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この世で生きる破壊者たちよ  作者: 希乃
エピローグ
188/188

破壊者たちよ、これからも共に

ついに完結です!

 太陽が肌を焼くほどギラギラと輝いている。

 通学路にそびえた木々からは、その幹に止まった蝉がミンミンとけたたましく鳴いていた。

 これを聞いただけで、夏という季節を感じるものである。


「はぁぁ、やっぱり夏は暑いな……」


 通学路を歩きながら、早乙女(さおとめ)悠希(ゆうき)は片目を瞑り、天を仰いで額の汗を拭った。


 高校二年生としての新たな高校生活が始まって早三ヶ月。

 ついに暑さが襲う夏がやってきた。


「悠希~! お~っす!」


 ふと後ろから聞こえた声に悠希が振り向くと、声の主が悠希の肩を力強く叩いてきた。


「いでっ! ったく、何すんだよ、龍斗!」


 腹立たしさをあらわにしながら体勢を整える悠希の目に、朝日より眩しい笑顔が飛び込んでくる。

 ツンツンとはねた髪を持つ少年・西尾(にしお)龍斗(りゅうと)だった。

 悠希は『またか』と呆れながら嘆息した。

 と、視線を下げた悠希の目に()()()()が飛び込んできた。

 龍斗のベルトの表裏が逆になっていたのである。

 言ってあげた方がいいのは確かだが、このまま気付かずに一日を過ごすのも面白い。

 そう思って、悠希は何も言わないことにした。


「へっへーん、驚いたか!」


 そんな事とは知らずに、悠希の反応がよほど面白かったのか、龍斗は悪戯そうな笑顔を浮かべてにんまりとしている。


「驚いたも何も、急に肩叩かれたら痛いだろ」


 悠希は肩を擦りながら鬱陶しそうに言い放つ。

 しかし龍斗はそんな悠希を気にする様子も見せず、悠希の肩を組んでそのまま歩き出した。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


 そして学校に着いた悠希と龍斗は、階段を上って二階の教室に入った。

 ドアを開けた瞬間に、教室の中のエアコンによって冷やされた風が身体中に染み込んできた。

 その風に心地よさを覚えて、悠希はふぅと息を吐く。


「あ、悠希、龍斗。おはよう」


「おはよう、二人とも」


 そんな二人に気付いて、向かい合って話していた(きし)(あかね)古橋(ふるはし)早絵(さえ)が声をかけた。

 彼女達の制服も一年ぶりに夏服に変わっており、改めて目にすると新鮮である。


「ああ、おはよう」


「よ~っす!」


 悠希と龍斗も手を軽く上げてそれに応じる。


 悠希の席は去年と同じく茜の隣で、今年は龍斗と早絵の席も近かった。


 ひとまず悠希と龍斗は制カバンを机に置き、再び茜の席に集まった。


「そういや、先輩達、受験勉強大変みたいだな」


 龍斗が頭を掻きながら言った。


 彼の言う先輩____日向(ひゅうが)未央(みお)佐々木(ささき)(りん)は今年で高校三年生。

 おまけに今の時期は追い込みとも言われるそうで、特に成績があまり良くなかった凛は、寝る間も惜しんで受験勉強に勤しんでいるそうだ。


「先輩、メッセージで泣いてたよ」


 個別で凛と連絡を取り始めた茜が、そう言って苦笑した。

 何でも、茜がもう寝ようとした時にメッセージが届き、そこには『茜ちゃ~ん、辛いよ~(涙)』と書かれてあったそうなのだ。

 それに対し、茜は『大変ですけど頑張ってくださいね! 私はもう寝ます!』とはっきりとした宣言付きでメッセージを返したと言う。


「流石、寝ることとなると何よりも優先する茜だ」


 龍斗が言うと、茜は大きく目を見開いて抗議の声をあげた。


「何よ! 夜は寝ないとでしょ?」


「まぁ、そりゃそうだけどよ」


 それでも笑いを堪えている龍斗を睨みつけ、茜はフン! と顔を背けた。


 しかし、かく言う茜も成績が十分というわけではない。

 来年になれば泣きながら苦労すること間違いなしだろう。


「茜も来年はそうなりそうだな」


 にやつきながら悠希が軽口を叩くと、茜は不満げに頬を膨らませて、


「うるさいなぁ。私だってやる時はやるもん」


「その言葉も何回聞いたことか」


 両腕を上げて呆れ、悠希はため息をつく。

 その横から、


「そうだぞ! ちゃんとやれよ!」


 龍斗が囃し立てたので、悠希は通学路でのお返しも兼ねて龍斗の頭を小突いた。


「いっで!!」


 龍斗が目を瞑って頭を押さえる。


「何すんだよ、悠希!」


 怒りをぶつける龍斗を見て悠希は腕を組み、鋭い視線を向けてキッパリと言い放った。


「あのな、茜に偉そうに言えた口じゃないだろ? お前だってちゃんと勉強しないと、真面目に成績ヤバイぞ」


 悠希の言葉に、龍斗は呆気にとられた。

 まるで餌を待つ金魚のように口をパクパクさせてから、


「わ、分かってるって! ちゃんとや……に決まってんだろ……」


 『ちゃんとやる』という言葉が途中から消えていったことは少し引っかかるが、ともあれ二人に言っている悠希も頑張らなくてはいけない。

 悠希がそう思っていると、何かを思い出したように唐突に早絵が声をあげた。


「あ!」


「どうしたの? 早絵」


 今まで不機嫌そうだった茜が、早絵の声に不思議そうな表情をする。


「今日、()()()から一年だよね!」


 顔を輝かせながら人差し指を立てる早絵。


「「「あの日?」」」


 三人の声が重なる。

 悠希も龍斗も茜も、『あの日』と言われただけでは何のことか分からなかった。


「もう、皆忘れちゃったの? 今日は……」


 早絵が今日について説明しようとしたところで、


「はい、じゃあ席に座って~」


 月影(つきかげ)先生がドアを開けて教室に入ってきた。

 先生の顔も昨日までとは少し違った。

 何かに興奮しているような、喜びを抑えきれないような表情で、頬が紅潮していた。


「じゃあね」


 早絵も意味ありげに微笑み、片目を瞑って自分の席に戻っていった。

 龍斗も自分の席に戻り、悠希も茜のすぐ横の席に腰をかける。


 先生は教卓に両手をついて皆を見回すと、嬉しそうに口を開いた。


「今日は、皆さんに紹介したい人がいます」


 その声に、クラスの面々がざわめき始める。

 月影先生は生徒達の反応を見て満足げに悪戯っぽく口角を上げると、教室の出入り口に向かって声を張った。


「じゃあ入ってー」


 先生の声が響くと共に、教室のドアが開かれる。

 そして入ってきた人物に、教室内がもっとざわつき始めた。


「改めて、よろしくお願いします」


 そう言ってペコリと会釈したのは、陰陽寺(おんみょうじ)大雅(たいが)だった。


 少年院の入院期間を終えて、再び学校に戻ってきたのだ。

 後で聞いた話によれば、母校を地下組織から守り抜いた功績が評価されたことにより、少年院に入院してからちょうど一年で学校への復帰が許されたのだそうだ。


(陰陽寺……)


 悠希は終業式直前以降久しぶりに見た大雅の姿に、思わず顔をほころばせた。


「陰陽寺も、今日からまた皆と同じクラスで勉強することになりました。また改めて仲良くしてくださいね」


 月影先生がそう言うと、


「はーい」


 意外にも、新クラスの面々は素直に大雅を受け入れる返事をした。


「じゃあ、席はあそこね」


 月影先生が、悠希の方を指差して大雅に伝える。

 悠希は肩をピクッとさせたが、先生は正確には悠希____の後ろの席を差していたのだ。

 大雅は無言で頷いて、指定された席に向かってツカツカと歩いてくる。

 通りすがる際、悠希は大雅を見上げて笑みを浮かべた。


「よろしく、改めて」


 大雅は悠希の言葉を受けて、彼に視線を向けた。

 しかしその視線は、約一年前に転校してきた時のものとは違っていた。

 視線こそ少しキツイものの、その口角は上がっていた。

 そしてもう一つ、違うことがあった。


「……よろしく」


 大雅が挨拶を返したのである。


 悠希は大雅が挨拶を返したことに驚いて目を見張ったが、すぐに目を細めて頷いた。


 そして大雅は悠希の後ろの席に着いた。


 月影先生はそれを見届けると、再び教室全体に視線を移した。


「えぇー、ということなので、これからさらに心機一転、皆で頑張っていきましょう」


 先生の言葉に、悠希は力強く顎を引いた。


 まだ日差しは強く、これから夏も厳しくなるに違いない。


 しかし悠希にはこれからの学校生活がより楽しいものになる気がしてならなかった。

 何せ、かつて世間から『破壊者』と称された戦友と一緒なのだから。


 朝礼の終了を報せるチャイムが校内に鳴り響く。


 新たに始まる学校生活に胸を踊らせながら、悠希は一人小さく微笑んだのだった。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!

どうだったかお聞きしたいので、あなたの感想(ご意見)をよろしくお願いします!

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