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驚愕の報せ

「……そうなんですか」


 院長の言葉に大雅たいがは頷いた。

 早朝、まだ起床時間の六時までだいぶ時間がある時だった。

 大雅は院長に呼び出され、ある新聞記事の切り抜きを渡された。


陰陽寺おんみょうじ大雅たいがに次ぐ新たな殺人鬼!? 中学生・百枝ももえ咲夜さくや


(何だこれ……)


 大雅は、勿論新聞の見出しに自分の名前が記載されていたことにも驚いたが、その驚きを遙かに上回ったのがその次に書かれている『百枝咲夜』という名前だった。


(百枝……)


 一番最初に思い浮かんだのは花奈(かな)が初めて少年院に来た時のことだ。


『百枝 花奈です! よろしくお願いします!』


 そう言って彼女は頭を下げた。


(まさか……)


 そして見出しに書かれている名前も『百枝 咲夜』。

 花奈と同じ苗字だ。


「これって」


 大雅は見出しから顔を離し、院長の方を見上げた。


「あぁ」


 院長は何とも言えない神妙な表情をしていた。


「裏も取れてる。この子が百枝さんの弟だ」


 大雅の予想は当たった。

 この百枝咲夜という中学生は花奈の弟だったのだ。


(やっぱりそうか……)


 大雅は自分の予想が当たったと共に、花奈に対して抱いていた違和感の正体を知ったことに確信を持った。

 あの日、自己紹介のために入所者全員の前に姿を見せた花奈。

 だが彼女からは犯罪の匂いが何もしなかった。

 おまけに同じ部屋になった自分にも優しく接してくれていた。

 どこからどう見ても犯罪者ではなかった。

 大雅は最初自分の違和感が間違いなのではないかと思っていた。

 普通どれだけ隠していてもいずれ本性は見えるものだ。

 花奈の場合も優しく接してくれるのは今のうちだけで、時が経つにつれてだんだん本性があらわになってくるはずだと踏んでいた。

 だが大雅の読みは外れたに等しかった。

 少なくともこの一週間で花奈がボロを出したことは一度もなかった。

 つまり花奈は犯罪者ではない、そう断定するのが甘すぎるとしても悪いことをするような人間ではないということだ。

 だとすれば……。大雅は今までずっと考えていた。

 仮に花奈が冤罪でここに送り込まれたとして、その理由は経緯は?

 誰を庇ったのか? 何のために?

 だが考えれば考えるほど疑問が次から次へと浮かんできて、とても大雅だけでは収集がつかなかった。

 そんな時にこの記事を見たのだ。

 花奈が犯罪者ではないのはこれで確定された。

 きっと彼女は弟である咲夜を守るために自らが代わりになって少年院にやってきたのだろう。

 どうやって偽装工作をしたかまではわからないが、面会にも来ない時点で咲夜は姉に対して何の感情も抱いていない。

 家族なら収容されたら面会に行ったり直接は行けなくても手紙を送ったりして何とか交流を保とうとするはずだ。

 だが咲夜はそんなことは何もしていない。

 ましてや花奈が面会をしている姿など今まで一度も見たことがない。

 弟どころか家族にも見捨てられているのか、それとも親無しで姉弟二人で生活を共にしてきたのだろうか。

 いずれにせよ花奈が一人ぼっちなのは明らかだった。

 そうなると彼女自身もここに来たかったのかもしれない。

 殺人鬼と謳われている弟の身代わりになるのだったら、いっそのこと家ではない別の所で暮らしたい、とそう思ったのではないだろうか。

 それに、大雅のように殺人を犯してすぐに少年院に送られてきたのならなおさら身寄りはいない。

 すなわち、花奈を引き取ってくれる大人が誰もいないということになるのだ。


「入所以前に聞いた話ではないから、彼女自身もこの事を隠したいんだろう。だから今は黙っていてくれ。時期が来たら百枝さんにも直接話を聞く」


 院長は大雅の肩を掴んで言った。


「くれぐれも百枝さんを頼んだよ」


「はい」


 大雅は院長の言葉に頷いた。


「でも」


 大雅は口を開いた。


「何で僕にこの事を教えてくださったんですか? こんな事入所者に知られたらまずいんじゃ」


「大丈夫だ」


 院長は自信に満ちた表情で言った。


「君だから、教えたんだ」


 院長は笑顔でそう言った。

 大雅にはその意味がわからなかった。


「……ありがとうございます」


 とりあえずお辞儀をし、大雅は自分の部屋へと戻っていった。


 ※※※※※※※※※※


 ドアを開けて部屋に入ると花奈はまだ布団の上でスースーと小さな寝息をたてながら眠っていた。

 時計を見ると5時50分だった。


(結構長く院長と喋ったんだ)


 大雅は知らない間の時間の経過に驚き、さらには院長と気軽に話せたことが未だに信じられずにいた。

 院長と言えば院長室でふんぞり返って偉そうにしているイメージがあったからだ。

 だが、ここの少年院の院長はまるで違った。

 たとえ犯罪を犯した入所者とは言え同じ人間。

 そんな観点のもとから誰に対しても気さくで丁寧に対応してくれた。


(いい人、だな)


 大雅の顔から笑みがこぼれた。

 初めて大雅自身が自分から良いと感じる人に出会ったかもしれない。

 また時計を見るとさっきから二分しか経過していなかった。

 仕方なく布団に潜り、特に意味もなく花奈の寝顔を見つめる。院長の言葉を思い出した。


『くれぐれも百枝さんを頼んだよ』


 きっと花奈は自分に弟がいて、その弟が非行に走っていて、それを自分が庇って少年院に入ったという事実を隠している。

 最も大雅が先に知ってしまったのだが、秘密を握ってしまったのには変わりはなく、少し悪い気がした。


(百枝 咲夜、か)


 大雅は花奈の寝顔を見つめながら彼女の弟に思いを馳せていた。

 朝日が昇り部屋に光がこぼれ始める。

 今日も新しい朝が始まるのだ。

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