悠希の策
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千里と黒川が龍斗の病院にお見舞いに訪れてから数日後。
無事に龍斗は退院し、学校にも通えるようになった。
「おはよう、龍斗」
今日は珍しく悠希の方から迎えに行っていた。
「おはよう、悠希。珍しいな、お前の方から迎えに来てくれるなんてよ」
龍斗はドアを閉めながら笑った。
「当たり前だろ。病み上がりなんだから心配なんだよ」
「それはそれは。すまねぇなぁ」
ガッハッハと笑って龍斗は悠希の背中をバシッと叩く。
叩かれた反動で前のめりになり、もう少しで転けそうになるのをすんでのところで踏みとどまって、悠希は唾を飛ばすくらいの勢いで叫んだ。
「いってぇな! ちょっとでも心配してやった俺の心遣いを返しやがれ!」
「アッハッハ! 悪い悪い」
龍斗は頭を掻いて笑った。
いつも悠希は龍斗からこの攻撃を受けていて慣れているのだが、今日ばかりは状況が違う。
病み上がりの龍斗を心配して、色々と不都合もあるだろうと思って、こうして悠希の方から龍斗の家に赴いたのだ。
それなのに背中を叩かれては本気でキレてしまう。
『ただ背中を叩かれるだけじゃないか』と思われることが多いのだが、悠希にとってはそんな想像を軽く越えるくらい痛いのだ。
甘く見ている周囲の人々にも龍斗の【紅葉】を体験してほしいという密かな思いを抱きつつ、悠希は反省の色無しの龍斗をじと目で見ていた。
※※※※※※※※※※
「あっ! 龍斗! 久しぶり!」
教室に入ってきた悠希と龍斗を見て、茜と早絵が手を振った。
「おはよう、龍斗くん。もう怪我は大丈夫なの?」
早絵が挨拶をした後に心配そうに尋ねた。
悠希が事前に二人にも龍斗が拉致されたことを知らせていたのだ。
勿論それを知らされた二人はそれ相応の反応をしていたが。
「おう。もうこの通りピンピンしてるぜ」
龍斗が腕を曲げて二の腕を膨らませてみせた。
運動部の龍斗は少し運動をしていなくても二の腕に筋肉がついているのだ。
それを見て早絵がホッと胸をなでおろした。
「そっか。良かった」
「なんだ、心配して損したよ」
机に頬杖をついて不満そうにしながらも、茜も安心したように笑みを浮かべた。
「へ~え、茜、俺のこと心配してくれてたのか。サンキューな」
茜に心配されたと分かり、龍斗は急ににやけ始める。
それを見た茜がうえっと顔を歪ませてあからさまに嫌な顔をする。
「別に心配っていう心配じゃないし。龍斗の心配じゃなくて怪我の心配ね」
「俺の怪我の心配ってことは、怪我を通じて、俺の心配もしてくれてるってことだな」
「違うから!」
あくまでも龍斗を心配したわけではないと主張する茜。
龍斗のポジティブ・シンキングも断固として否定して、茜はぷいっとそっぽを向いた。
「なんだよ~違うのかよ~」
龍斗はそんな茜を見て唇を尖らせた。
「当たり前でしょ」
「ま、まぁまぁ、二人とも」
お決まりの早絵による仲裁の甲斐あってか、茜はようやっとこちらを向いた。
「そうだ、放課後みんな時間あるか?」
悠希が龍斗達三人に尋ねると、三人ともコクリと頷いた。
「何かあるの?」
きょとんとした顔で、早絵が尋ねる。
悠希は首をかしげて軽く笑いながら、
「う~ん。何かあるってわけでもないけど、改めて皆で話したいなって思って」
「もしかして、森達のことか?」
珍しく察しの良い龍斗が尋ねる。
明日は嵐だろうか。
そんな冗談はさておき……。
悠希は龍斗の問いかけに頷いて続けた。
「今回あいつらが龍斗を拉致監禁、おまけに暴行した関係で、母さん達警察が必ず動いてくれるはずなんだ。それに便乗して俺達も森達に正義の制裁を下してやりたいんだよ」
「何か正義のヒーローみたい」
頬杖をついたままの茜が呟く。
早絵はそんな茜に苦笑しながら、悠希の方に向き直って、
「でも実際、悠希くんって本当に正義のヒーローなところあるよね。陰陽寺くんのことも止めてくれたし、咲夜くんのことも改心させてくれたし」
今までの悠希の功績を振り返って、早絵が過去に思いを馳せる。
「ハハハ。そんな大それたもんじゃないよ。俺達がやらないと色々まずいことばかりだっただろ?」
いきなり早絵に褒められた悠希は、ほんのり頬を赤らめながらも頭を掻いて言った。
「まぁ、確かにね。でも悠希がやってくれたからこその今だし、何にせよ悠希のおかげだよ」
茜が笑って言った。
「さ、サンキュ」
茜にも褒められて悠希は恥ずかしそうに頬を掻いた。
悠希からしてみれば、正義のヒーロー気取りで色々やったのではない。
ただ単に自分がやらなければ周りに被害が及ぶ状況だったから、というだけなのである。
と、そこで朝礼を報せるチャイムが鳴ったので、四人は別れてそれぞれ席についた。
※※※※※※※※※※※※
そして約束の放課後。
四人は教室に残って今朝の話の続きをしていた。
今朝の話と言っても、悠希を褒め称えて終わったため、あまり内容のある話にはならなかったのだが。
まず始めとして、龍斗が自分がどうやって拉致されたか、一度脱出を試みたが呆気なく失敗して森にバレてボコボコにされたこと、目を覚ましたら病院に居て、千里と黒川が奮闘してくれたと知ったことなどを、主にこの先の事情を知らない茜と早絵に伝えた。
龍斗が部屋の窓を割って脱出しようとしたことについて、『そんなことしたらバレるって分かるでしょ』と茜は文句を言っていた。
だが、龍斗にしてみれば、一か八かの脱出だったのである。
「それでもし脱出できたら、それに越したことはねぇだろ」
「でも実際は脱出できなかったんでしょ?」
茜に核心をつかれて、龍斗は言い返す術もなく肩を落としてうなだれた。
「まぁまぁ。私達は詳しいことは分からないけど、今こうやって生きてられるんだから嬉しいことじゃない」
相も変わらず、聖女のような発言をする聖女・早絵。
「仮に森が逮捕されても、あの組織自体を壊滅させなきゃ意味はないんだ。森の志を継いで新しい組織を発足させる奴が現れたら困るからな」
三人のやり取りを華麗にスルーして、悠希は本題を話し始めた。
「でも壊滅させるって言っても、具体的に何するんだよ」
龍斗が尋ねると、悠希は意味ありげに口角を上げて言った。
「こういう時こそ破壊者の出番だ」




