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牢獄から出すには

 その日の夜。

 麗華(れいか)の病院から帰ってきた悠希(ゆうき)は、ベッドに腰を下ろしていた。

 未央(みお)(りん)、麗華の三人に、森の組織を壊滅させる作戦を話すと無事に手伝ってもらえることになった。

 今回の作戦では真剣に森達と戦うつもりでいるため、三人の協力が不可欠だったのだ。


「問題はあの二人か……」


 悠希はため息をついた。


 一時期、世間から『破壊者』と呼ばれていた二人。

 未央達の協力よりも重要になってくるのがこの二人の参戦である。


 一人目は、悠希達の高校に転校してきた陰陽寺(おんみょうじ)大雅(たいが)

 思い出す。最初に会ったときに感じた冷たい視線を。

 ただならぬ違和感と寒気を。

 早絵(さえ)を刺して生死の崖っぷちに追い込み、(あかね)を一夜監禁した彼は、あの炎に包まれた体育館の中で悠希に真実を伝えてくれた。

 最初こそ偽りだった過去でさえ、後悔の涙を流しながら。

 自決に踏み切ってから病院で警察に確保されるまで、彼の口から謝罪の言葉は出なかった。


「会ったらちゃんと謝ってもらわないとな」


 特に、早絵と茜には大雅のせいで傷付いて苦しく辛い思いをした過去がある。

 その事について、彼本人の口から謝罪を聞きたい。

 悠希はそう思った。


 そして二人目は、悠希の帰宅途中に突然目の前に現れた少年、百枝(ももえ)咲夜(さくや)

 咲夜は最初、姉の花奈(かな)を探してほしいと頼んできたのだ。

 そして次に相談されたのは、咲夜に友達がおらず、家庭環境も良くないということだった。

 親身になって相談に乗っているうちに、咲夜が殺人を犯していたことが判明。

 ついには悠希まで拉致されて倉庫のような場所に閉じ込められてしまった。

 だが、そこで悠希は咲夜の本当の気持ちを知り、それを母千里(ちさと)を含む警察に伝えることに成功した。


 今も大雅と咲夜は少年院で生活している。

 その二人を少年院から出すことが一番の課題であるのだが。


「それが難しいんだよな……」


 呟き、悠希はまたもため息をつく。

 大雅も咲夜もまだ少年院に入院して一年足らずだ。

 少年院を退院できるのは入院してから最低一年後。


「少年院に掛け合うって言うのも無理っぽいしな」


 悠希はベッドに仰向けに倒れこんだ。


 今考えたのは、悠希が直接少年院に赴いて、そこの責任者にでも大雅と咲夜の一時的な外出をお願いする、という手段だ。

 しかしそんなに簡単にいくわけもないだろう。

 もしもそれが可能ならば少年院という施設として問題があるからだ。

 大雅と咲夜を何とかして少年院の外に出して、かつ悠希が立てた作戦に協力してもらうように頼まなければ、悠希達は森率いる地下組織と対等に戦うことができない。

 どうやったらそれを可能に出来るだろうか。

 悠希は考えを巡らせ、頭をフル回転させた。

 そして、一つの方法を思い付いたのだった。


 ※※※※※※※※※※


「えっ!? 少年院をぶっ壊すだと!?」


「おい、大声出すな、聞こえるだろ」


 思わず大声を出した龍斗(りゅうと)の口を強引に塞ぐ悠希。


「おわっぶ!? わ、悪ぃ悪ぃ……悠希がふざけたこと言うからよ」


 口を塞がれて情けない声を出しながらも、龍斗は悠希に責任転嫁。

 そんな龍斗の口から手を離し、悠希はその腕を組んで、


「ふざけてない。俺は本気だ」


「いや、お前が本気なのは分かってるよ。でもだからってあまりにもふざけてるだろ。だって……少年院をぶっ壊すんだろ?」


 今、悠希と龍斗が話しているのは昼休みの教室。

 当然、周りには他の生徒もたくさん居る。

 龍斗は周辺をキョロキョロと見回してから悠希に耳打ちした。


「ああ。そうじゃないと陰陽寺と咲夜くんに協力してもらえないからな。ちょっと思い切って」


「思い切り過ぎるだろ……」


 真剣な表情で頷く悠希に、龍斗は呆れて息を吐くように言う。


「でも悠希の言う通り、建物壊すしか他に方法無いでしょ」


 弁当のおかずを口に運びながら、茜が悠希に賛同の意を示す。


「えっ!? 茜までそんなこと言うのかよ!」


「だってそれしかないじゃん」


 驚き目を見張る龍斗に、茜はさも当然と言わんばかりにおかずにパクつく。


「ちょっと野蛮だけど、でも直談判とかだと時間かかっちゃうもんね……」


「早絵さん!?」


 龍斗は大声をあげて早絵を見張り、顎に手をやって吐息。

 思わず早絵に敬称をつけてしまったことには気付かないで、


「何で早絵まで賛成しちゃってんだよ……」


「だって……。それ以外に方法思い付く? 龍斗くん」


 早絵に問われて龍斗は瞑目し、考えを巡らせる。


「い、いや、すぐには、出てこねぇけど……」


 だが、すぐに『少年院を壊す』に勝るような解決策は思い付けずに口ごもってしまう。


「でしょ?」


 勝ち誇るでもなく、賛同を強制するわけでもなく、早絵は小首を傾げて短く尋ねる。


「だ、だからって野蛮過ぎるだろ。お前ら、自分達が何言ってるのか分かってる?」


「分かってる」


「当たり前じゃん」


「この際は仕方ないよね」


悠希、茜、早絵が口を揃えて即答。


「マジか……正気か……」


龍斗は未だに信じられずに頭を抱えた。


「で、どうやって少年院壊すの? 私達、何も武器とか持ってないじゃん」


「確かに。どうするの? 悠希くん」


 龍斗をスルーして茜と早絵が尋ねると、悠希は頬を緩めた。


「先に俺達で森の組織と戦うんだよ」


「えっ!?」


 悠希の発言に、龍斗だけではなく、今度は茜と早絵も驚きの声をあげた。

今日は12時投稿できました!

良かった!

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