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拍手喝采

 日向(ひゅうが)未央(みお)達が戦闘を開始してからおよそ一時間が経過していた。

 しかし、未だにグラウンドでの戦いは終わっていない。

 広いグラウンドでの戦いは大きく二手に分かれていた。

 校舎側で戦っているのが日向未央&佐々木(ささき)(りん)VS森の二対一である。

 そしてその反対側____裏門側で戦っているのが(きし)(あかね)古橋(ふるはし)早絵(さえ)和泉(いずみ)麗華(れいか)VS蓮美(はすみ)鏡花(きょうか)神楽(かぐら)夏姫(なつき)の三対二である。

 どちらも高校を襲撃者達から守っている側の方が人数的には勝っている。

 しかし両者は互角の戦闘ぶりを見せていた。

 片方が先手を取ればもう片方がそれをカバーして押し返す。

 つまり、森率いる地下組織がいかに反撃に優れているかということだった。

 それがひしひしと伝わってくる戦闘。

 おかげで今になっても一向に勝負の行方は分からないままだった。


 少女達は息も絶え絶えで、体力は既に限界を超えていた。

 しかし彼女達が倒れてしまえば、校舎を守る人間がいなくなってしまう。

 そのことは彼女達自身にも分かっていた。

 だからこそ、ここで倒れるわけにはいかないのだった。


 当初、彼女達は一刻も早く森達を学校の外に出して、高校が襲われる危険を打破することを目的としていた。

 しかし彼女達の勢いに負けず劣らずで、また森達の反撃力も彼女達の予想を遥かに超えていた。

 そのため、一時間が経過した今も、森達三人を学校の外に出すという目的は達成出来ていなかった。

 彼女達に焦りが出始める。


「な、なかなか倒れてくれない……!」


 顎まで垂れてきた汗を拭い、茜がふと不満を漏らす。


「そうだね……結構っ、強いっ!」


 早絵もホウキを手に向かい、そして押し戻されながらも、蓮美の強さをしっかりと理解していた。


「ふん、当然でしょう。代表が率いる組織のメンバーは多種多様。色んな人がいるのですからっ!」


 蓮美は鼻で笑って嘲りながら、麗華を強く蹴り飛ばした。


「わぁあっ!」


「麗華ちゃん!」


 痛みに声をあげて吹っ飛ばされる麗華を、茜と早絵が二人がかりで受け止める。


「戦闘が得意な女子高校生がいても、何ら不思議はありませんよ」


 見下すように三人を冷たい目で見て、蓮美は言った。


「麗華ちゃん、大丈夫?」


「ありがとうございます……! お二人とも。助かりました」


 麗華は片目を瞑って痛みに耐えながら、二人に礼を言った。


「よっし! ぐらちゃんも復活だぞ~!」


 麗華が発射した痺れ粉付きのBB弾の効果がようやく切れ、神楽は腕をクルクルと回して意気込んだ。


「なっ……!」


 まさかのタイミングで思いもよらぬ神楽の復活に、麗華は目を見張った。


「やっとですか、ぐらちゃん。待ちくたびれて負けちゃいそうでしたよ」


 麗華とは裏腹に、蓮美はため息にも似た息をついて口角を上げた。

 今まで彼女は一人で三人の相手をしていたのだ。

 疲労困憊どころか疲れきって、今にも膝から崩れ落ちてしまいそうなくらいだった。


「粉の効果が切れてしまいましたか……! 何とか持ちこたえられると思ってたのに……!」


 すっかり元気一杯の神楽を見て、麗華が悔しげに唇を噛んだ。

 予想以上に対決は難航しており、麗華の思惑通りに事は進まなかった。


「大丈夫だよ、麗華ちゃん」


 そんな麗華に、前線で蓮美と戦っていた茜が麗華の所まで下がり、励ましの言葉を投げかける。


「今まで一人押さえててくれたんだもん。十分助かってたよ」


 親指を立てて二カッと笑う茜。


「茜さん……」


「そうだよ、麗華ちゃん。ありがとう」


 早絵も麗華と茜の場所まで一旦下がってきて、麗華の頭をよしよしと撫でた。


「早絵さん……」


 不意打ちに少し目を瞑った麗華を見て、早絵がふんわりと笑う。


「ありがとうございます、二人とも」


 麗華は早絵に頭を撫でられて、地面を見つめたまま顔をほころばせた。

 そんな麗華を見て、茜も早絵も満足げに微笑み合った。


 一方、その先では丁度良いタイミングで復活してくれた神楽を見て、蓮美はフラフラと神楽の方に倒れる真似をしていた。


「あわっ!? 負けちゃ駄目! ぐらちゃんも一緒なんだから頑張って!」


 自分の方に倒れてきた蓮美を慌てて受け止め、神楽はエールを送った。

 蓮美は神楽をちらりと見やって、


「……わかりました。頑張りますよ、仕方ない」


 やる気無さげに立ち上がった。

 そんな蓮美に、神楽は両拳を突き上げて抗議の声をあげる。


「ちょっと! すみちゃん! 仕方ないってどういうことよ!」


 クリクリの目をつり上げて本気で怒っている神楽を見て、蓮美は今度こそしっかりとため息をついた。


「冗談に決まってるじゃないですか。何を本気にしてるんですか、ぐらちゃんは」


「プー!」


 馬鹿にされたような気持ちになった神楽は、蓮美に向かって頬を膨らませて唇を尖らせた。


「二人で遊んでる暇はありません。さっさと倒しますよ」


 そんな神楽を半ばスルーしつつ、蓮美は茜達に向き直る。


 そして再び戦闘の火蓋が切って落とされようとしていた時だった。


「ねぇ! すみちゃん! あれ!」


 校舎側を指差して、不意に神楽が声をあげた。


「何ですか、ぐらちゃん。今から対決再開なんですよ」


 そんな神楽を鬱陶しそうにしながら、蓮美は呆れた。

 だが神楽の指差す先を見て、そんな蓮美の表情にも動揺の色が走る。


「だ、代表……!」


 森の側近である二人が目を見開いて見ているもの。


 それは、ようやく高校に辿り着くことが出来た千里(ちさと)が、グラウンドに座り込んだ森の手首に手錠をはめている姿だった。


「良かったわ、間に合って」


 森の手首に手錠をはめ終えた千里は、腰に手をやって吐息した。


「さて、と」


 千里は大人しく地面に尻をつけている森から視線を外して顔を上げ、驚いた表情のまま立ち尽くしている蓮美と神楽を見つめた。

 そして彼女達の元に足を運ぶ。


「あなた達も事情聴取のために署までご同行願おうかしら。蓮美鏡花さんに、神楽夏姫さん」


 蓮美、そして神楽を見下ろして、千里は言った。

 警察に逆らっても罪が重くなるだけ。

 そう思った蓮美は大人しく従うことにした。


「わ、分かりました……」


 蓮美は拳を握った両腕を、千里に向かって突き出した。

 その手首に、千里が手錠をはめる。


「すみちゃん!?」


 千里を睨み付けて反抗的な態度を露わにしていた神楽が、蓮美の言葉に驚いて彼女の方を向いた。


「もう潮時ですよ、ぐらちゃん。今までは代表の力があったから大きな顔が出来ていただけ。今の私達はただの女子高校生です」


「すみちゃん……」


 瞳を揺らしながら蓮美を見つめていた神楽は、やがて悔しげに歯を噛み締めた。


「わ、分かりましたよ」


 神楽も負けを悟ったのだろう、半ば投げやりのように腕を突き出した。

 その手首に、千里が手錠をはめる。


「じゃ、森二三男(ふみお)、蓮美鏡花、神楽夏姫。あなた達を住居不法侵入及び暴行襲撃の容疑で現行犯逮捕します」


 高らかに千里は宣言し、『ついてきて』と三人に言ってから、近くにいた茜達と少し遠くの未央達に声をかけた。


「頑張ってくれてありがとう。到着が遅れてごめんなさい」


「いえ。来てくださってありがとうございました」


 凛と共に駆け寄り、未央が深々と頭を下げる。

 千里は未央に向かって微笑むと、三人をパトカーに連れていった。

 そして校門を出ようとした時。


「母さん!」


 声がして千里が振り向くと、月影(つきかげ)先生に支えられたままの悠希(ゆうき)、そして意識を取り戻した龍斗(りゅうと)が立っていた。


 悠希は母____千里に微笑みかけて、


「ありがとう!」


 と、お礼を言った。


 千里は目を細めてコクリと頷き、森達をパトカーに乗せて運転席に乗り込み、パトカーのエンジンを蒸かして走り去っていった。


「悠希! 龍斗!」


 茜達が悠希達の元に走り寄ってくる。

 皆傷だらけの痛そうな姿だったが、悠希に向ける笑顔はそういった疲れが一切感じられないほど輝いていた。


「皆、頑張って最後まで戦ってくれてありがとう」


 悠希は五人の少女達に向かって頭を下げた。


「そうだよ。悠希が途中で脱落しなきゃ、もっと早くに済んだかもしれないのにー」


 ベーッと桃色の舌を突き出して、茜が笑った。


「私の方こそ最後まで駄々こねちゃってごめんね、悠希くん」


 申し訳なさそうに、早絵が両手を合わせてペコリと頭を下げる。


「何とか持ちこたえられたってとこかしら?」


 腰に両手をやって、未央は満足げだ。


「いぇーい! やったね! 悠希くん!」


 凛が眩しいほどの満面の笑みを浮かべながら、悠希にピースサインを送る。


「お疲れ様でした」


 麗華も軽くお辞儀をして、柔らかく微笑んだ。


 十人十色の反応だったが、皆疲れているにも関わらず、笑顔で応えてくれた。

 それが悠希にとっては物凄く有り難かった。


「じゃあ、校長に襲撃者は警察に逮捕してもらったって伝えてくるわね」


 悠希を早絵に、龍斗を少し嫌がりながらの茜に託して、月影先生は体育館に向かっていった。


 その直後、不意に送られてくる一つの拍手。

 それは校門の近くにいた全員には少し遠くから聞こえたため、全員がグラウンドに目を向ける。


 そして、その場にいた全員が信じられないと目を疑った。


 そこには____。




「いやぁー、感動だねー。青春だねー」


 手を叩きながら首を振り、考え深く何度も頷く男の姿があった。


「森……!?」


 悠希が厳しい視線を送りながら、彼の名を呼ぶ。

 全員からの敵意に満ちた厳しい視線を受けてもなお、男____森二三男は、でっぷりと太ったお腹を揺らし、清清しいまでの笑顔を浮かべて、決死の戦いが行われたグラウンドに立っていた。

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