がお礼を言って何とか笑顔を見せると、悠希は苦笑しながら、


「そんなにしんどかった? まぁ、初めてだから仕方ないか」


「あ、あはは……」


 恥ずかしいやら情けないやらで咲夜は笑うしかなかった。


「それはそうと」


 悠希が急に真剣な表情になって


「さっきの。何か変な人だったね」


「うん。怖かった」


 頷きながら俯く咲夜は、帰り際にショッピングモールで声をかけてきた小太りの中年男性の姿を思い浮かべた。

 勿論、普通の新聞記者が仕事を全うしているだけで本来なら何の問題もないのだが、咲夜にとっては他でもない敵だった。


 彼らに見つかれば全てが終わる。

 母親が警察に通報して捜索が始まっていたとしても、ボロを出さない限りはバレないと確信を持ってはいるが、それも少し危うくなってきた。

 だが、悠希との関係は母親には伝えていないため、まずここに咲夜が居るという情報は向こうには行かないと信じたいのが本音だった。


「でもいいのかな」


 胸に湧き上がってきた不安を咲夜は口にする。


「ん?」


「今回のことでもしバレちゃったら、お兄ちゃんたちが僕を匿ったってことで罪に問われるかもしれない」


 その可能性は否定できない。

 今の情報網がどこへでも伸びているこの現代社会では、本人しかわからないはずの事柄でも全く無関係の第三者が知っている、なんてこともよくある。


 自分たちで隠し切れていると思っていても、いつどこで誰が見ているかわからないのだ。


「え? 何のこと____」


「そうなったらボク、合わせる顔がない。申し訳なさすぎるよ!」


 思わず声を荒げて咲夜は涙目で訴える。

 一度考えると悠希と千里が警察に捕まる様子を浮かべてしまう。

 しかもそれがなかなか頭から離れないのだ。


「大丈夫だって」


 悠希は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに至って平気そうな顔をして、


「咲夜くんが怖い思いしたのは事実だし、せっかく出来た弟が困ってたら兄として助けるのが当然だよ」


 悠希の笑顔に咲夜はハッとした。優しく胸に響くその言葉にまた涙が溢れてくる。


「ちょ、泣かないで。俺が何か泣かせたみたいじゃん」


 咲夜が泣いているのを見て、悠希は慌ててティッシュで咲夜の目尻を拭った。


「ご、ごめんね、お兄ちゃん。ありがとう」


 咲夜はついでに貰ったそのティッシュでチューンと鼻をかむ。

 その姿に悠希は声を出して笑った。


 咲夜もつられて恥ずかしそうに笑みを浮かべる。


「あ、それより」


 悠希が笑いを抑えながら続けた。  


「咲夜くん、何かしちゃったの?」


「え?」


「そ、その、さっきの男の人が破壊者って言ってたから何なのかなって思って。俺も勿論怪しいなとは思ったけど、正直咲夜くんが怖そうに俺の服掴んだから、咲夜くんを狙ってるストーカーかなとか思って追い払ったんだ。でも何のことか本当はよくわかんなくて」


 アハハと恥ずかしそうに笑って悠希は頭を掻いた。


「何かしたの?」


 悠希に尋ねられて、咲夜は焦った。


「え、えーっと」


 必死に脳内で何かぴったりな言い訳を考える。

 予想外の出来事もあって疲れていたので、つい咲夜中心に考えて色々と喋ってしまっていた。

 思えば、悠希には咲夜が家出した理由は母親との喧嘩ということにしていて、本当のことは言っていなかった。

 すなわち、悠希は咲夜が破壊者として捜索されているであろうことも知らない。


 さっきの悠希は、あくまでもあの新聞記者を咲夜狙いのストーカーだと思ったが故に追い払ってくれたのだ。

 話の中で悠希の心に最も引っ掛かったのが、『破壊者』という言葉だったのだろう。

 確かに事情を知らない人間からしてみれば何のことやらさっぱりだ。


「えっと、えっと、ぼ、ボクは……」


 どもりながらも必死に言い訳を考えるが、一向にベストなものが思い浮かばない。


 心臓の鼓動を抑えつつ、咲夜は思考をフル回転させた。そしてやっとのことで一つ絞り出すように言った。


「その破壊者っていうのに似てるってよく言われるんだ。学校で。だから多分それで、あの人も間違ったんだと思うよ」


「へぇ〜。そうなんだ。で、その破壊者っていうのは何?」


 悠希の質問に、咲夜は胸に矢が刺さったような痛みを感じた。

 まさかもう一歩踏み込んでくるとは思わなかったのだ。

 破壊者について一刻も早く説明しなければいけないところだが、今度こそいいものが思い浮かばない。あれで最善を尽くして気が緩んでいた。


 確かに何も知らない悠希からしてみれば、ストーカーでもない相手に追いかけられる咲夜が不思議でならないだろう。

 おまけにその男の口から『破壊者』という言葉が出てきたのだ。ますます意味がわからなくなったはずだ。


 咲夜は膝の上で拳を握りしめる。

 身体中の汗腺という汗腺から汗が吹き出しそうなのを感じながらそれを堪え、咲夜は言い訳に集中した。何か言わなければ、悠希に怪しまれること間違いなしだ。


 おそるおそる悠希の方を見ると、悠希は目の前でキョトンとしながら笑顔を見せていた。


「……えっとね」


 咲夜は意を決して話し始めた。

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