爆破された場所
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その後も、悠希、龍斗、茜、早絵が通う高校を守るための戦いは続いていた。
グラウンドの中央では、一人の男と二人の少女が互いに拳を交えていた。
「はぁっ!!」
未央が森のみぞおちに拳を叩き込む。
その反動で、彼女の長い黒髪がふわりと風に揺らめく。
「やっ!!」
そして続けざまに、凛が森の肩辺りに鋭い蹴りを入れた。
同時に攻撃を受けた森は、よろめくように後ろに後ずさり、悔しげに唸った。
「うぐ……くそっ!」
「えっへん! どうだ!」
森の肩を蹴り上げた足を地面に付けると同時に、凛が明るめの茶髪をかき上げて威張る。
隣に立つ未央も誇らしげに胸を張っていた。
ふと、未央の方を見た凛は、彼女の胸が大きい事に改めて気づき、彼女が胸を張ると余計に大きく見えることに嫉妬。
貧乳である自分も何とか大きく見せようと、必死に胸を張った。
「何やってんの?」
仰け反りを繰り返していた凛の行動を不思議に思い、未央がキョトンとして小声で尋ねた。
「な、何でもないよ……?」
この変な行動を未央に気付かれてしまい、凛は恥ずかしさから顔を赤くしながらも、何とかして誤魔化そうと試みる。
しかし、その誤魔化し方も下手くそであるため、未央はますます眉を寄せた。
「半人前のクソガキが……この俺を倒すだと?」
さらに凛に問いかけようと口を開いた未央だったが、森の呟きが聞こえたために、慌てて彼の方を振り向いた。
凛も胸のことを気にしながらも、森の方を小睨みする。
「調子に乗んじゃねぇぞ!!」
叫びと共に、森はお返しとばかりに凛を容赦なく蹴り飛ばした。
不意討ちに遭った凛は、思わず声をあげて吹き飛ばされる。
「うわぁっ!!」
「凛!」
地面に背中がつくすんでのところで未央が凛を受け止めた。
そのため、凛の体はグラウンドに転がることはなかった。
「ありがと、未央」
安心したように凛は未央を見上げてお礼を言った。
未央も頬を緩めて応え、
「その反動で……行くよ!」
「りょーかい!」
凛は未央が何をしようとしているかを瞬時に察し、それに備える。
「凛、ジャンプ!」
未央の掛け声を合図に、凛は未央が空へ上げてくれるのをバネにして空高く跳んだ。
「同じ手は食らうか!」
森はジャンプした凛を睨み付けて身構える。
またさっきのように蹴りを入れてくると思ったのだ。
「こっちよ!」
ところが先に声がしたのは上からではなかった。
地面に足をつけたまま正面に居る未央が口を開いた____と思いきや、
「ぐはぁっ!?」
お腹に鋭い衝撃を食らって、森は思わず唾を吐く。
見ると、自分のお腹に未央の靴が当たっていた。
「こ、このやろ……」
「____嘘!」
未央が青ざめた表情で森を見つめる。
森は何とか蹴られた痛みを堪えて、未央の足首を掴んでいたのだ。
森にとって、未央が見せた隙は絶好のチャンスである。
先程の仕返しをしようと、森が拳を握って振りかぶろうとした時だった。
「もう一個おまけに!」
今度は空から声がしたかと思えば、直後に背中を襲う激痛。
「おぶっ!?」
森は背中を蹴られた反動で、未央の足首から手を離してしまった。
そして、スタっと軽快な靴音を立てて、さっきまで空中に居た凛がグラウンドに着地。
何とかお腹と背中の痛みを堪えながら、森はゆっくりと背後を振り返り、
「く、くそ……クソガキがぁぁ!!!!」
悔しさのあまり、森は沸々と沸き上がる怒りを空へとぶちまけた。
未央がわざと隙を見せて森を油断させ、今度は森の方に生まれた隙を凛が叩くという戦法だったのだ。
二人の作戦は見事成功。
「はぁ、はぁ……ど、どうだ! ……どう、ですか?」
森の背後で息を切らしながら、腰に手を当てて自慢げな凛。
と、思いきや、今度は上目遣いのように恐る恐る森の顔色を窺っていた。
「急に弱気になってんじゃないわよ」
森の背後に未央も回り込み、凛の肩を軽く叩く。
「だ、だって、睨まれるの怖いんだもん……!」
未央の方を向いた凛は、森への恐怖から涙を浮かべていて、唇はプルプルと震えていた。
未央はそんな凛の顔を見て吹き出しそうになるのを抑え、表情を引き締めた。
「はぁもう、森さんを早く学校から出さないといけないんだから、ちゃんとしてよね」
「わ、分かってるよ……」
涙を拭って鼻水を啜り、森に向き直る凛。
「ていうか私、おじさんに足首掴まれちゃったんだからね!」
突如大声で叫び出した未央。
凛が横を向くと、今度は未央が涙目になっていた。
「えっ? どうしたの!?」
未央が涙を浮かべるのは予想外だったため、凛は本気で困惑する。
未央はしゃくり泣きをしながら凛の方を向き、自分の足首を指差した。
「私、おじさんに足首掴まれたのよ! セクハラだわ……!」
「ああ!? セクハラって何だよ! 防御の一貫だろ!」
突然自分に降りかかってきた容疑に、森は目を見開いて叫んだ。
しかし負けじと未央も涙ながらに訴える。
「十分セクハラじゃないですか! 足首掴むなんて! 私がどれだけ悪寒を感じたかご存じですか!?」
「いや、知るかよ! ていうか、防御のための行動がセクハラって言われるなんざ納得いかねぇ……! 理不尽だろうが!」
「み、未央、落ち着いて……」
涙ながらに泣き叫び、手足をバタバタさせる未央を、凛は何とか抑えようとする。
勝手に性犯罪の容疑をかけてきたり、お腹と背中を同時にいたぶってきたりしたこの少女達を、歯を食いしばりながら睨み付けていた森は、悔しさを吐き出すように声を漏らした。
「い、良い気になるなよ……色々とぐちゃぐちゃ言いやがって。それにな、形勢逆転したからって所詮お前らはただのガキだ。ガキに負けっぱなしなほど、俺も哀れじゃないんでな」
森はズボンのポケットに手を突っ込み、
「かくなる上はこれを使うしかねぇな!!!!」
そして、ポケットの中から黒くて小さい箱のようなものを取り出した。
表面は黄色く塗られており、さらにその上には赤色の出っ張った丸い部分がある。
「な、何それ……!」
凛がそれを指差して目を見開いた。
森はフンと鼻を鳴らして、その黒い小箱を掲げてみせた。
「見たら分かんだろ。爆破装置だよ」
「「____!!!!」」
一瞬にして、未央と凛の顔が青ざめる。
「何でそんなもの……どこに仕掛けたんですか!?」
声を震わせながら尋ねる未央に、森はニヤリと笑みを浮かべた。
「ふん! 教えるか!」
「どうしよう、未央。この学校かな」
凛が青い顔で未央の細い腕を掴む。
「その可能性が高いわね……」
未央も顎に手を当てて思案する。
このタイミングで森が爆破装置の存在を未央達に明らかにしたということは、この高校のどこかに仕掛けた可能性が非常に高いと考えたのだ。
「残念だったな! お前らもろとも吹き飛べぇっ!!」
天高く爆破装置を掲げ、赤いボタンを押そうとする森。
凛は慌てて未央に言った。
「え!? 嘘!? 未央、探さなきゃ!」
「え、ええ!」
二人は後ろを向いて校舎の方へ走っていく。
しかし、背後で森は一言呟いた。
「ゲームオーバーだ」
「ま、待ってください森さん! 絶対駄目!」
凛は声が枯れるほど叫んで森の方へと手を伸ばす。
しかしその手は彼に届くはずもない。
森は赤いボタンを押して爆破装置を起動させた。
未央と凛はその場に立ち止まり、思わず目を瞑る。
胸が張り裂けるほどの緊迫とした沈黙が暫く続く。
一分、二分? どれくらいの時間が経っただろうか。
「な、何で……? 何も爆発しない……」
未央が恐る恐る目を開けて周囲を確認。
目を瞑っていた間にもどこかが爆破するような音は聞こえなかったし、建物の一部が崩壊した様子も見受けられない。
安全が確認されると、凛は森に向かって声をあげた。
「騙したんですね! 卑怯者!」
「さぁ~な」
しかし森は余裕な笑みを浮かべたまま。
その反応からして、爆破装置が完璧なる嘘だという可能性は極めて低い。
「じゃ、じゃあ一体どこで爆発したの!?」
未央は慌てて周囲を見回した。
しかしどこを見ても爆破したような形跡は見つからない。
そこで、凛がある提案を口にした。
「もしかしてあの爆発装置自体がハッタリだった、とか」
「そ、そうなのかしら」
顎に手を当ててその可能性を鑑みる未央。
しかしその可能性は当事者によって見事に否定されてしまった。
「んなわけねーだろ。必ずどこかが爆発してるぜ」
森がニヤリと歯を見せている。
「そ、そんな!」
凛が思わず自分の口を手で覆った。
「学校じゃないとしたら他はどこ……?」
未央は必死に他の場所を考える。
だが同時に、未だ生徒や教師が残っているこの高校が爆破されなかったことに少しだけ安堵していた。
「ねぇ、未央。あたし達の作戦が全部森さんにバレてるって、電話で茜ちゃん言ってたよね!?」
凛が電話での茜との会話を思い出して未央に確認を取る。
「え、ええ」
未央は思考を巡らせながらもそれを肯定。
茜からの電話があった時、未央と凛はスピーカー機能をONにして二人で聞いていたのだ。
そのため、未央も茜の言葉を聞いていた。
未央の肯定を受けて、凛は確実な事実を口にした。
「ってことは、あたし達が次にやろうとしてたことも森さんは分かってるんだよ!」
凛の言葉に、未央は『自分達が次にやろうとしていたこと』を思い出す。
「次にやろうとしてたこと、って言ったら二人を少年院から出すことよね」
凛は頷き、そして未央を見て大きく目を見開いた。
「じゃあ、まさか、爆発した場所って……」
未央も自身の憶測を口にする。
「「少年院!?!?」」
二人の声が重なった。




