表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/188

守るための暴力

総合アクセス10800PV、総合ユニーク4200人突破しました!

ありがとうございます!

「先に森達と戦うってどういうことだよ」


 龍斗(りゅうと)が悠希の言葉を繰り返す。


「そのままの意味だよ。森達と戦ってる間に少年院を巻き込むんだ。ちょっと悪い言い方だけどな」


「巻き込むって……壊すってことか」


 考えた上で、結局悠希の最初の発言に行き着く龍斗。


「ってことは、建物を壊せるくらいドンパチやるってこと!?」


 刑事ドラマに出てきそうな言葉を使って(あかね)が驚く。

 悠希は指をパチンと鳴らして『正解』と言ってから、


「もちろん皆を巻き込むわけじゃないよ。森達と戦うのは俺だけだ」


「あ! また一人で背負い込もうとしてる! そういうところがダメなんだよ? 悠希くん」


 指を鳴らしてカッコよく決めたところを早絵(さえ)に注意されて、悠希はしゅんと肩をすくめる。


「だってそれしかないだろ……」


 ボソボソと呟く悠希を見て腕を組み、早絵は説教を開始する。


「ダーメッ! 陰陽寺(おんみょうじ)くんの時に痛い目見たでしょ? まだ懲りてないの?」


「こ、怖いよ早絵……」


「ふざけないでっ!」


 確かに早絵の言い分は最もだが、悠希だけが森達と戦うことも作戦のうちなのだ。

 ここを否定されては、もう一度作戦を練り直さなければならなくなる。


「だってそのつもりで色々考えてたのにさ、それが崩れたら……」


「じゃあ考え直そう。一緒に」


 悠希が無茶を考えないように『一緒に』を強い口調で言って早絵はにこりと微笑む。


「早絵って鬼だったんだな」


「いや、この場合は母親でしょ」


 幸いにも、二人でこそこそと言い合っている龍斗と茜の声は早絵には聞こえていなかった。


 そしてそんな四人をせき止めるように、昼休み終了を知らせるチャイムが響いた。


 弁当箱を片付け、教科書とノートを取り出して午後の授業の準備を始める悠希。


(ったく、せっかく昨日麗華(れいか)ちゃんに頼んできたのに意味無くなるじゃないか)


 悠希が麗華に頼んだこととは何なのか。

 それは、昨日の夕方まで遡る____。


 ※※※※※※※※※※※


「えっ、銃の使い方を教えてほしい、ですか?」


 夕暮れに染まる病室で、麗華が驚きの声をあげた。

 悠希はベッドの上の彼女に頷いて、


「俺が使いたいんだ。森達と戦うために」


「そ、そんな、無茶ですよ! だって、森さんは(りん)さんを脅迫したヤバイ相手なんですから。そんな人に手出すなんて……あ、痛っ!」


「おい、大丈夫か? あんまり動かすなって先生に言われてたんじゃないのか?」


 麗華は身ぶり手振りで必死に、森がどれだけの人物かを説明する。

 だが皮肉にも麗華の腕は完治しておらず、振り回したことによって傷口に痛みが走り、麗華は声をあげて腕を押さえた。


「言われてますよ……ついですよ、つい」


 包帯の上から腕を擦りながら、麗華は痛みに顔を歪める。

 そして、ハッと思い出したように悠希を見上げた。


「そ、それに、それなら何でさっき皆さんにも言わなかったんですか? 皆で協力するんですから、わざわざ私と二人きりの時に言わなくても」


 出口の引き戸に視線を移し、麗華は悠希に尋ねた。

 さっき、龍斗、茜、早絵、そして未央と凛が出ていったのだが、何故か悠希だけが麗華の病室に残ったのだ。

 麗華に、銃の使い方を教えてもらうために。


「皆には心配かけたくないんだよ。そんな危ない事に手出すのは俺だけで良い」


 微笑みながらも哀しそうに俯く悠希を、麗華は見つめる。

 麗華は、悠希が何でも一人で突っ走って全部自力で解決しようとする性格だとは知らない。

 だが、今の悠希の言葉を聞いて直感的に確信したのだろう。


「もしかして悠希さん、そういうタチですか?」


 俯く悠希の顔が見えるように、覗き込むように首を傾げて尋ねた。


「え?」


 悠希が顔を上げると、麗華は瞑目し人差し指を立ててこれ見よがしに喋り始めた。


「皆には迷惑も心配もかけたくない。だから傷付いたり危ない事に手を出すのは自分だけで良いって思ってるでしょ?」


「い、いや、別に……そんな大層な事じゃないけど」


 頬を掻いて悠希は誤魔化す。


「駄目ですよ、一人で突っ走ろうなんて」


 麗華はただまっすぐ前を見つめたまま、優しく言った。


「父も、そうだったんです」


 麗華の切ない呟きが、沈黙の内に落とされる。

 悠希はハッとして麗華の横顔を見つめた。


「ずっと考えてたんです。何で父が私に暴力を振るってきたのか。私が父の心の琴線に触れるような言動をしてしまったのか、もっと別の何かなのか」


 麗華は俯かない。もう心が決まっているかのように、ただ前だけを見つめて語り出す。

 悠希なら俯いて話していたであろう事を、麗華は俯かずに。


「今だったら分かります。……というより、本来ならすぐに気付けたことでした」


 頬を緩めて、麗華は情けなく笑った。


「父はいつも一人で抱え込んで突っ走る人だったんです。無口だしあまり感情も表に出さないから周りからは気付かれにくいんですけど。『犠牲は自分だけで良い』それがモットーみたいな人でした」


 麗華の頬がだんだん紅潮していく。

 父を懐かしむような、かつて憧れていた人物を思い出すような、優しい笑みを浮かべて。


「森さんが私に手を下す前に父が私に手を下して、私を森さんから守ろうとしてくれたんですよ。あの時の森さん、怒り心頭って感じでしたから」


 森のせいで自分の娘が傷付くのをどうしても避けたかった父、和泉(いずみ)は、森が手を出す前に自ら麗華を傷付けたのだ。


 ずっと麗華は、父が何のために自分に暴行してきたのか考えていた。そして、ある一つの可能性に辿り着いた。

 麗華がずっと見てきた、麗華しか知らない父の性格から考えて、『あれは私を守るためにやってくれた事だったんだ』と。


「勿論少しは傷付いてますよ。父に暴力を振るわれて。痛かったですし辛かったですし。でも父の真意……私の憶測ですけど、それが分かったらどうしても父を憎む気持ちにはなれなくて」


 突然の痛みと苦しみ。

 それを他の誰でもない父が与えてきたという事実。

 それは消えないし、そのせいで麗華は悩み苦しんだ。

 だが、今なら父を許すことが出来る。

『父なら間違いなくそうした』と素直に認められるから。


「あ、自分の話ばかりでごめんなさい。何か、悠希さんには何でも喋っちゃいます」


「良いよ。俺も麗華ちゃんの本当の気持ち知れて嬉しいし」


「……教えますよ。銃の使い方」


「えっ!? 本当に!?」


 驚く悠希に吹き出しながら、麗華は笑顔で顎を引いた。


「森さんが危険なことを考えているなら、皆を守るために戦いましょう。守るための暴力も、時には必要ですから」


 ※※※※※※※※※※※※※


(って言ってくれたのにな……)


 悠希は授業を受けながらがっかりした。


(帰る時にもう一回説得するしかないか)


 麗華が本当の気持ちを話してくれた以上、それを無駄にするわけにはいかない。


 悠希は覚悟を決めた。

 まずは身近な人を説得することからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ