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またもう一度

137pt、ブクマ29件ありがとうございます!

 その夜、悠希ゆうきの家で龍斗りゅうとあかね早絵さえの四人は集まることにした。

 だが大雅たいがが警察に行った直後のため、皆静かに俯いている。


「ゆっくりしていってね」


 お菓子やらジュースやらを二階の悠希の部屋まで届けてくれた時、悠希の母親、千里ちさとは笑顔で言った。


「みんな、ごめんな。もう夜なのに」


 悠希はそう言って頭を下げた。


「なに水くさいこと言ってんだよ。俺たちで決めたことだろ?」


 龍斗が悠希の背中をかなり強く叩いて言った。


「みんなでこれからのこと考えるって」


「そうだな。……っていうかお前な、どさくさに紛れて背中叩くなよ」


 悠希はジンジンと痛む背中をさすりながら文句を言う。


「え? そんなに痛かったか?」


「うん、かなり」


「マジか。そんなつもりなかったんだけどな〜」


 素振りをしながら不思議そうな顔をする龍斗に悠希は引いた。


(マジかよこいつ。さっきので本気じゃないとか)


 龍斗に叩かれた瞬間、悠希は身体の中身が全て飛び出してしまうかと思ったのだ。

 それくらい龍斗の力は強かった。


「まぁ、でもお前が痛かったんだったら相当強くしちまったのかもな! そりゃあ悪かったな! アハハハ!」


 龍斗は白い歯を見せて口を大きく開けて笑った。

 口でこそ謝っているがおそらく痛がる悠希を見て楽しんでいるに違いない。


「笑い事じゃないって……」


 悠希はため息をついてボソッと呟いた。

 とはいえ、龍斗がこうして明るく振舞ってくれているおかげで少しだけ気持ちが軽くなったのも事実だった。


(ったく、ちゃんと考えてんのか思いつきなのか分かんないな)


 さっきの重い空気から想像するに、龍斗も大雅のことで頭はいっぱいでこれからどうするべきかわからないまま、不安だったはずだ。

 だが、場の雰囲気を変えようとああやって悠希にちょっかいを出してくれたのだろう。

 バカに見えるが意外と周りを見ているのかもしれないと思うと少し見直す気持ちも出てくる。


「さてと、じゃあまず何から始める?」


 悠希も雰囲気を少しでも変えるため、両手をパンと叩いた。

 その音にさっきまで俯いていた早絵と茜も顔を上げる。


「色々調べないといけないんじゃないかな」


 早絵が口を開いた。


「まず私たち、陰陽寺おんみょうじくんの爆発事故を止めることに目が行きすぎて、その後のこと全く考えてなかったでしょ?」


 早絵の言葉に全員が頷く。


「何も知らないままで陰陽寺くんを警察に引き渡しちゃったけど……。あれじゃダメだと思うの」


「確かにそうだな。実際俺たちも未成年は犯罪を犯したら少年院に入るっていう決まりは知ってたが、あそこがどんな場所か、何をしているのか、仕組みとかそういう詳しいことは知らなかった」


 悠希も早絵の意見に同意した。


「じゃあまず少年院のこと調べる?」


 茜がそう提案し、全員頷く。


「よっし! 決まりだな!」


 龍斗がやる気満々の声で言った。


「私、パソコン持ってきたから」


 そう言って茜は制カバンの中からノートパソコンを取り出して机の上に置いた。


「お前学校にパソコン持ってきてたのかよ」


「ずっとだよ?」


 悠希のツッコミに茜は平然と返す。


「先生に見つかっても知らないからな」


「見つからないから〜」


 悠希が説教しても特に悪びれる様子もなく、茜は電源ボタンを押してマウスをくるくると動かした。

 数秒後、起動音とともにパソコンが起動した。

 だが、その速度がおかしい。


「ちょっと待って。このパソコン結構ボロいから立ち上がり遅いの」


 茜は少しイライラしながらマウスを机の上でくるくると動かして言った。


「大丈夫。そんな急がなくてもいいぞ」


 悠希は優しく声をかけたが、茜は起動画面に夢中で返事をしなかった。


(スルーかよ)


 悠希は呆れた気持ちになったがすぐに、


(まぁ、仕方ないか)


 と思い直した。

 学校に今まで持参していたことは別としてすぐに調べてくれるのはすごくありがたい。


「あ、開いた」


 茜の呟きに三人が一斉にパソコンの前に集合する。

 ホーム画面が開くと同時にインターネットやワープロソフトなどのアイコンが次々に表示されていく。

 茜はすぐさまインターネットのアイコンをクリックする。


「えっと、少年院にについて……だっけ?」


 茜は独りごちりながら慣れた手つきでキーボードを叩く。


「すごいね、茜ちゃん」


 あまりの速さに早絵が感心した。


「そう? 普通だよ」


 茜の返答は至ってクールだった。

 悠希は手早くパソコンを操作していく茜を見ながらふと思った。


(こいつ、こんなクールキャラだったか?)


 春はずっと寝ていてまるでナマケモノみたいだった茜が今はこうしてキビキビと動いている。

 茜の成長になぜか悠希まで嬉しくなる。

 この数ヶ月間、大雅がやってきて早絵が刺されて茜が一晩監禁されて……。

 色々と壁はあったが、その度にそれを乗り越えてきたからこその成長だと悠希は実感した。


「あ、あったよ」


 茜がそう言って悠希たちの方にパソコンの画面を見せてくれた。

 そこには少年院の建物の画像が添付されていて小さく敷き詰められた文章がちまちまと並んでいた。

 その記事によると、少年院と言ってもさまざまな種類のものがあり、それぞれ身体の状況や年齢によって入る少年院が違うという。

 また、犯罪を犯しても必ずしも少年院に入院するわけでもないそうだ。

 少年裁判が行われ、その結果によって少年院に入院となるか、保護観察という形になるか、いずれかになるようだ。


「何か難しすぎて全然頭に入ってこねぇ」


 龍斗が眉を潜めながら言った。


「私も」


 龍斗に賛同したのは茜だ。


(さすがお前らだな)


 悠希はそう思いながら画面の記事に目を通した。

 そこには少年院での暮らしもわかりやすくまとめられていた。

 いわば拘置所と同じような暮らしだという。


「なるほどな」


 悠希は記事を読み終わってそう呟いた。

 そもそもの間違いとして、悠希たちは未成年が犯罪を犯した場合に必ず少年院に入るものだと思っていた。

 だが実際そうとも限らないようだ。

 いくつかの種類に分かれた少年院に該当する人がそこに入所する形になるらしい。


「すごい……。色々載ってたね。なんでもっと早く調べなかったんだろ」


 早絵が後悔を口にすると茜が労った。


「仕方ないと思うよ。あの時は陰陽寺を止めさせるので精一杯だったし」


「そう、なのかな」


「社会復帰も目指せるみたいだし、裁判でもそのうち色々決まってくるはずだ。今はそれを待つしかないんじゃないか?」


 悠希が早絵にそう声をかけた。


「うん」


 早絵はまだ不安そうだったが小さくうなずいて少しだけ笑顔を見せた。


「あ、もう12時過ぎてるぞ」


 龍斗の声に悠希が時計を見ると、針が12時15分を指していた。


「うわ、もうこんな時間か。とりあえず今日はうちに泊まっていけ」


「え? いいの?」


 早絵が驚いて尋ねた。


「当たり前だろ。こんな真夜中にわざわざ外に放り出さないよ」


 悠希がすかさず突っ込むと、その脇をすーっと茜が通って行った。


「じゃ、お風呂借りるね〜」


「う、うん。一人だけマイペースだな」


「あ、茜ちゃん。待って、私も行く」


 早絵が慌てて茜の後を追いかける。


「あ、お前ら! 着替えはいいのか?」


 龍斗が尋ねると、茜が振り向いて言った。


「ちょっと汚いけど我慢する。一晩だけだし」


「そ、そうだね。私もいいよ」


 早絵も少し嫌がりながらだがそう言って部屋を出て行った。


(お前ら仮にも女子だろ……)


 もっと女子としての男子に対する気遣いは無いのかと、悠希は内心呆れていた。

 だが、急に不安が悠希の胸を埋めつくしてくる。


「本当に、良かったんだよな」


 悠希と龍斗の二人だけになった部屋で悠希はポツリと呟いた。


「へ?」


 龍斗が聞き返す。


「どうした? 急に」


「いや……別に大したことでもないんだけどさ。あれで良かったのかなって思って」


「陰陽寺のことか?」


「うん」


「そうだなぁ」


 龍斗は考え込むように俯いたが、すぐに顔を上げて明るく言った。


「良かったんじゃねぇの?」


「そうか?」


「うん。だってさ、あいつが犯罪者だってのに変わりはないし。悠希と早絵が止めてくれたから学校も全部焼けずに済んだんだ」


 それから目線を悠希の方に移した。


「だからあいつには申し訳ないけど、俺たちのしたことは間違ってねぇと思うぞ」


 龍斗は白い歯を見せていたずらっ子っぽく笑った。


「……なら、いいか」


 龍斗の笑顔を見て悠希は安心した。

 不安だったのは、当初の目的から外れた結果になってしまったからだ。

 大雅がいくつもの学校を爆発させてきた破壊者だと知った時、ただ純粋に大雅を止めることだけを考えていた。

 だが、正直なところ止め切れたわけではない。

 早絵が刺されて茜が監禁されて、挙げ句の果てに学校も一部崩壊した。

 何度も何度も苦しい思いをしてきたが、それは大雅も同じだった。

 あの日体育館で聞いた大雅の本音。

 過去の話には嘘も含まれていたが、『爆破するのを止めたい』という気持ちは本心だった。

 同時に爆破ばかりする自分に嫌気がさして、大雅は生きることまでも止めようとしていた。

 結局爆弾を落として自殺を図ったが、それは未遂に終わって悠希も早絵も大雅も一命を取り留めた。

 そして警察が動き、大雅を連行した。

 お風呂に入りながら、パジャマを着ながら、歯を磨きながら。

 悠希は今までのことを思い出していた。

 そしてリビングのドアをゆっくりと開ける。

 既に電気は消えていて、所狭しと並べられた布団の上で龍斗、早絵、茜が眠っていた。

 三人を起こさないように、悠希はそっと足を出して自分の布団の位置に移動する。


(あいつ、今頃は……)


 不意に大雅のことが思い浮かんだ。

 勿論こんな状況にしたのは悠希たちだが、どうしても心配の気持ちが出てくる。

 でも悪くないことだと悠希は思った。

 友達を心配するのは人間として何ら不思議ではない感情だからだ。

 明日も学校があり、新しい1日が始まる。

 大雅はいないが、また頑張るしかない。

 そしてまたいつか必ず会いに行きたい。

 そう思いながら悠希は静かに目を閉じた。

【このはか劇場】


龍斗「ふぃ〜。何か頭パンパンだぜ〜」


茜「色々難しいの読んだもんね、しかも夜に」


龍斗「仕方ねぇだろ。陰陽寺を少年院に放り込んどいて、その俺達が少年院? 何それおいしいの? 状態だったらマズすぎるんだからよ」


茜「さすがに少年院をおいしいの? とは言わないでしょ」


龍斗「あ、そっか」


茜「もうさっさと寝るよ。私眠いんだから」


龍斗「お前が眠いのはいつものことだろ」


茜「は? 何? 殺すよ」


龍斗「だから『殺す』発言はヤベぇって!真面目に脅迫レベルだぞ!? しかも夜に止めろ!」


茜「zzZ」


龍斗「おいこらぁー!」

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