さらば破壊者
「すみません。お邪魔してしまって」
相変わらずのヘナヘナな笑顔を浮かべながら頭を掻き、丸山がぺこりと会釈をする。
細川は真剣な顔つきで大雅の方をじっと見つめると、足を進め、ベッドの真正面に立った。
「陰陽寺大雅くん」
「はい」
大雅が短く返事をする。
もう覚悟は出来ているかのように大雅はまっすぐ細川を見つめていた。
「署までご同行願いますか」
細川がもう一度言う。
「わかりました」
その直後、先程新しい点滴を持ってくると言った看護師が戻ってきた。
「早乙女さん、古橋さ……」
そして警察がいるのを見て驚いたようにその場に停止する。
「えええええ!? わ、私何か悪いことしましたかぁ!? い、いやいやいや、悪いこと……といえば、お昼休みの休憩時間にスマホゲームをやったくらいなんですけれども……」
看護師は一人で騒ぎ回っている。
そんな看護師に丸山も細川も、もちろん悠希たちも呆れるしかなかった。
(ていうか、休憩時間にゲームっていいのか、ここの病院)
悠希は密かに疑問を抱いた。
勿論勤務中であれば禁止事項であるはずだが。
おそらく、誰かに見つかればものすごく怒られるだろう。
「あ、あの」
「は、はいぃ!?」
おそるおそる口を開いた丸山に、明らかにビビった様子でその看護師は返事をする。
おまけに徐々に後ずさっているため、あからさまにビビっているとわかる。
「あ、すみません。そんなに驚かないでください」
丸山が看護師を優しくなだめる。
「え、で、でも……」
地味に涙目になっている看護師は何だか物語の弱気なヒロインのようだ。
「僕らはあなたを逮捕しに来たわけじゃないんです。なので、大丈夫ですよ」
「え!?」
丸山の言葉に看護師が驚いて思わず叫んだ。
「「「「「「え?」」」」」
そこにいた看護師以外の全員の声が重なる。
(逆に何で自分だって思ったんだ、この人)
悠希は呆れた。
もちろん悠希だけではなく、全員の声が重なった時点でみんな呆れているのは確かだろうけれど。
どうやらこの看護師は勝手に自分が逮捕されると思い込み、焦って何とか警察から逃げるための言い訳をしていたようだ。
でも警察が捕まえに来た相手が自分ではないとわかり、勘違いしていたことに驚いたのだ。
警察が捕まえに来たのが自分じゃないとわかった途端、看護師の目がキラキラと輝いた。
(え?)
悠希は何か嫌な予感がするのを感じる。
「よかったぁ。私じゃなかったんですね! すみませ〜ん、何か勝手に勘違いしちゃって〜。やだ私ったらもう! 先に言ってくださいよ〜」
まるで彼氏に甘えたい放題の彼女のような口ぶりだ。
「「「「「だって聞かれなかったし」」」」」
またもそこにいた全員の声が重なった。
「え……」
看護師は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら一言呟き、オホンと咳払いをして悠希と早絵の方に笑顔を見せた。
「ま、まぁ、とりあえず早乙女さんと古橋さんは点滴付け替えましょう」
冷や汗をかきながら点滴をかざす看護師に悠希も早絵も呆れ笑いを隠せなかった。
「落ち着いて。痛くないからね」
二人に点滴を付け替える時に、決まって言っているこのセリフが今回も看護師の口から出た。
だが悠希たちからしてみれば、看護師の方に落ち着いてもらいたい。
(あんたが落ち着いた方がいいぞ)
悠希は心の中で看護師に告げた。
月影先生も同様に看護師に呆れていて心の中で同じ成人女性として恥ずかしい、とぼやいていた。
何はともあれ、悠希たちは看護師に新しい点滴を付けてもらった。
正直もう点滴なんていらないくらい二人とも回復しているが、担当医から念のためという指示だったらしい。
「お、おっと、こうしちゃいられん。丸山」
事の成り行きを呆然と見守るしかなかった細川が、腕時計を見て焦り丸山に伝える。
「そ、そうだな」
丸山も頷いて再び大雅の方に目を向けた。
「一緒に、行こうか」
丸山の言葉に大雅はコクリと頷いてベッドから降りた。
「もう大丈夫なんですよね」
恥ずかしさで顔が真っ赤になって吹き出た変な汗をハンカチで拭っている看護師に、細川が尋ねた。
「担当医の方からOKは出てます」
看護師は頷いて大雅の点滴を取り外した。
細川と丸山は看護師の言葉を聞いて頷き合い、病室の出口へと向かった。
大雅もおとなしくその後に従う。
病室を出てすぐのところで丸山と細川は軽く会釈をしたが、大雅は何も言わず振り返らないまま悠希たちの前から消えた。
こうして三人は病室を後にした。
「あ、じゃあ、私もこれで……」
何とも決まり悪そうに照れ笑いをしながら看護師も出て行った。
病室には悠希、龍斗、茜、早絵、そして月影先生が残った。
※※※※※※※※※※
「陰陽寺くん、どうなるんですか?」
五人で病院から帰る道を歩いていると不意に早絵が先生に尋ねた。
悠希たち三人も月影先生の方を見る。
罪を償ってほしいという思いは変わっていないが、いざ大雅が警察に連行されると何だか物寂しい感じがするのだ。
「どうなるんだろう。私もあまりそういう犯罪とかに詳しいわけじゃないからまだよくわからないわ」
ごめんね、と先生は両手を合わせる。
先生も不安そうだった。
「いえいえ、少し気になっただけなので大丈夫です!」
早絵は慌てて首を振る。
「私もよ。もう少しちゃんと調べておくべきだったわね……」
先生の言葉に悠希も龍斗も茜も早絵も目を伏せる。
大雅が警察に捕まることは予測できていたし、そのために今まで準備をしてきたわけだが、実際大雅が連れて行かれた後になって少し後悔の念が胸に湧き上がる。
大雅の場合、幼い頃から積み重ねてきた罪が問われるのは確定だ。だがまだ未成年であるため、警察署ではなく少年院に送られるはずだ。
少年院では罪を犯した未成年の子供たちが暮らしていてそこで今まで死刑が執り行われたなど聞いたことがない。
だから大雅の命が奪われる可能性は少ないが、そうなると大雅に罪の意識がないまま釈放の時を迎えてしまうのではないかという不安があった。
少年院のことや罪を犯した未成年犯罪者についてもう少し詳しく下調べをしてから大雅への逮捕の準備をするべきだった、と誰もが後悔していた。
五人の気分と裏腹に、眩しいほど明るい夕陽が照らす道を悠希たちは歩いて行った。
大雅がこれからどうなるのかという不安を抱えたまま______。
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今の時点では次回で最終回にしようと思っています。
最後までお楽しみに!




