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本気の覚悟

 (あかね)の鋭い視線にたじろぎながらも、悠希(ゆうき)はせめてもの反応を返す。


「嘘ってどういうことだよ」


「とぼけないで」


 腰に手を当てて怒る茜に、悠希は許しを請うように手を上げた。


「待って、どういうことだよ。俺、別に嘘なんかついてないぞ?」


「急に何言ってんだ? 茜」


 悠希の隣で二人の様子を見ていた龍斗(りゅうと)は、茜を見下ろして疑問を投げかけた。

 そんな空気を読まない龍斗を、茜はキッと睨み付ける。

 茜に睨まれた龍斗は冷や汗をかきながら、


「うぐっ……!」


 と顔を歪ませる。


「あんたは黙っててくれる? 今悠希と話してんの!」


「は、はい、すいません」


 茜の剣幕に負けて、龍斗はすごすごと下がった。

 龍斗が口を挟むのを止めたところで、茜は改めて悠希に向き直る。


「で、何で嘘ついたの?」


 再度、茜は尋ねた。


「だ、だから、嘘なんかついてないって……」


「嘘つき」


 だが、茜はきっぱりと言い捨てる。

 ぷいっと横を向いた反動で、彼女の短いツインテールがふわりと揺れた。

 悠希を見上げ、茜は決定的な証拠を言い放つ。

 悠希が嘘をついているという証拠を。


「悠希、嘘つく時いつも鼻触るもん」


 茜の言葉に、今度こそ悠希は何も言い返せなかった。

 確かに茜の言う通りである。

 何故かは悠希自身にも分からないのだが、悠希は嘘をつく時にいつも鼻を触る癖があるのだ。

 それを見抜いている茜には、悠希の嘘がお見通しだったというわけだ。

 事実、悠希は陰陽寺(おんみょうじ)大雅(たいが)を止めようとした時も、つい鼻を触ってしまい茜に『嘘をついた』と見破られてしまったのだ。

 また同じ過ちを犯してしまった悠希に、茜はさらに追い打ちをかけるように、


「どうせ、私達には適当に言っておいて、自分で勝手に麗華(れいか)ちゃんの病院に行って銃の使い方教えてもらおうとか思ってたんでしょ」


 腕を組んで悠希を睨みつける茜。

 悠希は何も反抗出来なかった。

 全て茜の言う通りだからである。


「はぁ……。悪かった。全部茜の言う通りだ」


「えっ!? お前嘘ついてたのかよ!」


 自分の嘘を認めた悠希に、龍斗(りゅうと)が目を見開いて驚きの声をあげる。

 悠希はそんな龍斗をちらりと見やると、


「だってお前らまで巻き込みたくなかったし。俺が勝手に森達を倒してやりたいって思ってるだけだから、直接戦うのは俺だけで良いかなって」


「バカヤロー! んなわけねぇだろ!」


「いでっ!」


 突然食らった攻撃に、悠希は涙目になりながら頭を押さえた。

 龍斗が罵声と共に悠希の頭にババチョップをお見舞してきたのだ。

 痛みに震える悠希を尻目に、さりげなくガッツポーズを決める龍斗。


「龍斗お前覚えとけよ……!」


 悠希は怨念のこもった瞳で龍斗を睨みつけたのだった。


 ともあれ、今回は悠希が悪いのが一目瞭然である。

 このまま行けば、親しい友人達を騙してまで大の大人に決着を挑みに行っていたのだから。


「う、嘘ついて悪かった。本当は内緒で決着つけに行こうって思ってて……」


 ボソボソと悠希は本音をあっさりと口にした。

 嘘をついたことがバレてしまった以上、これ以上下手に何かを隠しても意味が無いと思ったからである。

 実際、茜の鋭い視線に負けて、全て吐き出さなければ帰れない罰ゲームが発動している状態でもあった。


「何でだよ。俺賛成しただろ? 俺の事ぶん殴って何日もあんな狭い所に閉じ込めやがった奴等だぞ!? 簡単に許せるわけねーだろ。俺だってあいつらに一泡吹かせてやりてーよ!」


 二の腕の筋肉を膨らませ、歯を見せる龍斗。


「で、でも龍斗も茜も戦闘経験とかないだろ?」


 悠希は何とかして自分以外の人間を危険な目に遭わせまいと必死だった。

 ここでバッサリ『戦闘経験無し』と言ってくれれば、『じゃあ間違いなく危ないから』と言って遠ざけることが出来る。

 内心でそう答えてくれることを期待しながら、悠希は二人の返答を息を呑んで待った。

 だが、茜から返ってきたのは、


「そう言う悠希はあるの?」


 まさかの質問返しだった。

 咄嗟に問われて、悠希は急いで考えを巡らせる。


「い、いや、あると言えばあるし無いと言えば無い……」


「何それ」


 頬を掻きながら曖昧に答える悠希に、茜は呆れ果ててため息をついた。

 悠希の戦闘経験があると言えば、春に大雅の爆弾計画を止めるために奮闘した程度である。

 それでも未経験の龍斗や茜に比べれば、一ミリくらいはマシと言えるはずだが。

 だが、龍斗も運動部で体力には自信がある。

 運動部はスタミナが命と言われているほど厳しい部活で、龍斗の場合は野球部。

 ゴリゴリの厳しい練習に日々耐えているため、スタミナだけではなく、運動神経や反射神経、足の速さにも特化しているに違いない。

 そして、茜はどこから繋がっているのやら分からない裏情報を友達かどうかも分からない相手からたくさん聞き出すほどの情報網の持ち主である。

 実際に、春の大雅との戦いでは茜の情報網が大雅を犯人だと断定する決め手にもなった。

 戦闘経験を条件から外せば、この二人も別の分野を駆使して戦える見込みはある。


「で、でも、本気で危ないんだぞ?」


 悠希の言葉にさも当然と頷く龍斗と茜。


「死ぬかもしれないんだぞ?」


 悠希の確認にも動じずに二人はもう一度頷く。


「ていうか、それ悠希もでしょ」


 茜に突っ込まれたため、悠希は無視して別の確認を急いだ。


「もう二度と家に帰れないかもしれな……」


「だからお前もだって言ってんだろ」


 最早キレ気味の龍斗。

 悠希は言葉を詰まらせた。

 龍斗と茜は本気で悠希と共に森達地下組織を潰そうと覚悟を決めている。

 生半可な気持ちなら返って危険だと思っていたが、この二人の覚悟はしっかり出来ているように見えた。


「……わ、分かった。じゃあ改めてよろしく」


 悠希はペコリと二人に会釈。

 龍斗と茜は『待ってました』とでも言わんばかりに、親指を立てた。

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