説得
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そして放課後がやってきた。
悠希は意を決して三人の元に向かった。
龍斗の席の近くで喋っていた茜と早絵が、悠希に気付いた。
「悠希、どうしたの?」
茜が尋ねると、悠希は顎を引いて、
「やっぱり俺、森達と戦う」
「は? 何言ってんだよ」
「ダメって言ったでしょ? ほら、悠希くんも一緒にどうするか考えるよ」
龍斗が眉をひそめ、早絵が悠希の腕をつかんで三人の元へ引き寄せる。
「いや、でもさ、麗華ちゃんに頼んじゃったし」
「麗華ちゃんに? なんて?」
頬杖をついて茜が尋ねる。
「……銃の、使い方教えてほしいって」
「はぁ!? あんた馬鹿じゃないの!?」
唇をすぼめて悠希がおそるおそる言うと、茜が半ばそれを遮るように声をあげた。
「だってそうでもしないと森達には勝てないだろ」
悠希が茜に反論すると、今度は早絵が問いかけた。
「勝つことばかりに気を取られ過ぎよ、悠希くん。あくまで組織を壊滅させることが目的なんでしょ?」
早絵の問いに、悠希は不満そうな表情のまま頷く。
「だったら別に勝たなくても良いじゃない。最終的には警察の方々に任せることになるんだし」
「そうだけどさ……」
言いながら、悠希は髪をくしゃくしゃとかきむしった。
早絵の説得を聞いても、悠希が不満そうなのに変わりはない。
「それに麗華ちゃんだってまだ中学生だよ? なのに銃の使い方教えてもらおうとするなんて」
まるで我が子を説教する母親のように、早絵は腕を組む。
確かに早絵の言い分はもっともである。
まだ中学生の少女相手に銃などという普通は使わない物騒な武器の使い方を請うなど言語道断だ。
「あれ? 日本って銃持ってて良かったんだっけ?」
「いや、駄目だと思うぞ?」
ふと茜が口にした疑問に、龍斗が曖昧な返答をする。
麗華が所持しているのはBB弾用の偽物の拳銃なのだが、ここにはそれを知る麗華本人は勿論のこと、未央と凛も居たいため、弁解の余地がない。
「で、でも麗華ちゃん、教えてくれるって言ってくれたし」
おそるおそる悠希は言う。
「それは悠希くんが年上だからだよ。年上に頼まれて断れなかったのよ、きっと」
早絵は人差し指を突き立てて、悠希の眼前に持ってくる。
それに悠希は『うっ』と呻きながらも、
「でも本当に嫌だったら『嫌だ』って言うと思うけどな。あの子、そういう性格っぽいし」
悠希の言う通り、麗華は納得できないことがあれば、たとえ表立って言葉には出さなくても何かしらの態度を示す。
それにもかかわらず、悠希の頼みを了承したのだから、麗華には悠希が怖くて断れなかったという事はないだろう。
「そういう問題じゃなくて!」
早絵が悠希の前にもっと顔を近付けて、声をあげる。
「そもそも、野蛮な人達のところに一人で飛び込んでいくこと自体駄目だからね!」
「それはずっと言ってるじゃないか。俺がやらないで誰がやるんだって」
悠希も負けじと反論する。
だが、
「警察」
迷うことなく早絵は即答。
悠希の前に突き立てていた人差し指を引っ込めて腕を組む。
「きっとお母さんにも反対されたんでしょ? 一人でなんて駄目だって」
早絵の言葉を聞いて、悠希は頭を掻きながら言った。
「いや、母さんにはまだ言ってないんだ……」
「えっ!? 言ってないの!?」
悠希の呟きをかき消すような大声で、茜は驚いて目を丸くした。
「う、うん」
茜の声に冷や汗をかいて頷く悠希。
悠希が母の千里に懇願したことと言えば、龍斗を森の組織から救い出すことだけ。
森の組織を潰すために、組織と直接対決することを考えていることはまだ千里には打ち明けていないのだ。
「早く言いなさいよ。組織を潰すのは警察に任せたら良いじゃん」
「さっきも言っただろ? 警察に太刀打ちできるような相手じゃないんだよ」
「それなら私達なんかもっと役に立たないけど?」
もっともな茜の意見に、悠希は『うぐっ』と言葉を詰まらせる。
実際、茜の言葉は正しくて、警察でも相手にならないような奴等なら、悠希達のような子供ではもっと相手にならない。
それは改めて明言する必要もないほど分かりきったことだった。
(そんなことは分かってるよ……! でも……)
悠希は唇を引き結んで下ろした拳を握り締める。
何故これほどまでに悠希が警察などの大きな組織に頼ることなく、森達を倒そうと考えているのか。
それは、悠希が森達を許せないからだった。
凛を脅迫して半ば殺そうとしたり、龍斗に暴力を振るって気絶させたり、千里と黒川を龍斗と同じ部屋に閉じ込めたり。
森は悠希に関係する人ばかりを苦しめてきた。
そんな森が、悠希は許せないのだ。
だから、何としてでも自分の力で森達を倒したいと思っているのだ。
「……だよな。じゃあ止めとくよ」
悠希は笑って鼻を触った。
悠希の言葉を聞いて、早絵は満足そうに頷いて笑顔を見せた。
「うんうん、その方が良いよ〜」
そう言って早絵と笑い合う悠希を、茜は椅子に座ったままじっと見ていた。
「よしっ、じゃあ帰ろうぜ! 悠希も止めるって言ったことだしよ」
龍斗が制カバンを肩に背負って、椅子から立ち上がった。
※※※※※※※※※※※
そうして帰路に着いた四人。
分かれ道に差し掛かったところで、早絵が手を振った。
「じゃあ、私こっちだから」
「うん、バイバ〜イ」
茜がそれに手を振り返して応える。
「あれ? 茜もそっちじゃなかったっけ?」
そのままその場に留まる茜を見て、龍斗が疑問を口にした。
「ああ、うん。そうなんだけどね……」
茜は龍斗をちらりと見上げてから顔を伏せ、そして今度は悠希を見上げた。
「悠希」
「ん?」
悠希はずり落ちそうになった制カバンを背負い直しながら問いかける。
茜は悠希から目を逸らして大きなため息をつき、腕を組んで悠希を見上げた。
「嘘、つかないでくれる?」
茜の鋭い視線が悠希を突き刺した。




