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大雅の笑み

 突如転校生として早乙女悠希たちの前に姿を現した謎多き高校生・陰陽寺(おんみょうじ)大雅(たいが)

 ついに彼の計画の一部が始まろうとしていた____。


 ※※※※※※※※※※※※※※※


 校内にチャイムの音が鳴り響く。教室から一斉に生徒たちが出て行き、仲の良い友達とガヤガヤ騒ぎながらHR教室へと戻っていく。


 悠希(ゆうき)龍斗りゅうとあかね早絵さえも同様だった。


「なぁ、悠希」


 めんどくさそうに、龍斗が悠希を呼んだ。


「何だよ」


 悠希は、今にも床に落ちそうになっていた教科書やノートを抱え直しながら応える。


「さっきの授業、マジ意味わかんなかったんだけど」


「寝てたからじゃん」


 龍斗の言葉に、茜がすかさずツッコミを入れる。


「いや、茜もだけどな」


(お前ら同類なんだから他人のことにどうこう言えないだろ)


 悠希は半ば呆れながら心の中で茜にツッコミを入れると、頭を抱えている龍斗に言った。


「仕方ねぇな。昼休みに俺がみっちり教えてやるよ」


「おおー! マジで!? サンキュー!」


 龍斗の死んだような青白い顔に赤みが戻り、一気に輝く。龍斗はやっぱり持つべきものは友達だな、などと言いながら喜んでいる。


「でも確かに、高校生になってから授業のスピード速くなったよね。私も板書が精一杯」


 早絵も必死に板書を写したのだろう。右腕を痛そうに振りながら言った。


「え!? 早絵も? やったー! 一緒だ! 実はね、私もそう思ってたんだ〜。良かった、私だけじゃなくて。学年トップの早絵が言うんだから間違いないよ〜」


 茜もご機嫌な様子で、早絵とハイタッチをしている。


「でも早絵はちゃんと板書も写して、家で復習してるんだぞ。茜みたいに、ミミズみたいな字で写して終わりじゃないんだからな」


 悠希は茜に釘を刺した。確かに早絵と茜は同じように、授業のスピードについていくのがやっとだ。

 だが、大きな違いはといえば、授業を復習しているか否かだった。


 早絵は帰宅後、自分のノートを見直して再度授業の復習をし、授業内容の理解に努めている。


 一方、茜は授業中うとうとしながら先生に起こされ、その反動で板書を写している。当然、ノートの字もミミズが這ったような汚さで、何が書かれてあるのか解読しなければいけない状態だ。おまけに茜は家に帰っても復習などせず、とにかくひたすら寝ている。


「でも私も毎日絶対復習するわけじゃないよ。自分の苦手な所テストの直前まで放っておいたら不安だから、早めに片付けておくだけだし、そんなに茜ちゃんのこと責めないであげて、悠希くん」


 早絵が、悠希に釘を刺されて不機嫌になってしまった茜をなだめつつ悠希に頼んだ。


「そうだぞ! 茜のこと悪く言ったら俺が許さねぇからな!」


「何で龍斗まで茜のこと庇うんだよ。俺一人だけ悪いみたいじゃないか」


「おう、悠希が悪いんだぞ?」


「何だよもう……」


「まぁまぁ二人とも落ち着いて。それより次の時間も移動教室だから急ごう」


 早絵が二人を制した。


 その言葉に言い合いは止めつつも、悠希と龍斗は互いに納得がいっていないようだ。


 すると、その横を大雅が静かに通り過ぎた。


 茜が腕時計で時間を確かめると、もう授業開始まであと五分足らずだった。


「みんな急いで! もう五分もないよ!」


「うわっ! やっべ!」


 悠希たちは急いで次の授業の準備を始めた。


 すると不意に、早絵が何かを思い出したように荷物を持ったまま教室を出て行った。


「え、あ、おい! 早絵!」


 悠希が叫んだ時にはもう遅く、廊下に早絵の姿はなかった。


「とりあえず俺たちも早く行くぞ!」


 悠希たちも急いで早絵の後を追う。


 その頃早絵は、大雅を追いかけていた。


「陰陽寺くん!」


 名前を呼ばれたことに気づき、大雅は立ち止まる。だが振り返らない。


 早絵は膝に手をついて息を整えながら大雅に聞いた。


「陰陽寺……くん、はぁ、はぁ、移動教室の場所、わかる?」


 早絵の言葉に大雅はピクンと反応する。ゆっくりと振り返り早絵を見て口を開こうとしたその時。向こうから悠希たちが走ってくるのが見えた。


(こいつ以外の人間と話すのはごめんだ)


 そう思った大雅は、返事もそこそこに走って廊下の角を曲がり、早絵の前から姿を消してしまった。


「早絵! もう、勝手に行かないでよ」


 茜が早絵に文句を言った。


 早絵は大雅が消えた方を見ながらしばらく呆然としていたが、ハッと我に返ったように、


「……あ、ごめん。陰陽寺くん、次の移動教室の場所わかるかなって思って聞いてたの」


「で、知ってたのか?」


 悠希が聞くと、早絵は首を横に振った。


「答え聞く前に走っていっちゃって、結局聞けなかった」


「まぁ良いじゃねぇか。周りの奴らもいるし、そいつらについていくだろ」


 龍斗が早絵を励ますように早絵の肩をポンと叩く。


 その何気ない行動に、いつも荒っぽい龍斗がそんな男前なことをしたものだから、茜は一人で気味悪がっていた。


 すると、突然チャイムが鳴って四人は弾けるように飛び上がり、全速力で教室へと向かった。


「もう! 別に誰のせいでもねぇけど! 遅れたら欠課つくぞー!」


「ええー!? どうしよう、私欠課なんか嫌なんだけど!」


 悠希は叫ぶ龍斗と茜に言った。


「そんなことより! 今は一秒でも早く教室に着くのが先だろ!?」


 四人は教室までの道を競うように走って行ったのだった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


 放課後、夕日に照らされた教室に佇む人影があった。大雅だった。


 大雅は教室の後ろの方の掲示板に飾ってある寄せ書きを見ていた。転校初日にクラスメイトから貰ったものだ。その中には勿論悠希達の物もあった。


 だがそんなことには目もくれず、大雅はただひたすら早絵の寄せ書きカードを眺めていた。


『陰陽寺くん。初めまして。これから分からないことがあったらいつでも聞いてね! よろしくお願いします』


 早絵の寄せ書きカードにはそんなことが書かれていた。カードの右端には大雅をイメージしたのだろう、クールな男子の絵も描かれている。


 それを見つめ続ける大雅の口には今まで出したこともなかった不吉な笑みが浮かんでいた。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


 翌朝、朝礼を報せるチャイムが鳴り響き、月影先生が教室に入ってきた。


「みんな、おはよう」


「おはようございます!」


 先生の挨拶に生徒たちも元気よく返す。


 月影先生はクラス内を見回した後、連絡事項を伝え始めた。


「えー、今日は放課後に模試があります。筆記用具を忘れないように模試開始時間の10分前には着席しているようにしてください」


 そして空いている一番後ろの席を見て、


「あれ? 今日は陰陽寺休みなのね」


 と呟いて、出席簿に書き始めた。


「連絡ないんですか?」


 早絵が尋ねると、先生は頷いた。


「そうなの。今日は欠席連絡がなかったから、みんな来てるなって思ってたんだけど」


 先生は不思議そうに大雅の席を見つめたが、素早く皆の方に視線を戻した。


「今日は陰陽寺が休みみたいなので、席が前後の早乙女はプリントとかちゃんと欠席者ファイルに入れてあげてください」


「はい、分かりました」


 悠希が返事をすると、月影先生は微笑んで、


「じゃあ今日も一日頑張りましょう」


 授業の準備も忘れないでね、と付け足して教室を出て行った。


 生徒たちは先生が教室を出ると同時にお喋りを始めたが、早絵だけは大雅が休んでいることを密かに心配していた。


(放課後、ちゃんとプリントとか届けに行ってあげないと)


 そう考えて、早絵は授業の準備に取り掛かった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※


 場所は変わって職員室。月影先生が電話を片手にしているが何度も受話器を置き、また掛け直してはまたまた置く、ということを繰り返していた。


「おかしいな、風邪なら風邪で家にいるはずだから電話にも出てくれると思ったんだけど……」


「月影先生、授業間に合いませんよ」


「あ、はい!」


 他の教師の言葉でハッと気づき、月影先生は教科書やカゴを持って足早に職員室から出て行った。


 ※※※※※※※※※※※※※※


 その頃、大雅の家では大雅が電気もつけずに座り込んでいた。手元にはアルバムらしき分厚いファイルのようなものが置かれてある。今の高校に転校する前の学校のアルバムだった。


 急遽転校が決まったため量はさほど多くないが、ラッピングや可愛らしい飾り付けもしてある素晴らしいアルバムだった。


 大雅はペラペラとアルバムをめくっていく。最後のページには、黒焦げになり所々崩壊している校舎と焼け野原のような無残なグラウンドの写真が貼られてあった。


 そして同時に、大雅は机の引き出しから、クラスで撮った転校初日の写真を取り出す。その中の、悠希たちと並んでピースをしている早絵を見つめる大雅の口元には、あの不吉な笑みが浮かんでいた。


「こいつは使えそうだ……」


 暗くて不気味な部屋に大雅の声が響いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 破壊者という言葉の定義が色々と気になるところですが、何やら雲行きが怪しくなってきた感じですね。 創作活動、頑張ってください('ω')ノ
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