表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世で生きる破壊者たちよ  作者: 希乃
エピローグ
187/188

思い出の春

 桜が咲き誇る中、高校二年生となった早乙女(さおとめ)悠希(ゆうき)はいつものように通学路を歩いていた。

 制服や制靴など身なりに目立った変化はないが、それでも悠希の心は雲一つない空のように晴れやかだった。


 今朝、千里(ちさと)の口から蓮美(はすみ)鏡花(きょうか)神楽(かぐら)夏姫(なつき)の釈放が告げられた。

 二人は一度家に戻った後に、通常通りに学校に登校できると言う。


 そして麗華(れいか)からは、遂に高校一年生となった記念に新しい制服に身を包んだ写真が送られてきた。

 どうも後から判明したことだったが、麗華と咲夜(さくや)の中学は同じで、高校もエスカレーター式だった。

 咲夜はまだ少年院に入院期間中なので一緒に登校できないが、せっかく友達になったことであるし入院期間が終わって釈放されたら一緒に登校すると約束したのだ、と電話で嬉しそうに話していた。

 そして父・和泉(いずみ)との同居も内定していると言う。

 和泉が釈放されたら一緒に住むため、今は二人暮らし用の賃貸住宅を借りてそこに住んでいる。

 太っ腹だと驚いていた悠希だが、麗華は和泉と一緒に暮らすため貰ったお小遣いは使わずに何年も貯めていたようだ。


 花奈かなは咲夜が戻ってくるまで、春からパートタイムの時間を増やして働き始めた母親と一緒に過ごすらしい。

 そしてこれも後に判明したことだが、花奈と未央(みお)(りん)の高校も同じだったようで、春から改めて一緒に登校することにしたと言う。


 正直信じられない偶然に、悠希は思わず腹を抱えて笑ってしまったものだ。



 悠希が学校に着いて、下駄箱に貼ってあった紙を見て二回の教室に入ると、


「おっ! 悠希! おっす!」


「おはよ、悠希」


「悠希くん、おはよう」


 悠希に気付いた龍斗(りゅうと)(あかね)早絵(さえ)がそれぞれ声をかけてきた。


「あ、あぁ、おはよう」


 悠希は皆が同じクラスだったことに驚きながらも、それ以上に大きな喜びを感じていた。

 また昼休みに集まってお弁当を食べたり、休み時間に集まって他愛ない世間話をすることが出来るからだ。


「そう言えば龍斗、今日は早かったんだな。おかげで俺の背中が助かったけど」


 龍斗にはいつも背中をビンタされるように強く叩かれるため、悠希は内心ビクビクしながら登校していたのだ。

 しかしその張本人は今日は早く来ていたため、背中を痛めずに済んだというわけである。


「いやぁー、今日はクラス替えが気になってたからな」


 龍斗はそう言って、ご機嫌な様子で歯を見せた。

 どうやら、皆が同じクラスで喜んでいたのは悠希だけではなかったようだ。

 その事を嬉しく思いながらも、


「もう高二なんだから、式の途中で寝たりするなよ」


 悠希は念のために龍斗に忠告しておく。


「わ、分かってるっつーの!」


 龍斗は少し頬を赤らめながら言ったが、自信がないのかスッと悠希から目を逸らした。


「おい、目を剃らすな」


 悠希が低い声で言ってやると、その志を受け継いだ早絵が親指を立てて、


「安心して、悠希くん。私がちゃんと見張っとくから」


 そう言って片目を瞑ってみせた。

 悠希も同じように片目を瞑って、


「頼んだよ、早絵」


「ふわぁぁあふ」


 その前で、茜が人目をはばかることなく欠伸をしたので、


「茜もだぞ!」


 茜を指差して、悠希は釘を刺しておいた。


「はいはーい」


 欠伸をしたせいで目尻にうっすらと涙を浮かべた茜は、ピラピラと手を振って適当に流した。


 そして朝礼の始まりを告げるチャイムが鳴り響き、長い黒髪をたなびかせた月影(つきかげ)先生が教室に入ってきた。


「えーっと、今年も皆の担任を受け持つことになりました。月影です。よろしくね」


 何と、悠希達の高二の担任は、昨年と変わらず月影先生だったのだ。

 それにクラスも四割ほどが昨年のクラスのメンバーだった。

 朝から色々な偶然が起こることに、ここまでともなると若干引いてしまう悠希。

 それでも悠希にとっては全て嬉しいことであった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


 入学式と始業式が終わった放課後のこと。

 悠希、龍斗、茜、早絵の四人は、職員室に戻ろうとしていた月影先生を引き止めていた。


「先生! 大丈夫だったんですか?」


「え?」


 悠希が尋ねると、振り返って不思議そうな表情をする月影先生。


「あ、あの、処分のこと……」


 悠希は言いづらいと思いながらも、警察から下されたはずの彼女の処分について尋ねた。

 月影先生は悠希が何を尋ねたかったのかが分かると、納得したように口を開いた。


「ああ、そのこと? 勿論大丈夫よ。早乙女のお母様がね、厳重注意だけにしてくれたの。私が学校を守ったっていうことを考慮してくれたみたい」


「そうなんですね。良かったです」


 悠希は処分の結果を聞いて、ホッと胸をなでおろした。

 ここ最近、月影先生の処分について千里に尋ねても、『先生に直接聞いたら良いじゃない』などと言われてはぐらかされてきたので、処分の結果が気になって仕方なかったのである。


 『ただ』と月影先生は前置きをして、哀しそうに目を伏せた。


「頑張ってくれたのはあなた達であって、私は特に何もしてないから申し訳なかったけど」


「そんなことないですよ。先生があの場に居てくださらなかったら、俺も龍斗も怪我したままでしたし」


 悠希が言うと、龍斗も賛同するように何度も頷いた。


「そうっすよ、先生。あの時はありがとうございました」


 深々と頭を下げて、先生にお礼を言う龍斗。

 悠希も倣って頭を下げた。

 月影先生は困ったように両手を振って、


「い、良いのよ。そんな、私にはそれくらいしか出来なかったし。でも、そんなことでお礼を言ってくれるなんて嬉しいわ。ありがとね」


 そう言って笑顔を見せた。


 悠希達が彼女の内通の件を打ち明けるよりも前に、先生が森に脅されて仕方なく、悠希達の作戦をこっそり森に教えていたことを千里に話していたことは悠希も知っていたが、その後の処分については全く知らなかったのだ。

 だからこうして二年も月影先生に担任を持ってもらうことになって、悠希も龍斗も茜も早絵も本当に嬉しかった。



 帰り道。

 まだ外は昼間のように明るかったが、時間は十七時を周っていた。

 悠希達はいつものように並んで帰っていた。


「そういや、今日で陰陽寺(おんみょうじ)と出会って一年だな」


 考え深いような声音で龍斗が言う。

 だが、茜と早絵は首を傾げて眉を寄せ、


「陰陽寺が来たのってもうちょっと後じゃない?」

大雅(たいが)くんが来たのってもうちょっと後じゃない?」


 二人同時に龍斗に向かって尋ねた。


「えっ!? そうだったか?」


 驚き、『あれぇー? おかしいな』などと呟きながら記憶を遡る龍斗。

 そんな彼を見ながら、茜や早絵だけではなく悠希も呆れ果てていた。


「あ! そっか! そうだ! 何でこいつこんな中途半端な時期に転校してきたんだって思ってたぜ!」


 龍斗は暫く考えた後にポンと手を打った。


「なのに今の今まで忘れてたのかよ……」


 腕を組んで呆れる悠希に、龍斗は頭を掻きながら笑って言う。


「だはは、そうだよな」


「……にしても、本当にあれから一年くらい経つんだな」


 悠希はまだ青い空を見上げて、そう呟いた。

 初めて大雅と会った時に感じた彼の冷たい視線や人を見下す傲慢な態度には、いくら先生に面倒を見てやってほしいと頼まれても無理だと思っていた。 

 その矢先に早絵が刺されて緊急入院し、そんな早絵の仇を打とうとした茜もまた一晩監禁された。

 大雅が『破壊者』であると判明したのは、それから少し経った時だった。

 彼が企てている校舎の爆破計画にも気付いて、悠希は必死にそれを阻止しようとしたが、結局は大雅の口車に乗せられてしまい、早絵とともにあやうく命を落としかけるところだった。

 それでも最終的には大雅の罪を償わせるべく、警察に連絡を取って少年院に入院させることが出来た。

 暫く大雅とは会えなかったが、久しぶりの再会で大雅は以前爆破しようとしていた高校を今度は命を懸けて守り抜いてくれた。

 大雅にも反省の心が芽生えたのだなと嬉しくなったものだ。


 あと三ヶ月で、大雅がまた学校に戻ってくる。

 そう思うだけで悠希の胸は高鳴っていた。



次回(第188話)でついに完結します!

最後までお付き合いよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ