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襲撃

「ねぇ! どうして何も言わないの!? 森が襲いに来てるんだよ!? 何か……何か策とか無いの!? このままじゃ皆死んじゃうよ!」


 グラウンドから離れた所にある中庭に、(あかね)の叫びがこだまする。

 茜は短いツインテールを強く揺らして、自分よりも高い悠希(ゆうき)の肩を掴んでいた。


「それとも……考えてなかった……? 森が学校に来ること……」


 悠希を揺さぶる手を止めて、茜は絶望に満ちた瞳を見開く。


「ねぇ! ボーッとしてないで何か言ってよ!!」


「茜ちゃん、落ち着いて!」


 瞑った目に涙を浮かべながら声を荒げる茜を、早絵(さえ)がなだめる。

 だが、茜は首だけで早絵の方を振り返る。

 その気迫にまみれた鋭い瞳に、早絵はビクッと肩をすくめた。


「落ち着いてられる!? 早く何かしないと皆死んじゃうんだよ!? あのピストルで撃たれたらどうするの……?」


 悔しそうに唇を歪め、茜はポツリと呟く。


「あいつらなら躊躇なく打っ放すって分かってるじゃん……」


「それは、そうだけど、でも! 悠希くんだって全ての事態を予測できるわけじゃないよ。こうなっちゃったのだって予測してなかったよ。……そうでしょ? 悠希くん」


 早絵がまるでそうであってほしいと請うかのように悠希を見つめる。

 早絵の瞳も恐怖で揺らいでいた。

 悠希はそんな早絵を、そして傍に居る茜を見つめてからコクりと頷いた。


「勿論だ。せっかく計画してたのに、それが全部水の泡になった……!」


 悔しげに、悠希は唇を噛み締める。

 悠希の返答を聞いて、早絵が言った。


「ほら、悠希くんもこんなことになるなんて思いもしてなかったの。だから悠希くんを責めないで、茜ちゃん」


「別に悠希が悪いわけじゃねぇ。それに俺達がこのまま争ってたって何にもなんねぇぞ」


 早絵の斜め後ろに立つ龍斗(りゅうと)が腕を組んで他の三人を見回す。


「ああ。龍斗の言う通りだ。とりあえず作戦変更する。俺が森を学校から遠ざけるよ」


「俺も行く」


 龍斗が一歩前に進み出る。

 悠希は頷いて、作戦の続きを説明した。


「茜と早絵は皆に状況の説明を頼む。多分皆混乱してて何の事だかさっぱりだと思うんだ」


「分かった。気を付けてね、二人とも」


 早絵が両手を組んで言った。

 悠希と龍斗は中庭を出ようとした足を止めて振り返った。

 そして悠希は顎を引き、龍斗は親指を立てて二カッと笑ってみせた。

 茜はまだ俯いたままである。

 下ろした拳を握りしめて、ブルブルと震わせている。

 そんな茜を悠希は見つめてから、龍斗の方に向き直った。


「じゃあ行くか」


「おう! 基本は拳だが____」


 龍斗は拳同士を強く打ち付けてから、


「いざとなったらコイツの出番だぜ!」


 そう言って、背中にぶら下げた野球バッドを親指で差した。

 悠希は唇を引いて頷いた。


「茜」


 そして、もう一度茜と早絵の方を見て、茜に呼び掛けた。


「俺の作戦に賛成してくれて、ありがとな」


 それでも茜は顔を上げない。

 だが、実際は悠希の言葉を聞いて目を大きく見開いていたのだ。

 顔を上げていないので、先に居る悠希と龍斗には茜の表情の変化は分からない。

 勿論、茜より前に出ている早絵にも、だ。


「こっちのことは私達に任せて。ちゃんとやってのけるから」


 茜の変わらぬ態度を見て取って、早絵が慌てて言った。


「あ、ああ、頼む、早絵」


 早絵は悠希の言葉にコクりと頷いて、送りの言葉をかけた。


「行ってらっしゃい」


 早絵の言葉に龍斗が笑顔で応える。

 そして悠希と龍斗がグラウンドに向かおうと足を踏み出したその時。


「ど、どうして! 学校には手を出さないって、そう言ったでしょ!?」


 グラウンドから月影先生の叫び声が聞こえてきた。


「先生!?」


 悠希と龍斗は急いで走ってグラウンドに向かった。


 ※※※※※※※※※※


 他の教師達が生徒を体育館に避難させている中で、月影先生は一人グラウンドの地を踏んでいた。

 彼女が見つめるその先には、薄気味悪い笑みを浮かべた森と両脇に控える女子二人が居る。


「何だ? 先生、何かご不満でもおありですかな?」


「ふざけないで。学校には手を出さないって言ったのはあなたよ」


 煽るような森の口調にも負けずに、月影先生が反論する。


「それなのに、どうして襲撃したの!?」


 ※※※※※※※※※※※


「どういうことだよ、悠希。何で先生がアイツのこと知ってんだ?」


 グラウンドに着いた龍斗が、息を切らして肩を揺らしながら尋ねる。

 その視線は先に居る月影先生を捉えたままである。

 懸命に走った成果もあって、月影先生が投げかけた最後の疑問は、悠希と龍斗にも届いていた。

 悠希も視線を龍斗には向けずに正面を見たまま答えを口にした。


「それは、先生が……組織の内通者だったからだ」


「な、何!?」


 驚きのあまり、龍斗が目を見開いて悠希を見る。

 悠希は月影先生と森に向ける鋭い視線を止めることなく、森の両脇に控える二人を指差して、


「この前の昼休み、早絵に絡んできたあの二人がどうして教室を出たのか。最初は何も気にしてなかったんだ。でもこうやって森が攻撃を仕掛けてきて分かった。あいつらが森に俺達の作戦を伝えたんだ」


「で、でも、こっから基地までは結構あるぞ。今日はまだしも、あの時はあいつら、ちゃんと授業に間に合ってたじゃねぇか」


 龍斗は記憶を遡ってあの時を思い出す。

 あまり見たことのない二人が早絵に話しかけてきて、おまけに早絵が泣いたのを自分のせいにしてきたので、少し気を付けて様子を窺っていたのだ。

 龍斗の言う通り、悠希達の高校から森の地下組織の基地までは、結構の距離がある。

 ざっと計算しても徒歩で20分くらいかかる距離だ。


「それだよ」


「はっ?」


 悠希の短い一言に、龍斗が驚きを露わにする。


「あの二人が授業に間に合えた理由が、先生だ」


 龍斗は手を顎に当てて考え込んでいたが、何かを思い付いたかのようにハッと目を見開いた。


「そ、そうか! 先生が組織の内通者だったから、あいつらは先生に報告を頼んで、自分達は授業に間に合うようにしたってことか!」


「そういうことだ」


 悠希が龍斗に向かって頷いたその時。


「私が報告だけして、後は二人が放課後に詳細を報告するっていう流れだったでしょう?」


 先生が再び森に向かって口を開いた。

 悠希も龍斗も慌てて月影先生の方を見る。


「そうだな。だからちゃんと詳細は聞いたぞ?」


「その時に二人に頼んだんです。この作戦を話す代わりに学校には絶対に手を出さないように伝えてって。……ねぇ、あなた達、ちゃんと伝えてくれたわよね?」


 月影先生の質問には答えずに彼女を真っ直ぐ見つめる二人。


「ねぇ、伝えてくれたわよね? 蓮美(はすみ)神楽(かぐら)


 無言のままの二人に、月影先生はもう一度確認するように問いかける。


「はい。ちゃんとやりましたよ」

「やりましたよぉ」


 大人しい声と可愛らしい声が次いで投げかけられる。

 大人しい印象の大人しい声の持ち主が蓮美(はすみ)鏡花(きょうか)

 可愛らしい印象の可愛らしい声の持ち主が神楽(かぐら)夏姫(なつき)である。

 月影先生は二人の反応を確認してから森に向かって言った。


「ほら、二人だって言ってるじゃない。あなたも聞いたでしょ?」


「ああ。勿論聞いてるぜ」


 ニヤリと笑みを浮かべて、森が顎を引く。


「じゃあ、どうして____」


「学校に手出すなって言われたら余計に出したくなっちまうのが、俺のタチでな」


「そんなの卑怯よ!」


 先生が首を振って叫ぶ。

 裏切られた悲しみと怒りに満ちた表情で、森のにやけた表情を睨み付ける月影先生。

 森はそんな先生の態度に眉をつり上げて、


「へぇ。んな態度取って良いのかよ。先生さんよぉ。こっちにはコレがあんだよ」


 森はピストルをひらひらと振るが、月影先生は怯まずに片頬を上げた。


「そんなので脅しても無駄よ。私は騙されないから」


「脅し……ねぇ」


 森はニヤリとほくそ笑んでから、月影先生の方に銃口を向けた。


「誰も半端な気持ちで襲いに来てんじゃねぇんだよなぁ」


「先生!」


 悠希は叫び、月影先生の方に駆け寄った。

 森が意味もなく相手に銃口を向けるはずがないと分かっていたからだ。

 向ければ次の瞬間には銃弾が飛んでくる。

 森はそんな男だと、悠希の勘が告げていた。

 駆け寄る悠希に気付いて月影先生が目を見開く。

 森が引き金に手をかける。

 そして、銃弾が発射された____。

明日はもしかしたら更新できないかもしれません……申し訳ない……。

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