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逆・宣戦布告

 森が銃の引き金を引き、耳をつんざく程の銃音が広いグラウンドに響き渡る。

 その銃弾は、月影(つきかげ)先生に向かって放たれようとしていた。


「先生!」


 森が銃を先生に向けると同時に、悠希(ゆうき)が先生の方へと駆け寄る。


「お、おい! 悠希!」


 危ない____と言いかけた龍斗(りゅうと)の声も、必死の悠希には聞こえない。


「さ、早乙女!? 来ないで!!」


 月影先生は顔を青くして叫ぶが、悠希は無我夢中。

 先生に飛びつくようにして彼女の体を押しのけ、銃弾を避けようと横に転んだ。

 グラウンドの土に土煙を上げて転がった二人。


「____」


「チッ! 外したか……」


 龍斗は呆然と二人を見ていたが、森が歯を噛み締めて舌を鳴らした。

 放たれた銃弾は間一髪で先生を撃つことはなかったからだ。

 だが____。


「さ、早乙女!」


 月影先生が、自分に駆け寄ってくる悠希を見た時と同じ表情で、悠希の左腕を見た。


 悠希もつられるように自身の左腕を見下ろすと、銃弾をかすめた制服のブラウスが線状に破れており、その破れ目から赤い血が流れていた。

 その怪我を目に入れた瞬間に、今まで経験したこともないような鋭い痛みが走ってきた。


「うっ!」


 思わず左腕を押さえて呻く悠希。


「早乙女、何てことしたの! 無茶し過ぎよ!」


 月影先生は悠希の両肩を掴んで声をあげた。


「せ、先生が撃たれそうだったからっ……」


「だからって飛び込んでくる人が居る!? もっと自分の命を大事にしなさい!」


 先生に叱られて、悠希は下を向いてうなだれる。

 月影先生はそんな悠希の態度を見て一息吐き、


「でも、助けてくれてありがとう」


 安心したような笑みを浮かべた。


「____ですよ」


「え?」


 うなだれたままの悠希がポツリと呟き、聞き取れなかった先生が聞き返す。


「先生だってそうですよ」


 今度ははっきりと、悠希は言葉を発した。


「拳銃向けられてるのに避けようとしないなんて、先生の方が命大事にしてないじゃないですか」


「仕方ないでしょう? あんなもの向けられてビビる大人が居ますかって話よ」


 安心したようにほぉっと息をつき、腕を組む先生。

 悠希から視線を上げて目を瞑り、少し怒っているようだった。


「たとえそうでも、最低限の防御はしてください」


「わ、悪かったわね……」


 だが、悠希は容赦なく先生に言い放つ。

 正論を突きつけられた月影先生は、少し顔を赤らめて自分の過ちを認めたのだった。


「悠希! 先生! 大丈夫か!?」


 今までただ目の前の状況をボーッと立ち尽くして見ているだけだった龍斗が、ハッと我に返ったように眉を上げて二人に向かって駆け寄った。


「ちょっと西尾。先生には敬語使いなさい」


 先生は、龍斗の最後の言葉を聞き逃すことなく、龍斗を小睨みして注意する。

 そんな先生に、龍斗は冷や汗をかきながらツンツンと跳ねた茶髪を掻きむしり、


「あ、すんません。だって悠希と先生の両方に呼びかけようと思ったら、タメ口か敬語か迷っちまって。……悠希に敬語なんて吐き気しそうですし」


「聞こえてるぞ。お前な……くっ!」


「わ、悪ぃ、悪ぃ……」


 悠希も龍斗がポツリと呟いた言葉を聞き逃さなかった。

 だが、龍斗を指差そうと左腕を上げた瞬間に、銃弾をほのかに掠めた腕に痛みが走って、思わず顔を歪める。


 龍斗も、悠希に文句を言われた時は反省の色もなく後頭部に手をやって笑っていたが、悠希が痛みに顔を歪めた瞬間に、真剣な表情になる。


「こ、こら! 急に動かないで。とりあえず……これで良いかしら」


 そう言うと、月影先生は自分のポケットからハンカチを取り出して、悠希の傷口に巻いた。


「あ……ありがとうございます。すみません」


「良いのよ」


 悠希が有難いながらも謝罪すると、月影先生は穏やかに口角を上げた。


「おーい。茶番は終わったかー?」


 だが、そんな彼らを『茶番』と言い、森はグラウンドの土を爪先で蹴ってつまらさそうな様子を見せる。


「森……」


 そんな森の舐めた態度に、悠希が森を睨みつけるように表情を険しくする。


「何だよ。そんな怖い目で見られたら、おっさんチビっちまうじゃねぇか」


 森は二の腕をさすって恐怖に怯えた顔を決めこむが、その直後に薄く笑ってから、


「……なんてな。どうやらお前らは俺のことよく知ってるみてぇだな。未央(みお)くんと(りん)くんが何か余計なこと吹き込みやがったかぁ」


 森の言葉に、悠希は脳裏に黒髪を長く伸ばした少女と、明るめの茶髪を上の方でツインに結んだ少女を思い浮かべる。

 彼女達に森の恐ろしさを教えてもらったのは事実だが、森の言い方を聞いていると、二人を馬鹿にしているように聞こえて苛立ちを覚えてしまう。

 それからその苛立ちを何とか抑えつつ、森に尋ねた。


「何で学校を襲ったりしたんだ」


「お前らが何かうかがわしいこと考えてるってのは、とっくに耳に入ってんだよ。勿論、それを阻止するためだ」


 自身の耳をツンツンと指差し、森はニヤリと笑った。


「うかがわしいこと考えてんのはどっちだよ……」


 森の言葉に、龍斗がボソリと呟く。

 その呟きはしっかりと森の耳に届いていたようで、森は訝しげに眉を寄せた。


「はぁ?」


 しかし、龍斗もそんな態度で怖じけることなく、腰に手を当てる。


「あん時はよくも俺をボッコボコにしやがって。何もし返さねぇって思ったら大間違いだぞ」


「ああ、勿論分かってるぜ。てめぇみたいな野蛮な奴が見過ごすわけねぇもんな」


「俺をどうこう言うのはお前の自由だ。けどな、俺達の大事な学校を襲いやがったら____」


「大事だ? ふん! 笑わせんな!」


 龍斗の言葉を聞いて森は彼の言葉を途中で遮り、馬鹿にするように鼻で笑った。


「……タダじゃ済まねぇぞ、森」


 まるで森に宣戦布告をするように、龍斗は森を睨みつけた。


「へぇ、宣戦布告をした俺が、逆に宣戦布告されるってわけね。面白いじゃねぇか。受けて立ってやるよ」


 森は嬉しそうに歯を見せた。


「悠希、お前はとりあえず休んでろ。俺があいつを学校から遠ざける」


 龍斗は悠希と月影先生の前に立って、悠希に野球バットを渡した。


「いざとなったら投げてくれ」


「分かった。無茶はするなよ」


 悠希の言葉に、龍斗は笑って眉をつり上げて言った。


「約束は出来ねぇが、努力するぜ」


「肉弾戦ってわけか。良いぜ。かかってこいよ」


 拳を構えた龍斗を見て、森も拳を前に出した。


「行くぜ……」


 呟き、龍斗は森、蓮美(はすみ)神楽(かぐら)に向かって駆け出していった。

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