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胸の高鳴り

咲夜さくやくん、か。よろしくね」


 悠希ゆうきも笑顔で挨拶をする。


「うん!」


 咲夜は悠希に挨拶されたのが嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべた。


「……と、こんな時間なのに外出歩いてたら危ないぞ?」


「ボク中学生だから大丈夫だよ」


「え、いや、でも……」


「お兄ちゃんは高校生?」


「あ、うん」


「そっか、ボクより年上だ」


 咲夜はまた嬉しそうに言った。


「親はいるんだよね。今日はもう遅いから帰った方がいいよ」


「え〜〜〜」


 咲夜が不満そうに地面を軽く蹴っていじけたので悠希は急いで付け足した。


「今日はもう帰ってまた明日、明日ゆっくり喋ろう」


「え、いいの!?」


 咲夜の沈んでいた目が空で煌めく星々のようにキラキラと輝いた。


「ああ、約束だ」


「うん! わかった! じゃあね、お兄ちゃん!」


「ああ、じゃあな」


 咲夜は素直に走って手を振りながら帰っていった。

 悠希も咲夜の姿が見えなくなるまでずっと手を振っていた。


「ちょっと子供扱いしすぎたかな」


 咲夜の姿が見えなくなってから悠希は自分の接し方に疑問を抱いた。

 そもそも中学生ならそんなに過保護みたいに色々聞き回らなくてもよかった気がしたからだ。

 逆に子供扱いされて咲夜が怒っていないか心配になった。

 だがあの様子だと気にしていないだろう。

 悠希はひとまず大丈夫だと自分に言い聞かせ、家への道を急いだ。


 ※※※※※※※※※※


「へぇ〜! まぁ、大丈夫だろ」


「そうだと良いけど」


「まぁ、元気出せよ悠希」


「おう、ありがとな」


 夜ご飯を食べ終えてから、悠希は自分の部屋で龍斗(りゅうと)に電話をかけていた。

 内容は勿論咲夜のことだ。

 ついでに自分の接し方について尋ねてみたが、龍斗曰く大丈夫だろうということだった。

 だが龍斗の言い分は半分信用できないため、明日学校に行ったら早絵にでも聞こうと悠希は密かに思っていた。

 こういう真剣な相談はやっぱり早絵にするのが一番なのだ。


「にしても、中学生でそんな子供みたいな態度っていうのもなんだかな」


 龍斗がため息交じりに言った。

 龍斗の言葉に悠希も納得せざるを得なかった。

 確かによくよく考えてみれば中学生にもなってあんなに子供じみた態度を取る人はいないだろう。

 今の中学生がそういう感じなのかもしれないが、少し変だと悠希も思い直した。

 すぐに違和感を覚えなかった自分に驚きながらも、咲夜を100%信じきるわけにはいかないと腹をくくる悠希。

 大雅のこともあったためあまり初対面の人間をすぐに信用し切ってしまうのは良くないという判断に至ったからだ。


「まぁ、でも可愛かったけどな」


「お前、デレデレじゃねぇか」


 龍斗が大笑いしながら言う。

 悠希には下の兄弟がいないため、自分より年下の人と出会うとどうしても真っ先に「可愛い!」という感情が沸き起こってしまうのだ。

 流石にそれが行き過ぎると変態、又の名をロリコンと呼ばれてしまうため、悠希はその気持ちを何とか最小限に抑える。


「まぁ、でも気をつけろよ。初対面のお前にいきなり絡んできたんだからよ。しかも夜だぞ? 絶対怪しいって!」


 龍斗の口調が途中から真剣になった。


「わかってるよ。ありがとな」


 悠希は素直にお礼を言った。

 龍斗もなかなかまともなことを言うようになったな、と我が幼馴染の成長を頼もしく思った悠希。

 それからはたわいもない世間話をして10分後に電話を切った。

 時計を見るともうすぐ日が変わってしまう時間帯だった。


「ヤバイな、早く寝ないと」


 悠希は時間の経過の早さに驚いたが、疲れていることだし早く休もうとベッドに入った。


 ※※※※※※※※※※


「ただいま〜」


 咲夜は元気よくそう言って家に入った。

 リビングに向かうと母親がテレビを見ながら「あ、おかえりー」と咲夜の顔も見ずに言った。


「…………」


 咲夜は母親をひと睨みした後で「ご飯できてる?」と尋ね、ダイニングを覗いた。

 既にダイニングの電気は消えていて、今ついているのはリビングの電気だけだったが、覗くついでにダイニングも電気をつける。

 机の上にはラップのかかった丸皿がちょこんと寂しく乗っていた。

 その丸皿に盛られていたのはカレーだった。

 もう冷えているのか、ラップの水滴も少ない。


「カレーか、ありがと」


「うん〜」


 咲夜がお礼を言うと母親ののぼけた返事が返ってきた。

 咲夜は少し気分を害しながらも気に留めることなくお皿をレンジに入れてカレーを温めた。

 数分経って熱々になったカレーをほおばっていると、ふと悠希の顔が浮かんだ。

 まるでこの世の闇を一切知らない人間だった。

 顔から溢れる笑みに何の闇も感じない。

 純粋で真っ白な心の持ち主なんだろうなと咲夜は思った。


「気持ち悪い」


 思わず声に出てしまう。

 だが咲夜が抱いた悠希の第一印象はそれだった。

 そう思うのは自分が真っ黒な心を持っているだけだからなのかもしれないが。


「なんか言った〜〜?」


 テレビを見つつビールをぐびっと飲みながら母親が聞いてきた。


「何もない!」


 咲夜は叫んで急いで残りのカレーをやけ食いした。

 少しルーがこびりついたお皿とスプーンを見つめながら、咲夜は自分の右の手のひらに視線を移す。


「今日も、ゾクゾクしたな」


 咲夜は微笑んで食器を片付けに立ち上がった。

 食器を洗いながらも思い浮かぶのは明日のことだった。

 明日喋ろうと悠希と約束してからずっとワクワクしている。

 今まで誰かとの約束でこんなにもワクワクしたことはなかった。

 それなのに今回だけ意外だった。

 やっぱり殺っていて良かった、と心から思えた。

 明日もまた殺ろう。

 今日と同じ時間帯まで殺ってたら悠希もきっと来てくれるはずだ。

 純粋な人と関わったら自分も白くなるだろうか。

 そんな淡い期待が隅の方に芽生えていたが、今の咲夜にはこれさえも明日へのワクワク感に思えてならなかった。

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