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母子の決断

160話目突入!

いつもありがとうございます!

 その日の夜。

 仕事から帰宅してくる千里(ちさと)に相談をするため、悠希(ゆうき)は礼儀正しくダイニングの椅子に座って待っていた。

 相談内容は勿論、今日病室で麗華(れいか)に提案されたことについてだ。

 いざとなると、母親相手でも緊張してしまい、悠希は意味もなく身なりを整えて息をついた。

 龍斗(りゅうと)を助けに森達の地下組織に乗り込みたいと言った時よりも緊張していた。

 あの時よりも必死さが増しているとかそういう問題ではなく、今回千里に頼もうとしている件は、もっともっと現実的な問題が絡んでいる厄介なものだからである。

 麗華から聞いた時は名案だと思った悠希だったが、時を置いて考えてみれば、やはり少し無理があるのではないかという疑問が胸の内から沸き上がってくる。

 少年院の収容期間は短くとも一年間。

 それまであと少しという時期ならまだしも、今は三月中旬。

 大雅(たいが)が少年院に入院したのは去年の夏であり、咲夜(さくや)に至っては去年の冬である。

 二人とも最低限の収容期間まで程遠い状態だ。

 いくら警察の権限を行使すると言っても、少年院側がすんなりと受け入れてくれるだろうか。

 そんな不安が悠希を襲っていた。


 その時、ガチャリとドアが開く音がした。


「ただいまー」


 疲労困憊と訴えてくるような千里の声が、玄関から聞こえてくる。


「お、お帰りー」


 そんな母親の容態を察しながらも、緊張のあまりダイニングに居座ったまま返答することしか出来ない悠希。

 それでも体を傾けて、玄関に通じるドアに向かって声を張り上げ、せめてもの償いとしてしっかりと返答をした。

 心臓の鼓動が心なしか速く感じる。

 胸を押さえて、悠希は深呼吸で心を落ち着かせようと試みた。


 やがて千里がリビングのドアを開けて入ってきた。


「はぁー疲れたー」


 疲れた表情の千里は鞄をソファーの上に置いて、グッと伸びをした。


「お疲れ。和泉(いずみ)はどうだったんだ?」


 悠希の問いに、千里は目を伏せた。

 和泉は、森の地下組織の副代表を務める男で麗華の実父である。

 麗華に暴行を加えて重傷を負わせた暴行罪に問われているため、主に千里とその部下の黒川が取り調べを行っている。

 だが、その取り調べは全く進まず難航している。


「全然口割らないわ。いい加減に全部白状してほしいんだけどね」


「しぶとい奴だな。麗華ちゃんはもうすぐ退院出来るって言うのに」


 千里はスーツのジャケットを脱いでブラウス姿になり、悠希が居るダイニングの方を振り返った。


「そうなの? 良かったじゃない」


 千里は疲れた顔を一変させ、表情を輝かせた。

 そしてまた嫌そうにため息をつき、ジャケットをハンガーにかける。


「だったら尚更早く和泉には白状してもらわないと。勿論麗華ちゃんをあんな男の所に返すわけにはいかないから、誰かに引き取ってもらうための手続きもしないといけないし」


 肩を回し、もう一度伸びをしてから、千里はダイニングの悠希の向かい側の席に座った。


「で? 何かあったの?」


 机に両腕を置き、千里は息子を見つめる。

 悠希は母に見つめられて、頬をポリポリと人差し指で掻きながら、


「い、いや……」


 と、言葉を濁した。


「何かあるからそうやってスタンバイしてるんでしょ?」


「わ、分かった?」


 恥ずかしそうに口角を上げて、悠希は千里をちらりと見やる。


「当たり前じゃない。子供の考えることなんてお見通しよ」


 千里は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「あ、あのさ……」


 自分から言う前に見抜かれてしまっていたのでは仕方がない。

 悠希は意を決して相談し始めた。


 ※※※※※※※※※※※※


「はぁ!?」


 数分後、早乙女家のダイニングには一つの叫び声が落とされていた。

 その声の主は、悠希の発言を聞いた千里である。


「あ、あんた……何言ってんの……?」


 千里は目を瞬かせて呆気に取られたように悠希を見ていた。


「だって……今回はあいつらの力が絶対必要なんだ」


「別に悠希に直接害を与えてきた訳じゃないんだから、そんなに森達にカッカしなくても良いじゃないの。何でそこまで森達と対決する事にこだわるの?」


 椅子の背にもたれて腕を組む千里。

 早絵(さえ)に言われた事と同じ事を言われて、悠希は悔しげに歯を食いしばる。

 確かに二人の言葉はもっともだが、それだけで済まされない気持ちが悠希の中にはあるのだ。


「あいつらは、龍斗(りゅうと)と母さんと黒川さんに酷いことをしたんだ。そのまま野放しにしたくない」


「それは分かるけど……皆、無事だったんだから良いじゃない。龍斗くんは怪我しちゃったけど」


 千里は、森から暴行を受けて傷だらけになって狭い部屋に閉じ込められていた龍斗の姿を脳裏に浮かべて、表情を曇らせる。


「でも……このまま放っておいたら、あいつら絶対反省しないと思うんだ」


 だからこそ、どうしても悠希自身の手で森達に制裁を下したい。

 悠希の胸にはその思いしか無かった。

 千里にはどうにか賛成してもらいたい。

 そうすれば、確実に良い方向に進んでいくはずなのだ。

 悠希はゴクリと唾を飲み込んで、千里をじっと見つめた。

 彼女が自分の計画に賛同してくれることを祈って。


 やがて、千里はゆっくりと口を開いた。


「分かったわ。どれだけ危険か分かった上で言ってるなら……母さんも全力で協力するわよ」


「本当か!? ありがとう! 母さん!」


 悠希は顔を輝かせて千里に礼を言い、千里はしょうがないと言った表情で微笑む。

 だが、その表情は同時にたくましくなった息子を喜んでいるようにも見える。

 これで悠希の作戦は初めて決行されることになるのだ。

 そしてここからが作戦の始まりである。

 悠希は千里に、作戦の詳細を話し始めた。

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