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理由

 咲夜が殺しをやめないもう一つの理由。


 それは、『姉・百枝花奈(かな)のため』だった。


 実は一度、咲夜が殺しをしている現場を、偶然通りかかった人に見られてしまったことがあった。


 勿論時間は夜だったし、その通行人が老人だったこともあって咲夜()()()()()という認識しかされなかったようだ。


 そのため、後日その老人が家に来た時に、何とか誤魔化すことができた。


 その時は、ちょうど母親がバイトで出勤していたため、家に居たのは姉弟__花奈と咲夜だけだった。


 目の前の老人の口から『殺人』という言葉が出てきた瞬間、隠し切れるわけがないと思った咲夜は、姉の花奈に正直に打ち明けることにした。


 自分が学校でいじめられていて、一度は死のうと思ったこともあった。でも死ぬ勇気がなかなか出なかったのだ、と。


 そんな時にふと『自分と同じ思いをしている人が他にもいるはずだ』と思い立ち、死ぬ勇気がないけど死にたいという人達の役に立とうと考えた。そして殺しを始めたのだ、と。


 姉__花奈は勿論動揺していたが、実の弟がいじめにあっていて死ぬことも考えたとは知らなかったようで、『知らなくてごめん』と涙を流しながら謝ってくれた。


 咲夜は母親に言いつけられるのが怖かったが、花奈が放ったのは咲夜の予想を遥かに上回る言葉だった。


「__私が身代わりになる」


 最初聞いた時は、花奈がその場の流れで言ったのだと思って咲夜は軽く受け流していた。


 咲夜は勿論、自分が家庭裁判所にかけられて重罪になることも覚悟していた。


 何せ、それぐらいのことを咲夜は幾度となく繰り返してきたのだから。


 だが老人の通報により警察が家に来ると、花奈は迷うことなく『私がやりました』と発言した。


 その横で驚いている咲夜をチラリと見て微笑むと、花奈は連行するためにやってきた警察とともに家を出て行った。


 そして勿論、まだ帰ってきていない。


 きっとあれから裁判になって、重罪だということで少年院に収容されたのだろう。


 咲夜が殺してきた人達は、少なくとも両手で数え切れる数ではなかった。

 そのため、おそらく保護観察では済まされないはずだった。


 __世間は、高校生にして残虐な殺人を犯した、咲夜の姉・百枝花奈を罵倒し貶した。


 新聞には毎回目立つように掲載され、新情報があれば徹底的にニュースで報道された。


 勿論、花奈はまだ未成年なので顔写真や名前は公表されておらず、世間の人々はこの殺人者が百枝花奈だとは知らない。


 だが事情を知っている咲夜にしてみれば、皆が姉の悪口を毎日のように言っているようなものだった。

 同時に改めて、咲夜は自分の犯した罪の重さを痛感した。


 相手が死を望んでいる人達ばかりだったとはいえ、人を殺した事実に変わりはない。


 そんなことをしてきたのだ、と咲夜は自分を強く責めた。

 姉を身代わりにして、今も何不自由なくこの世で生きている自分を呪った。


 もう二度と殺人はしない、と心に誓った。


 だが、時が経つにつれて、このまま殺人を続けた方が良いのではないかと思い始めた。


 時は同じく、夜に動くことにして今まで通りに続けていれば、また通行人に見つかるかもしれない。


 そうなった時に咲夜が名乗り出て、取り調べで証言すれば姉は釈放されるはずだと考えたのだ。


 そうやって今もずっと続けてきたが__。


「まさか、母さんにバレるなんて……」


 涙が出てきそうだった。


 死んでも母親には迷惑かけない、と誓ってやってきたことだったのに、その誓いがいとも簡単に崩れてしまったのだ。


 これから警察が来て、当然ながら咲夜を連行していくだろう。


 取り調べで、姉の無実を証言できる絶好のチャンスだとも思ったが、咲夜__犯罪者の言うことなど果たして聞いてもらえるだろうか。


 姉を庇うための口実だと言われてしまえば、咲夜にはどうすることもできなくなる。


 以前、咲夜が使用していたナイフには、花奈の指紋が検出されたという。


 きっとあれから、花奈が咲夜のナイフを見つけて力いっぱい握り、自分の指紋を上づけしたのだろう。


 咲夜のことを想って必死にナイフを握る姉を連想し、咲夜の目から涙がこぼれ出た。


「ごめん、姉ちゃん……」


 咲夜は、自分の部屋で声をあげずに泣き崩れた。

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