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感じる闇

(ぼ、僕としたことが女子を下の名前で、しかも呼び捨てで呼ぶなんて……。一体どうしちゃったんだ……?)


 大雅の方から花奈を急かしておいて食堂に着いたはいいのだが、当の大雅は両手の平サイズの丸い白プレートを片手に、流行る鼓動を必死に静めようと試みていた。


 あの時思わず口から飛び出た『花奈』という呼び方。突然すぎて花奈も戸惑っている様子だったが、大丈夫だろうか。大雅のことを気味が悪いと思わなかっただろうか。それが気が気でなかった。


 列の先頭でおかずをトングで取っていた入所者が席に戻ったため、列が詰められ、長い行列は一歩足を進めた。


 女子の気持ちは、男子である大雅にわかるはずもないが、おそらく異性に急に名前を呼び捨てで呼ばれることは気持ちの良いものではないだろうと大雅は思った。


 きっと突然のことで混乱させ、驚かせてしまったに違いないと大雅は密かに反省した。現に逆の立場だったとして、花奈がいきなり『大雅』と呼び捨てで呼んだら大雅の心臓も忙しくなるに違いないからだ。


 また行列が一歩進んだ。大雅もそれに合わせて前進する。


 今も花奈の心臓はバクバクと激しく動いているだろうか。仮にそうだとすると驚かせてしまって本当に申し訳ない。


 大雅はそっと自分の胸に手を当てる。依然として鼓動のスピードは変わっていない。まるでお化け屋敷でお化けに遭遇し、悲鳴を上げた後のような鼓動の速さだった。


 今の状況で1番忙しい心臓は花奈のそれのはずなのに、何故か大雅のも忙しく伸縮を続けている。急に花奈を呼び捨てで呼んでしまった自分自身に対してものすごく驚いているのだった。


 この鼓動が何なのか、何を意味しているのかは大雅にもわからない。でも少なからず良い方向に進んでいるに違いないと確信を持つことができた。


 最初は花奈とも必要最低限以上の会話はしないと心に決めていたが、実際さっき話してみて大して苦痛ではなかった。だからこれからももっと喋っていっても大丈夫なのではないかという思いが大雅の胸に湧き上がってきた。


(また計画が崩れたな)


 当初は仲良くするフリをして花奈が少年院に来た理由を突き止めようという計画を立てていたが、それももう先程判明したために必要なくなった。


 花奈が弟である咲夜を庇って少年院に送検されたこと、不運なことにそんな努力もむなしく世間では新たな破壊者(デストロイヤー)として花奈の弟_____水色髪のショタ感満載な中学生____咲夜の名が広まっていること、そしていずれ咲夜もここに送検されるかもしれないということ。


 今大雅が知っているのはそれくらいだが、予想以上に情報が容易く集まった。


 次に行列が一歩進むときにはだいぶん料理との距離も縮まっていた。


 最初は花奈が簡単に口を割ることはないと思っていたために、花奈がすんなり今までのことを打ち明けてくれたときには気が動転したものだった。


 早くももう一度前進。すると


「うわぁ、やっぱり美味しそうだね」


 真後ろで歓喜の声が上がり、大雅は思わずビクッと小さく飛び跳ねてしまう。  


(そうだった……忘れてた……)


 右の掌をおでこに当てて「しまった」のポーズ。


 そう、今の今まで大雅が脳内で必死に心配していた相手はすぐ後ろに最初から並んでいて順番を待っていたのだ。


 6つほどの長机、その上に敷かれた純白のテーブル掛け、そしてその上に並ぶ色とりどりの料理に、桃色髪の女子高生は目を眩しいくらいに輝かせていた。


「反応変わらないね」


 少し呆れつつ言うと、その目の輝きは大雅の目に勢いよく飛び込んできた。


「当たり前だよ! ここの料理、何回見ても美味しそうだし、何回食べても美味しいんだもん!」


「そっか」


「うん!」


 その後も花奈の目の輝きは衰えることを知らず、眩しい目の持ち主はトングを片手に超ご機嫌だった。


 そしてご機嫌のまま自分でよそったおかずを口に運ぶ花奈。


「わかってる? これ晩飯だよ?」


 怖くなった大雅は念のため確認する。


「うん! 大丈夫だよ大雅くん! ……んんんん! 美味しーい!」


 これでもかというほど口いっぱいにおかずを頬張り、幸せの雄叫びをあげる。


「食べ過ぎ注意だよ?」


 花奈の横で小さい口に少しずつおかずを運びながら、長い黒髪が美しい高2・未央も声をかける。


「はい!」


 未央に注意されても花奈の口は止まらなかった。


「そう言えば大雅くんだっけ?」


 未央が突然大雅の方に目を向けた。紅の瞳に見つめられてわけもなく少したじろいでしまうがなんとか短く「はい」と返事をする。


「さっき花奈ちゃんと何話してたの?」


「え?」


「何か話してたの聞こえちゃったんだ。別に盗み聞きとかじゃないんだけどね。純粋に気になって」


 未央の微笑みに大雅は視線を外す。まさか花奈との会話を第三者に聞かれていたとは夢にも思わなかった。


 どこから聞いていたのだろうか。未央本人は盗み聞きではないと前置きをしたが、どこから聞いたかによっては十分な盗み聞きが成立する可能性もある。


「世間話ですよ。特に大した意味はないです」


 視線を合わさず、目の前のお皿を見つめたまま答える。


「そっか」


 大雅の答えに未央は満足そうに頷いて


「ならいいの。何か気になっただけだから。ごめんね」


 手を合わせる未央。


 だが大雅は申し訳なさそうに謝っている彼女の笑顔にある()を感じてゾッとした。


(何だこいつ。只者じゃない)


 今までの経験と大雅の破壊者(デストロイヤー)としての勘がそう思わせた。まるで自分自身を見ているかのような、闇の深さだと思った。勿論少年院に大雅よりも長く入所しているため、過去に何かしらの犯罪は犯しているはずなのだが。仮に花奈のように身内を庇っての入所だとも考えたが、感じる闇はその考えをすぐに振り切らせた。


 一体何なのだろうか、この胸のざわめきは。これ以上執拗に花奈と接触させるのは危険な気がする。


 大雅はいつになく険しい顔つきで目の前に座る笑顔の未央と花奈を見ていた。

お読みいただきありがとうございます!

これからもゆっくり更新になると思いますが、切らずに読み続けてくださると嬉しいです。感想や評価、ブックマークもよろしくお願いします!


次回! 初めて感じた未央の闇に大雅はどう動くのか?

お楽しみに!ではまたお会いしましょう!

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