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深まる絆

「実は僕もあんまりわかってないんだ」


「え?」


 大雅の口から出た予想外の答えに花奈は戸惑って聞き返した。デストロイヤーと呼ばれている彼自身がどうしてその意を知らないのか。


「みんなが勝手にそう呼んでるだけ。多分僕が学校壊してきたからだと思うけど」


「が、学校壊したの!?」


 衝撃的な大雅の発言にまたも花奈は驚いた。前に女子を刺したことがあるというのはちらりと聞いたが、まさか学校まで壊しているなんて、と。


「うん」


 花奈が驚いているにも関わらずさも当然だと言うふうに大雅は頷く。


「色々嫌なことがあったんだよ」


「……いじめ?」


 咲夜も学校で嫌な思いをしていたことが頭をよぎり、思わずそう尋ねてしまう花奈。


 大雅は花奈をチラリと見た後、紺色の前髪を手でたくし上げて言った。


「家庭内、かな」


「親御さんに!?」


「自業自得だけど。僕が親の別荘を燃やしたのが原因。今じゃ何で怒られるってわかってるのに親の別荘選んだんだろうって後悔してるけど。あの時の僕は本当にバカだったよ」


 大雅はフッと自嘲を含んだ声で言う。


「……何で燃やしたの?」


 花奈は大雅の顔色をうかがいながらおそるおそる尋ねた。あまり気に障ることを聞くと大雅を怒らせてしまうからだ。せっかく仲も深まりつつあるはずなのにここで終わらせたくない。


「マッチの火が、好きだったんだ」


「……へ?」


 斜め上の回答にズテンと転びそうになるのを抑えて再び花奈は尋ねる。


「マッチ、好きだったの?」


「うん。今はあんまりだけどね。その当時はキラキラ光ってるのが魅力的で」


 そう言う大雅の目もキラキラと輝いていた。呆れつつも花奈はそんな大雅を見て少し安心した。


 無口でクールであまり積極的に他人と関わらない彼だが案外子どもっぽいところもあるのだと思うと自然に頬が緩んだ。


「って、僕は何をいらないことまで。今の忘れて」


 ハッと我に返り顔を赤らめて大雅は花奈から目を背けながら小さい声でそう言った。


「う、うん。わかった!」


 大雅の恥ずかしさが伝染してしまったのか、花奈まで恥ずかしくなって顔を背ける。顔が少し熱いのを感じながら花奈の胸には別の疑問が湧き上がっていた。


「じゃ、じゃあ次の質問いい?」


「う、うん」


 お互い顔を見合わせることもなく畳を見ながら


「そ、その、前に女の子を刺したことあるって言ってたじゃない? それと、そ、その……マッチが好きで学校燃やしたっていうのは何か関係あるの?」


「あ、あるけどその言い方はちょっと心外だな」


 大雅が急に黙ったので花奈は視線を畳から大雅に移す。怒ったように少し膨れている大雅の頰はまるで花奈の髪の色のように桃色がかっていたが、さっきのような真っ赤ではなかった。


「恨みがあったから燃やしたんだよ」


「恨み?」


「う、うん」


 徐々に頰の赤みも消えていき、少しずつ元のクールな大雅の表情に戻っていた。


「僕があれだけ苦しい思いしてたのに……」


 不意に大雅の表情が曇った。黙って暗い表情で畳を見つめている。男にしては少し長い紺色の前髪がその目を隠した。花奈の方からはきゅっと固く結ばれた口元しか見えない。だが明らかに気分を害してしまった表情が口元から読み取れた。


 花奈はそれを見て慌てて


「あ、ごめん! もういいよ!」


「……え?」


 花奈を見つめる大雅からは先ほどの曇りは消えていた。なぜもう良いのかと聞きたげな顔でキョトンと花奈を見つめている。


「ちょ、調子に乗っちゃっていっぱい聞きすぎちゃった。言いたくないこともあるのにね。ごめんね!」


 慌てて言ったために少し挙動不審な言い方になっているが、花奈は勿論そんなことに気がつくわけもなく必死に前言撤回の言葉を並べている。何とか大雅の機嫌を元に戻そうと必死だった。


「別にいいよ。僕が昔のこと思い出しただけだし、それに前にも話したなって考えてたんだ」


「どういうこと?」


『前にも話した』という大雅の言葉が気になってまた花奈は尋ねる。尋ねた後で気に障る質問だったかもしれないと思い、急いで口を押さえる。


「僕がここに来る前に行ってた学校の奴が面倒で、僕の今までの計画を全部調べ上げてきたんだよ」


 だが大雅はそんなことを気にする素振りも見せずに言った。大雅の頭には悠希の顔が浮かんでいた。あの時悠希のことは死ぬほど嫌いだったが、今となればそんなことも懐かしく思える。それが少し不思議だなと感じながら


「何でこんなことしたんだってしつこく聞かれてさ。その時も今君に言ってるみたいにそいつに話したんだよ」


「そ、そうなんだね」


 大雅の頰が緩むのを見てホッと胸を撫で下ろした。反射的にまた質問してしまって怒らせたのではないかと不安だったのだがその不安はいらなかった。


「懐かしいな」


 大雅は畳を見つめながらそう言って笑った。


 周りが燃え盛った体育館の舞台とその床に対峙して悠希と本心をぶつけ合った日のことが、悠希の言葉が頭をよぎる。


 結局計画は失敗に終わって自害しようと爆弾を投下したがそれも失敗した。


 そのおかげで何年間と続けてきた残虐な犯罪に終止符が打たれたわけだが、今思うとあれだけの殺人を犯した大雅に臆することなく立ち向かって来られた悠希はすごいなと思う。並大抵の勇気ではあんなことはできない。悠希自身も死ぬ覚悟で大雅を止めにきてくれたのだと今ならわかる。


「言っておくけど」


 そう前置きして大雅は言葉を紡いだ。


「僕が前に言ってたこと、たしかに女子は刺したけど殺してはないよ。途中まで上手く行ってたのにその例の奴に邪魔された」


「そ、そうなんだ。その人、すごいね。勇気あるなぁ」


 花奈も話を聞いただけだが感心した。もし花奈が大雅を止める立場にいたとしても絶対に悠希のようなことはできない。もっと言えば悠希にしかできない行動なのではないかと思う。


「会ってみたいな」


 不意にこぼれたその言葉に大雅も頷く。


「1年後かもっと先かはわからないけど、きっと会えるよ。僕もお礼言いたいし」


 そう言うと大雅は優しく笑った。花奈が初めて見る大雅の本当の笑顔だった。


 その笑顔につられて花奈も笑顔がこぼれる。


「ありがとう、大雅くん」


 花奈がお礼を言うと、大雅もせっかく元に戻っていた頰を赤らめながら言った。


「こ、こちらこそ。……花奈」


「……え!? い、今、花奈って……」


「何でもない! ほ、ほら、晩飯行くぞ!」


 大雅は照れを隠すように勢いよく立ち上がり、ドスドスと大きな音を立てて部屋を出て行った。


 花奈はそんな大雅を見ながらバクバクと鼓動の治らない心臓を抑えて、立ち上がった。


「ま、待ってよ」


 ドアを開けて急いで大雅に追いつく。


 並んで歩く2人を、遠くから見つめる黒髪がいるとも知らずに____。

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