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駆けつけたヒーロー(仮)

「ぐわぁっ!?」


龍斗(りゅうと)!」


西尾にしお!」


 グラウンドに投げ飛ばされる、あちこち傷だらけの龍斗。

 今まで龍斗が持っていたバットは森の手にある。

 戦っている途中で森が奪ったのだ。

 森に殴られた龍斗が地面を転がって小さな土埃をあげる。

 それを見て、悠希(ゆうき)月影(つきかげ)先生が声をあげた。

 森は地面に倒れ込む龍斗を見て、口を大きく開けて笑った。


「ガッハッハッハッハッハ!! おいおい、さっきのやる気はどこ行ったんだ? あ?」


 バットの先で龍斗の背中を小突く森。

 小突かれた龍斗は悔しがりながらも呻くことしか出来ない。

 今まで特に汚れることのなかった制服もすっかり土まみれであり、何とも情けない状態だ。


「うぐっ……くっそ……」


「さぁ~て、約束通り、お前の頭かち割ってやろうかね~」


 バットを宙でクルクルと振り回し、森は薄く笑った。


「龍斗! 逃げろ!」


 悠希は左腕を押さえながら龍斗に向かって叫ぶ。


(くそ……まだ傷が傷んであいつの所に走っていける力がない……)


 立ち上がって龍斗の元に駆け付けることが出来ないのも、悠希が森の銃撃から月影先生を守ろうとしたのが原因だ。

 銃撃を悠希の左腕がかすめて掠り傷を負ってしまったのである。

 月影先生の命を助けることができたという面では、悠希の行動は非常に大きな意味を成した。

 しかし、後々を考えると高い壁のごとく立ちふさがってくるのだ。

 たかが掠り傷と思われるかもしれないが、悠希にとっては動けないほどの酷い怪我なのである。

 立ち上がるにも走るにも、怪我をした左腕が必ず空気に触れるため、風を受ける度に傷に痛みが走るのだ。

 その痛みは相当なものである。


(悠希の馬鹿野郎……こんな状況で逃げれるわけねぇだろ……こっちは体の節々が痛くて動けねぇんだよ……)


 悠希の叫び声を耳にして、龍斗は情けなく笑った。

 こんな状況でも最善の策を講じる悠希らしさがあると言えばそうなのだが、現実的に考えると森の打撃を避けるのは不可能だ。

 何故なら、龍斗は既にバットで体のあちこちを殴られた身。

 ジンジンと痛む体にムチを打ったとしても、動くことなど出来はしない。

 龍斗はそれぐらいにボコボコにされていたのだ。


「じゃあな~クソガキよぉ!!!!」


 地面でうつ伏せになって倒れる龍斗に、森はバットを振り上げる。

 龍斗も森からの攻撃が体に蓄積されたため、痛みがなかなか治まらず、その場から動くことが出来ずにいた。

 目を瞑って森が振り上げるバットを受けるしかない。


 と、その時であった。


「ちょっと待ったぁ!!!!」


「あん?」


 突然響いた高い叫び声に、森が思わず後ろを振り返る。

 そこに居たのは未央(みお)(りん)麗華(れいか)であった。

 凛が大声を出して叫んだために、顔を真っ赤にして息を切らしている。

 悠希は三人の姿を見て安心したように顔を輝かせた。


「凛先輩! 未央先輩に……麗華ちゃんも!」


「悠希くん、お待たせっ! このあたしが来たからにはもう大丈夫だよ!」


 校舎寄りのグラウンドの上で座り込んでいる悠希に向けて、凛がドンと胸を叩いた。

 そんな凛に未央は彼女をジト目で見ながらツッコミを入れる。


「どのあたしよ……と、とりあえず、森さん、龍斗くんから離れてください」


 だが、今は悠長にボケツッコミをしている場合ではない。

 未央はすぐに表情を引き締めて、森に言った。


「はぁ!? 無理に決まってんだろ。今からこいつの頭をかち割るとこなんだよ」


 しかし森は訝しげに眉を寄せてそれを拒否。

 そしてバットで龍斗の頭を小突く。


「うえっ……かち割るって……気持ち悪っ……おえっ」


 森の発言を聞いた凛が、顔を歪めて口に手を当てる。

 そんな凛に向かって、未央は再度ツッコミを入れる。

 しかし今回はツッコミと言うより叱責と言った方が近いかもしれない。


「こら、凛! 正義のヒーローみたいに登場しておいて二回も吐かないの! こっちが恥ずかしいじゃない」


「そうですよ、凛さん。もっと高校生らしく振る舞ってください」


 あろうことか、麗華からも睨み付けられて、凛はシュンと肩をすくめた。


「は、はい、すいません」


「何やってんだお前ら。おい、蓮美(はすみ)! 神楽(かぐら)! 相手してやれ!」


 そんな三人の意味不明なやり取りに、森は吐息して側近の蓮美(はすみ)神楽(かぐら)に命令する。


「承知致しました、代表」


「合点承知の助ぇ~、代表ぉ~」


 おへその辺りで手を組んで蓮美はお辞儀し、神楽はあざとく敬礼した。

 その様子を見て、麗華が銃にBB弾を籠める。

 蓮美と神楽も麗華の元に歩み寄っていく。


「私が二人を引き付けます。先輩方は龍斗さんをお願いします」


「分かったわ」


「了解!」


 そう言いつつ、未央と凛は森の元へ。


「あんたなんか、ちょっと怖いけど、全然怖くないんだからね!」


 腰に手を当てて胸を張る凛。

 そんな彼女に未央に代わって今度は森がツッコミを入れる。


「いや、どっちだよ」


「今だけは大いに森さんに同意するわ」


 腕を組んで頷く未央。

 しかし本音ではこんな男に同意したくないと思っているが。

 凛を小睨みする未央に、凛は言った。


「ちょっと未央! くっちゃべってないで、早く龍斗くんを!」


「え? 二人で一緒にやるんじゃないの?」


 想定外のことに驚く未央。

 凛は誇らしげに自身を指差して、


「あたしが引き付け役だよ!」


「そんなの聞いてないんだけど……まぁ、良いわよ!」


 そう言いつつ、未央は森へと走っていく。

 そして____、


「うごっ!?」


 お腹を押さえて呻く森。

 彼のみぞおちには未央の拳が入れ込まれていた。

 体を丸めた森は、悔しげに顔を歪めながら未央を睨み付ける。


「せいやー!」


「グハッ!!」


 しかし間髪を入れずに飛んでくる未央の鮮やかな蹴り。

 大空に届くほど足を上げて、未央は森の背中にかかとで蹴りを入れた。

 唾を吐いて目を見開く森。

 森の注意が未央に向けられたところで、グラウンドに倒れた龍斗を凛が素早く抱え込む。


「龍斗くん頂き~!」


 悠希達の元へと走っていく凛に、未央は怒鳴った。


「こら! 物扱いしないの!」


「えへ~ごめんちゃい☆」


 あざとく片目を瞑って舌をちろりと出し、凛は反省の色無しに謝罪の言葉を述べる。

 そんな凛に、森に向かってあざとい敬礼をしていた少女、神楽を重ねながらため息をつく未央。


(歳下と同レベルにしか思えないわ……恥ずかしくないのかしら)


 ひとまずそんなことは置いておいて、未央は小走りに悠希の元へ向かった。


「未央先輩! 凛先輩!」


 自身の元にやって来た未央と凛に、悠希が声をあげた。

 未央は両手を合わせて申し訳なさそうに謝罪する。


「ごめんね、来るのが遅れちゃって。茜ちゃんから連絡もらって急いで来たの」


「茜が……ありがとうございます」


 悠希と龍斗が森達と戦う前は、不満そうに中庭に立ち尽くしていた茜。

 当然、悠希のことも嫌いになってしまったかと内心怖かったのだ。

 だが、悠希達を心配して未央達に連絡をしてくれた彼女の優しさを思うと、素直に嬉しかった。


「いえいえ~。とりあえず龍斗くんお願いできる? ここはあたしと未央と麗華ちゃんで食い止めるから」


 そして凛は顎に人差し指をやって空を仰ぎ、


「確か、学校の敷地外に出せば良いんだよね?」


 念の為に確認を取ると、悠希はコクリと顎を引いた。


「はい、お願いします」


「まだ悠希くんも万全の体調じゃないだろうし、私達のことは気にしないで怪我の手当てしてもらって」


 月影先生に目配せし、未央は悠希に言った。

 未央の目配せに了解の合図を送るべく、月影先生は頷いた。

 悠希は申し訳なさそうに未央に向かって頭を下げてから、


「すみません、ありがとうございます」


「じゃあ行くわよ、早乙女(さおとめ)


 二人のやり取りを見届けてから、月影先生は悠希に言った。


「はい!」


 悠希は頷き、先生に支えられながらの龍斗と共に保健室へ向かった。

 三人を見送ってから、凛と未央は再び森に向き直る。


「よぉっし! じゃあ、あたし達も肩慣らしと行きますか!」


「そうね!」


 肩をクルクルと回す凛に、未央も拳を握りしめて応える。


「相手が変わっても結果は同じだ!」


 お腹を押さえて体を丸めたり、今度は蹴られた背中の方に痛みが走って仰け反ったり、色々と忙しい森。

 しかし、そんな時でも敵役らしい吐き捨て台詞は忘れない。

 そんな森に凛は宣戦布告をするかのように言った。


「どうでしょうね、森さん! あいにく、あたし達は森さんのおかげで体力には自信あるんですよ!」


「ふ、ふん! お前らに教えたことなんぞ、ほんのちょっとだ! そんなもんで勝てるわけねぇだろ!」


 森は負け惜しみのように鼻を鳴らして言った。


「ま、それは私達次第ってとこかしら」


「頑張っちゃうぞ~!」


 腰に手を当てる未央と、ガッツポーズを決める凛。

 役者が変わっての再戦闘になるかと思われた時。


「あ、あの!」


 不意に後ろから声がした。


「ん?」


 未央と凛が振り返り、凛が後ろに居た人物を見て驚きの声をあげた。


「茜ちゃんに早絵ちゃんじゃん!」


 そこに立っていたのは、茜と早絵だった。

 中庭から教室、教室からグラウンドを大移動してきたために、息が非常に荒い二人の手にはホウキが握られていた。


「……ホウキ?」


 二人が持っているものを見て、未央が不思議そうに首を傾げる。


「はい」


「私達も一緒に戦わせてください!」


 早絵が頷き、茜が未央と凛に頭を下げる。

 茜の様子を見て、自分も慌てて頭を下げる早絵。

 未央と凛はどうしたものかと顔を見合わせていたが、


「ま、良いんじゃない?」


「そうね。人が多いに越したことはないもの」


 満場一致で茜と早絵の加戦を承諾した。


「野球バット持ってきたかと思えば、今度はホウキかよ……」


 最早ため息しか出ない森。

 しかし、今まで様々な戦闘訓練を行ってきた森にとって、何人の子供を相手にしようが変わらない。

 そう断言出来るほどの絶対の自信があった。


「まぁ良い。何人でもかかって来やがれ!」


 グラウンドにこだまする森の雄叫び。


「茜ちゃん、訓練で言ったこと、覚えてる?」


 しかし、今まで訓練を積んできたのは森だけではない。

 未央と凛は地下組織に加入してすぐに森から、茜は悠希の作戦に協力しようと決めて未央から、早絵は今しがた茜から、戦闘の極意を教わり、期間は違えど訓練を行ってきたのだ。


「勿論、しっかり頭に入ってます」


 ホウキを構えながら答える茜に、未央は安心したような笑みを浮かべた。


「良かった」


「よっし、じゃあ、行くよ!」


 凛の掛け声で、四人は一斉に駆け出していった。

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