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楽しみ

 悠希と話せることが嬉し過ぎて、咲夜は今までにない勢いで色んなことを喋った。


 どんな風に学校で過ごしているか、今どんな教科を習っているか、成績、休みの日の過ごし方、ダラダラしてばかりの母親の愚痴、自身が母子家庭であることなどたくさん、たくさん話した。


 やっと見つけた話し相手にワクワクが止まらなかった。


 ようやく話すネタがなくなって咲夜は深く息を吐いた。


「お兄ちゃんって優しいね」


「そうか?」


「うん。だって今もアドバイスくれたしボクに優しくしてくれるもん」


 悠希は微笑んで優しく言った。


「大丈夫だって。いつか咲夜のこともみんなにわかってもらえるよ」


「うん!」


 咲夜は元気に返事をして無邪気な笑顔を見せた。


「あ、もうこんな時間か。じゃあな、咲夜くん。俺もう帰るよ」


「もう?」


「うん。遅くなると親に心配かけるから」


「そっか。わかった」


 咲夜は素直に頷き、悠希に背を向けた。


「あ、咲夜くん」


 暗闇の中去っていく咲夜を悠希が不意に呼び止めた。


「え?」


 咲夜は立ち止まり、首だけ振り返った。


「何かあったらいつでも言ってね」


「うん!」


 悠希の笑顔に咲夜は嬉しそうに頷いてまた暗闇へと姿を消した。


 悠希は咲夜の笑顔を見て安心したように微笑んだ。色々と自身のことを話す咲夜は確かに目を輝かせていたが、その裏に少し不安の色が見えたのが気になった。


 だがあの笑顔を見る限りは大丈夫そうだ。悠希は咲夜が去って行った方向を見つめていた。


 翌朝。


 燦々と輝く朝日に照らされて悠希はいつも通り学校に向かっていた。


「よっ!」


 声とともに背中を叩かれてまたこけそうになるが、何とか足を出して踏ん張る。


「お前なぁ……」


 呆れながら振り返った先には幼馴染の明るすぎる笑顔があった。


「で?どうだったんだ?そいつ」


 2人で並んで少し経ってから龍斗が尋ねた。


「そいつって?」


「何だっけ?」


「お前が忘れてどうするんだよ」


「違う違う!名前だよ!さ、さく……?」


「あ、咲夜くんのことか?」


「あ、そうそう!」


 龍斗はやっと咲夜の名前を思い出せてすっきりしていた。


「別に何もないぞ。世間話とか咲夜くんの愚痴聞いたりとかそんな程度だ」


「ふーん。なら、まぁいっか」


 龍斗は納得したようにふむふむと頷きかけたが、ハッとして首を左右に振った。


「いやいや!良くねぇ良くねぇ!あのな、悠希」


 龍斗は悠希の肩を掴んで珍しく真剣だ。


「冷静に考えてみろ? 普通の中学生が夜遅くに高校生に会うためにずっと待つんだぞ? そんなことしなくても連絡先交換して休みの日に話せば済むし、もっと言うならメールとかで済ませばいいじゃねぇか!」


「た、確かに……!」


 龍斗の謎の威圧感と珍しく最もなことを言っている姿に若干引いてしまいそうになる。


 だが龍斗の言うことは最もだった。


 確かにわざわざ夜に直接会って話さなくても電話やメールでやり取りはできる。それにどうしても直接と言うのであれば休日で充分だ。


 そんな当たり前なことにどうして今まで気づかなかったのか、と悠希はため息をついた。


「最近の学生は野蛮なんだぞ? もっと危機感持てよ!」


 龍斗が真剣に訴えすぎて悠希の肩を掴んだまま離さず、おまけに力を込めて前後に揺らしているものだから悠希の首はガクンガクンと揺れていた。


「わ、わかったよ、気をつけるから」


 何回も首を揺らされて流石に気分が悪くなってきた悠希はギブアップ。


「よぉし!絶対だぞ!」


 龍斗は悠希の答えに満足したように言うと、肩からすっと手を離した。


 龍斗から解放されて安堵のため息をついた悠希は、さっき龍斗に言われた言葉を思い出していた。


「確かにここ最近は10代が引き起こした事件も目立ってきてるよな。陰陽寺みたいな感じで」


「そうだぞ!」


 悠希のつぶやきに龍斗が力強く頷く。


 そうこうしているうちに2人は学校に着いた。


 教室では早絵と茜が喋っていたので悠希と龍斗が声をかける。


「おはよう」


「おっす」


「おはよう!」


「おはよ」


 こうしてそれぞれ挨拶を済ませ、悠希が自分の席に制カバンをどさっと下ろすと、早絵が聞いてきた。


「ねぇ、悠希くん。咲夜くんっていう子ってどうだったの?」


 やっぱり聞いてくるのはそのことか、と悠希は半笑いしてしまう。


「色々話してくれるしいい子だよ」


 実際のところ悠希にも咲夜の詳しいことや細かい性格まではわからないので一概には言えないが、現時点ではそういう印象を受けた。


「そうなんだ。良かったね」


「ああ」


 早絵の言葉に悠希は微笑む。今日も夜が来れば咲夜と話すことができる。


 落ち着いているように見えるが悠希も内心では咲夜と話すのが楽しみでならなかった。


「悠希、兄弟いないからってその子誘拐したらダメだよ」


 机に突っ伏しながらからかってくる茜に悠希は思わず突っ込んだ。


「そんなことするかよ!」


「いや、なんかしそうな感じだから」


「どういう感じだそれは?」


 悠希は茜の言葉に若干腹を立てたが、そこまで腹を立てる必要もないだろうと気持ちを沈めた。


「とりあえず大丈夫だからみんな心配するなよ」


「心配もするに決まってんでしょ。悠希が何するかわからないのに」


 またも悠希を挑発するような言動をしたのは茜だった。


「俺を変質者扱いしないでくれるか」


 悠希はどこまでもからかってくる茜に呆れながらそう言った。


 そして授業も補習も終わり、あとは咲夜の所に向かうだけになった。


 悠希は下校完了を知らせる放送が入るやいなや、校門を飛び出して走り出した。


 勿論時間を約束しているわけではなくただ純粋に咲夜と話すのを楽しみにしての行動だった。


 もうすぐ咲夜に会える……!


 悠希の胸は高鳴っていた。



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