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拘束

総合評価285pt、総合アクセス9000PV突破ありがとうございます!

 暗闇の中で目を覚ました龍斗りゅうとの頭上から、低い男の声が降ってきた。


「あ、森さん。起きましたよ、こいつ」


 やがて鮮明になっていく意識の中で、龍斗は丸刈りの男を見上げていた。

 横になっている時以外に見る事のないであろう角度と、背中に伝わる冷たい肌触り。

 これらから考えると、明らかに龍斗はベッドか何かの上に横になっていた。


(て、ていうか、誰だこいつ)


 目覚めてすぐに目に入った丸刈りの男に困惑するしかない。

 見知った相手ならまだしもこの男には全く見覚えがない。

 そしてこの男が発した『森さん』という人物にも勿論心当たりは無い。

 さらにこの部屋。いや、部屋と言うべきかは判断しかねないところだが、目覚めても辺りが薄暗いのは変である。

 おそらくどこかの隔離所かそこらだろうと、龍斗は目だけで辺りを見回しながら見当をつけた。


 そして次に、自身に起こったことについて必死に思い出そうと思考を巡らせる。

 こんな状況に陥ってしまったのには、何か理由があるはずだ。


(俺、何してたんだ? 確か()()は普通に学校行って……悠希ゆうき達と帰ったよな。いや、違う)


 龍斗が自分の記憶の間違いに気付き、続きを思い返そうとしていると、


「やぁ、坊主。よく眠れたか?」


 太った男が龍斗の顔を覗き込んだ。


「え? は、はい……。どなたですか?」


 突然現れた太った男に、龍斗は困惑しながらもその正体を尋ねた。


「俺は森という者だ」


 やけに笑顔を浮かべながら、森は言う。


(森……?)


「あっ! お前……!」


 龍斗は暫く考えてから、森という男が既に見知った相手だったことに気付き、思わず声をあげた。

 そしてこの男に丁寧な敬語など不要ということにも気付いた。

 森は、それほど龍斗達にとって敵対すべき男なのである。


 かたや森は自分を睨む龍斗を面白がるように笑い、


「やっと気付いたか。それにしてもお前、眠りが深かったな。やっぱり高校生相手では少しばかり強すぎたか。丸三日ぐっすりだったぜ」


「三日……? 俺、三日もこんな所で寝てたのか。ていうかここどこだよ! 何で俺をこんな所に連れてきた!」


 龍斗は相手が敵だと分かり、立て続けに問いただしていく。


 森は以前、丸刈りの男と共に麗華れいかのお見舞いに病院を訪れていて、龍斗達とロビーですれ違った事があるのだ。

 そして龍斗達は、未央みおから森という男がいかに残虐で酷い男かということを聞かされていた。

 同時に、道中気を付けろと忠告も受けていた。


「そうか、俺、家に帰る途中に気を失って……気付いたらここで寝てた」


 龍斗は自分が横になっている硬いベッドに手を触れて呟く。

 そして、自分を気絶させたのがこの森と丸刈りの男だと分かった。


「お前らが俺を気絶させてこんな意味の分からねぇ所に連れてきたんだろ!」


「お見事。正解だ」


 ベッドの上で体を起こして声を荒げる龍斗をわざとらしく褒め称え、森は悪戯そうな笑みを浮かべる。


「ここはどこだ! 何で俺を連れてきた! 早く家に帰らせろ!」


「まぁまぁ、そう慌てるなよ。どちみち今は夜だ。未成年を暗い外に放り出すほど俺らも鬼じゃないんでな」


 苛立ちのあまり森に掴みかかりそうになる龍斗を抑えて森は両手を上げて降参のポーズ。

 そして壁についている小窓を指した。

 そこから見えたのはすっかり日が沈んだ夜空だった。

 龍斗はそれを目にしてようやく今が夜だということを察した。

 だが、今はそれよりも目の前の森に対する怒りが勝っている。


「ふんっ! 未成年を気絶させて拉致した奴が言えたことかよ」


「心外だな。俺らにとっちゃ当然の配慮なんだぞ。一番厄介そうな代物を先に潰して何が悪い」


 さも当然と言わんばかりに目を瞑り、呆れるように息を吐いて森は言う。


「何言ってんのか俺にはさっぱりだが、とりあえず夜でも何でも良い、早く家に帰らせろ。こんな居心地の悪い所に居られるか」


 そう言いながら立ち上がり、森と丸刈りの間をぬって部屋を出ようとした龍斗だったが、


「おっと、下手に動くと首が飛ぶぜ」


 その声に振り向くと、丸刈りが真っ黒の銃をこちらに向け、その横で森がほくそ笑んでいた。


(くそっ……。あくまでも俺を拘束するつもりか)


 歯を食いしばり、龍斗は仕方なく立ち止まる。

 ドアは目の前に見えている。

 だが、森の発言が事実ならば、ここから足を一歩踏み出したところで龍斗の人生は終わるだろう。


(せっかく拘束されるんだ。ここは洗いざらい聞いてやるか)


 ここで死ぬのは御免だ。

 龍斗はそれならばとこの狭くて暗い部屋を出た後に役に立つように手を回そうと考えた。

 森や丸刈りから色々聞き出しておけば、組織滅亡の良い足がかりになってくれるはずだ。


「分かった。逆らうような真似して悪かった」


 言いながら龍斗は両手を上げて再びベッドへと戻る。


 丸刈りは警戒しているのか龍斗に銃を向けたままである。


「坊主、お前なかなか素直じゃねぇか。こっちとしても扱いやすくて助かるぜ」


 森が手を叩き太ったお腹を揺らして高笑いする。

 そんな彼を見て、人をモノ扱いする神経に内心で呆れながらも、


「て言っても、ここがどこなのかとお前らが何者なのか分からねぇことには従いようもねぇわけなんだ。教えてくれねぇか? 森さん」


 普段使わない頭をふんだんに回転させつつ、龍斗は森に尋ねた。

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