隠してきた本当の気持ち
「闇?」
「うん。……気のせいかもしれないけど」
食事が終わり、花奈と横並びになって部屋に戻りながら大雅は、さっき未央に謝られた時に感じた彼女の闇のことを話していた。
「気のせいなんじゃない? 未央先輩優しいしそんな裏があるような感じしないよ?」
そう話す花奈はあくまでも大雅の言葉を信じることなく、やんわり否定した。
「うん……」
花奈に言われて大雅は考え込んだ。
確かに花奈からしてみれば、未央は優しい先輩で、とても闇に包まれた人間だとは思わないだろう。
そう考えれば花奈が大雅の言い分を否定するのも当然のことだ。
「そんなに気になる?」
花奈にきょとんとした顔で聞かれて頷く。
あの時感じたゾクッとした感覚は今まで感じたことのないもので尋常ではなかった。
「気にしすぎ、なのかな?」
自分の感覚がだんだん信じられなくなってきて不安のあまり確認するように呟く。
小さい頃から他人を信用することなく真っ向から疑ってきた大雅だからそんな風に感じてしまっただけで、花奈などの普通といえば普通の人たちからすれば何の問題もないのだろうか。
「多分ね。少なくとも私はそう思うよ」
大雅の呟きを、花奈は今度はやんわり肯定した。
自分の主張を押し付けるわけでも他人の考えを全否定するわけでもなく、ただただやんわりとしか表現できない柔らかさで応対してくれる花奈に、大雅は有り難みを感じた。
彼女と一緒だとすき勝手に考えを広げることができると改めて実感した。
「そうか……」
そうこうしているうちに部屋に着き、大雅と花奈は畳へ上がった。
大雅の荷物の傍らには、夕飯に行く前に花奈にバレてしまった花奈の弟___大雅に次ぐ新たな破壊者として話題沸騰中の中学生・百枝 咲夜についての新聞記事の切り抜きが置かれたままだった。
その切り抜きというのは大雅が前に少年院長に呼ばれて、花奈の弟が破壊者だと明かされた時に院長に渡されたものだった。
迂闊だったとは言え、一番バレてはいけない相手にバレてしまったことは一生の不覚だと少し時が経っても思う。管理を怠ったばかりに花奈を傷つけてしまった。
勿論世間では話題になっているため警察も動かないはずがない。そうなると裁判にかけられて結果次第ではここにやってくることになる。そうなった場合に花奈が弟の___必死に隠蔽工作を行った___真実を貫き通せなかったと嘆き悲しむのに変わりはない。
遅かれ早かれ花奈の涙は流れてしまうのだが、それも遅い方が良かったのか、こうやって早く分かって良かったのかわからない。
今の花奈にとって一番の心配事は弟の咲夜の運命だ。ひとまず大雅が気にしている未央のことは、花奈との関係性も考慮して一旦置いておこうと思った。
「咲夜、大丈夫かな」
不意に後ろで声がして振り返ると、花奈がしゃがんだ大雅の手に握られている例の新聞記事を見ながら寂しそうな表情をしていた。
先程までの優しさは消え失せ、胸を潰そうとするばかりの大きな不安が花奈を襲っているのが見て取れた。
大雅は花奈にかけてあげられる言葉を懸命に探した。さっきのやんわりとした花奈の声かけで少なからず救われたのだから、今度は大雅の番だ。
でもいざとなると何も言葉が思いつかない。
咲夜が大丈夫かどうかは大雅にもわからないがそれをそのまま言ってしまうわけにはいかない。
それに花奈もそれくらいのことは承知しているはずだ。
わかっていて、でも、それでも誰かに大丈夫だと安心させられたい気持ちがあるのだろう。
その「誰か」は今花奈の目の前にいる大雅しかいない。大雅が言葉をかけてあげるしかないのだ。
「ああ」
ろくに言葉も見つからないまま、結局短くそう返した。
花奈はハッと大雅の方を見た。
新聞記事を見つめている大雅の表情は、花奈が大雅よりも後ろで立っていてその前に荷物の傍らで大雅がしゃがんでいるからわからない。
でも必死に大雅なりに花奈を励まそうとしてくれたのだと思って嬉しくなった。
「そうだよね。ありがとう、大雅くん」
花奈は笑顔でお礼を言った。
その目尻が涙で濡れていたのを大雅は見逃さなかった。
今し方お礼を言われたばかりだが、花奈の涙は本当に彼女の不安を取り切れたわけではないことの証明だ。
自分も横にしゃがみ込み、荷物を整理したりパジャマを取り出して入浴の準備に取り掛かっている花奈を見つめながら、大雅は覚悟を決めた。
変に格好つけるのはやめなくてはいけない。
最初は他人とは絶対に話さないと頑なだった。だが実際、ここに来る前に高校で散々悠希たちと言い合った。月影先生とも話した。警察とも話した。あの病院で。
頑なに決めていたはずがそれ以前に自分で破っていたことに今気付いた。それでも話さないと固く思うのならそれはただの格好つけ、意地っ張りだ。故に大雅の本意ではない。
今見ている女子高生は、たった1人の家族を失うか否かの瀬戸際にいる。
少年院に入って花奈に出会って、大雅の心は以前よりも暖かく溶けているに違いない。悠希たちの学校に居た時の心より、もっと言えば今までの心よりは確実に暖かく人間らしいものになっている。もう凍り切った冷たい心ではなくなっているのだ。
だからこそ自分の気持ちに正直になって行動することが大切だ。今大雅の胸に湧き上がっているこのふつふつとした熱い感情は、目の前の淡く小さな光に向けてのものだ。
その小さく今にも消えてしまいそうな光を消させないために、それを守らなければいけない。
いや、違う。
大雅が、守りたいのだ。
どんな結末になるかはわからない。何が待っているかもわからない。
でも大雅のできる範囲で彼女を支えて最後の最後まで守り抜く。
そう心に決めた、半月の夜だった。
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お気付きかとは思いますが、この度タイトルを変更致しました。
タイトルが変わっても作者の熱意は変わりません!(えっへん、名言だ)
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